3話
少し短いです。
──痛い。
頬や体に、ゴリゴリと地面の岩が食い込んで痛い。
つーか制服が破れそうなんだけど。異世界でどうやって直すんだよ。
いってぇ! 今なんかツボみたいなとこに岩が入った。
ツボで健康なんて目指したくねえよ痛てぇし。
ん? ちょっと待て。
…………痛い?
「っ!?」
俺、生きてるのか?
あの絶望的な状況で?
! そうだ、岩竜!
「……居ない」
周りには、ただ岩が転がっているだけだった。あの岩が動き出して岩竜になったんだよな。
……夢か? いや、普通に発作痛かったしな……脱水症状かなんかでボーッとしてたのか?
「……とりあえず、戻るか」
この状況の推測は戻った後だ。いろいろと話しておきたいこともあるしな。上田なら、もう動いてるかも知れんが。
「よっと……あ?」
倒れていたからか、少しだるい体を立ち上がらせると、あることに気づいた。
……遺跡が見えねえ。
おいおいマジかよ。平野なのに見えなくなるとか、100km単位の距離だぞ。
中心に近づく毎に森との距離は狭まっていくが、最早そんなもんわかりゃしねえ。
というか森すら見えねえ。
しかも、ご丁寧なことに太陽の位置では方角がわからないと来たら、一か八か、どっちかに進むしかない。
「果てしねぇな……」
ひたすら歩き続けるってのはなかなかキツい。しかも終わりが見えないのが、キツさに拍車をかける。
休憩を挟んでも良いが、もう日が傾いかけてきている。道のりの長さがわからない以上、できるだけ距離を稼ぎたいんだよな。
……遺跡と逆方向に歩いてる可能性はあるが。
願わくば、この方向が遺跡に向かってると信じよう。
「──で、あいつは居たのか?」
まるで隠すようにカモフラージュされた洞穴で、少年は目の前の少女に問いかけた。
「居なかった。集団の中も一応見たけど……」
「今回もハズレか……」
「……諦めない」
闇の中でも強く光る白銀の目が、月明かりを漏らす洞穴の出口を睨む。
焦燥が伝わってくる少女の様子に、少年はため息をついた。
「当たり前だろ。見つけるまでやり続けるんだ。あの世界に居ることは間違いないんだからさ」
「……わかってる」
「それに、集団の中に居ないってだけで、もしかしたら成功してるかも知れないしな」
「!」
少年の言葉に、少女の目が大きく見開かれる。
「あいつが見つかればすぐに計画は実行できるんだ。焦らないでいこうぜ」
「……ん」
「じゃ、今日は寝たほうが良い。疲れも溜まってるだろ」
「いい。一応、遺跡の周り見てくる」
「おい。焦んなって言ったばかりだろが」
「……聞いてない」
「おい! ……あーもう。相変わらず、やりだすと聞かないな……」
少年の呆れたような声を背に、少女は駆け出した。
すっかり日は沈み、紺碧に染まった夜を照らす満月に、少女の小柄な体が重なりその姿を露にした。
「…………絶対……絶対に見つけるから、待ってて──ユウキ」
銀色の髪を持つ少女は、まるで願い事をするように、その言葉を呟き続けた。
「疲れた……」
先ほど見つけた水溜まりから水分を補給し、ようやく一息つけた。今日はここで野宿になりそうだ。
経験がないからというのもあるが、正直、サバイバルをなめてたな。普通に移動するのと、気を張って移動するのとでは疲労が段違いだ。
移動の最中に遭遇することは無かったが、魔物が居るという可能性は捨てきれない限り、気を緩める訳にはいかない。
まぁ、岩竜とは遭遇してしまってるのだが、まだ現実だと確信がないからな。
とりあえず夢ではないのは確実だが、だからといって幻覚でもないだろう。
発作の痛みは紛れもない本物だったし、あの翼爪の攻撃で飛んできた石礫も痛かった。
正直、ほとんど現実ではないかと思ってはいるのだが、怪我が一切無かった事が気がかりなのだ。
気絶した俺を死んだと勘違いして見逃したなら良いが、そうなると移動していた理由が説明できないし、散々弄ばれて捨てられたなら移動はするが、今度は怪我をしていない理由がわからなくなる。
って、よく考えれば今座っているこの岩も岩竜かもしれないのか?
……いや、囲まれた時はテンパっていたが、思い返してみると岩竜が発生していた範囲は限られていた。
それに岩竜の岩は、なんというか、普通のものよりも赤っぽかったような気がする。赤い岩が岩竜の体なのか?
赤い岩なら、道中にいくつか見つけたが、万一のために触らないでおこう。
……せめて、意識がはっきりしているときに魔物が見れたら一発なんだがなぁ。岩竜はもうこりごりだが。
「あー……眠」
よく考えたら、半日も歩き続けたのは初めてだ。もう少し考えておきたいが明日もあるし、少し仮眠をとるか。
ちょっと展開早いですかね?
次回の更新は明後日になりそうです。