4話
あかん短い……
すいません!
「ん?」
昨夜、仮眠と言いつつ爆睡してしまったため完全に上りきった日の下を歩いていると、何やらピリッとした感覚が頭に走り、俺は首をかしげた。
まるで静電気が流れたような……いや、感覚がしたことのすら疑わしいほどの微かな感覚。
なんとなく周りを見てみたが、原因らしいものは分からなかったため、とりあえずは放置しておくことにした。
「……ん?」
今度は、別の理由で声が出た。
3メートルほど前方にある岩が、もぞもぞと不自然に動いているのだ。
一瞬岩竜が頭を過ったが、他の岩は動いていない。どうやらそういうわけではないようだ。
念のため警戒しながら近づくと、それは、岩を被った巨大なヤドカリのような生き物だった。
デカイ上、岩をヤドにするとは珍しいな。魔物なのだろうか。
そんなことを考えながら見ていると、頭の中に情報が流れ込んできた。
「ロッククラブ……8レベル?」
まるで初めから知っていたように、このヤドカリ──ロッククラブの事がわかる。
あれか? ラノベでよくある、ステータスを覗き見る的なやつ。
というか、岩竜の時はパニクり過ぎて突っ込みを入れ忘れていたが、この世界にはテンプレ通りレベルがあるのか。
ロッククラブのレベルと比較してわかったが、やはり岩竜はかなり高レベルだったみたいだな。
「えっと……攻撃性は無く、岩のヤドに身を隠す蟹型の魔物……やっぱ魔物居たんだな。その身は非常に美味……美味?」
思わず腹が鳴る。そういえば俺、昨日から何も食ってねえんだよな……
食指をそそられロッククラブを見ると、何を感じ取ったのか素早く岩に身を隠した。
確かに、この直径50センチはある岩に隠れられると厄介だな。
しかし、同じくらいの大きさの岩なら周りに腐るほどある。動かないなら楽勝じゃないか?
試しに、その辺のソフトボール大の石を拾ってロッククラブに叩きつけてみる。
が、
「堅っ!」
びくともしなかった。
どうやら、ロッククラブのヤドはただの岩ではないらしい。
となると、もっとデカイ岩の下敷きにするしかねえな。
いい加減邪魔になってきた制服のブレザーを脱ぎ、ロッククラブに巻き付けて地面に固定しておく。
後は岩だ。
「ふっ……お、重いな」
適当に見繕った、バランスボールほどの大きさの岩を転がしていき、ロッククラブを下敷きにする。
ペキョ、っと少々グロテスクな音が響き、岩が割れた。
良かった。
ようやく飯にありつける。
が、いくら腹が減ったとはいえ、さすがに魔物扱いの生き物を生でいく気にはなれない。
まぁ、これだけ日が照っていれば岩である程度焼ける気がするけどな。
水はブレザーのポケットに入っていたビニール袋に入れてあるし、これで少しは満たされるか。
ヤドカリのような習性をしているくせに、見た目は完全に蟹であるロッククラブの足を剥き、プルンとした透明な身を洗った岩に置く。
「おー、焼けてるな」
やはり熱いようで、少しずつ、身が白く色づいていく。
こんだけ熱を持つほど日が照ってるってのに、さほど暑くないのも不思議だな。
……そろそろ焼けたか?
岩ばかりの荒野だが、もちろん岩塩なんかないのでそのまま頂く。
「! うまい……」
若干砂がジャリジャリするが、味は完全に前世の蟹と同じ……いや、それ以上だと言える。
生まれてはじめて、素材の甘さを知った気がする。
まぁ、知るほど蟹を食ってないということもあるが。
ただ、食料を無駄に浪費する訳にはいかないので、成長期の胃を押さえて足一本で我慢しておく。
正直キツいが、生き残るためには仕方ないな。
「さて、先を急ぐか」
あまり時間を使うのも良くない。早く遺跡に戻らなくては、いつ強力な魔物に遭遇するかわからないからな。
もうひとつのビニール袋に、火を通したロッククラブの身を入れて立ち上がる。
「おっ……とっ!」
小石を踏みつけてしまい、バランスを崩すのをギリギリ近くの赤っぽい岩を掴んでこらえる。
危なかった……こんなゴツゴツした地面で転んだらどんなに痛いことか。
さぁ、気をとりなおして、再出ぱ…………
『グオオオオ!』
……下らないところでお約束やるなよ、俺……
『グオッ!』
「うおわっ!!」
その後、俺はしばらく岩竜から逃げ続け、なんとか撒けたのは日が暮れてからだった。
……発作が出なくて良かった。