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これが私の生きる道  作者: さく
第1章第2部
8/19

私と友達と少年とその脅威

「なーぎーさ!おっきろー!!」



 耳元で叫ばれて意識が覚醒した。少し痛む耳とバクバク拍動を繰り返す心臓を押さえて、私の耳元で叫んだ結愛に強めのチョップを繰り出す。



「……うるさい……」


「いったぁ!?えっ!?凄い痛いっ……!!ね、ねぇ渚……私の頭凹んでないよね?ね?」



 大袈裟じゃなく本気で痛がってる結愛を見て、ちょっと罪悪感が湧いたから大丈夫と答え、謝罪の意味を込めて頭を撫でて身支度を開始する。

 水で顔を洗いシャカシャカの枝で丁寧に歯を磨き、服を着て装備を整えて準備完了。髪は昔から何もしなくてもサラサラで寝癖とかがつかないから楽でいい。



「くぉあぁ!何で渚の髪は寝癖とかつかないのさー!相変わらず羨ましすぎるー!!」


「はいはい」



 痛みから回復した結愛が私の髪を見て妬みの叫びを上げるのを流して、ご飯を食べるために下の階に向かう。

 私が歩き始めた瞬間に叫ぶのを止めて、すぐにてくてく私の後を歩く結愛の切り替えの早さに脱帽した。


 一階に着き、食堂の方を見るとカルロ・ベルトが1人寂しく水を飲みながらぼーっとしていた。



「おっはよーカルロ少年!1人寂しく水飲んでどうしたの?」


「あ、おはよう。2人を待ってたんだ」



 私達……特に結愛を見て嬉しそうにしつつ、私を見て怯むカルロ・ベルト。


 自業自得だけどそのあからさまな反応に少しショックを受けてあの夜のことを反省しつつ、どうやって彼の恐怖心を解せるか考えながらカウンターに行って宿屋の人に3人分の朝食をお願いする。

 私が戻ってくると結愛が異様にテンションを上げながらカルロ・ベルトの話を聞いていた。



「どうしたの?」


「あ、渚それがね!カルロ少年がさっき他の宿泊客から盗み聞いた話なんだけど、この村の近くに最近発見された遺跡があるんだって!でも、その遺跡に行く迄に強い魔物が居て行けないんだって!これってさこれってさ!私達にその遺跡に行けってことだよね!!」



 違うでしょ、と言いたいところだけど結愛のキラキラとした瞳を見て開きかけた口を閉ざし、至近距離まで近づいて来ていた結愛の顔を元の位置に戻す。元の位置に戻しても結愛のキラキラとした瞳は収まることはなく、より一層輝きだした。



「ねぇねぇ行こうよ遺跡!探検のロマンが私達を待ってるんだよ!?ワクワクするでしょ!?ドキドキするでしょ!?胸が膨らまない!?」


「胸……?」



 結愛の最後の言葉を聞き、不思議そうに結愛の胸を見ながらボソリと呟いたカルロ・ベルト。その言葉は1人盛り上がってる結愛に聞こえていないみたい。

 ナイスバデーって自称してるけど、自覚はあるのか胸や身長の事を指摘されると暴れるんだよね、結愛って。

 その暴れ方が周りに被害がいかないような類いなのがまだ救いなのかな。基本的に私に被害が来るだけだし。命拾いしたわね、私が。



「お待たせしましたぁ。今日の朝食のメニューはパン屋さんのふわふわパンとベーコンエッグに野菜スープでーす」



 妙に間延びした口調でメニューを紹介してくれた人は、昨日ホットドッグを売っていた、地球からこの世界に来たであろう女の人。

 腰まである髪を大きな1つの三つ編みにしていて、三角巾とエプロンを身につけている清潔な格好。垂れていて大きな黒い眼は優しげに細まり私達を見ている。



「ねぇ、その制服って東高校の制服?」



 私の着ている服を見て聞いてくる彼女の言葉に胸がドキッとした。彼女が言う通りに今私が着ているのは、私が通っている高校の制服を模して作られた服だ。


 この服はシュルイス教の人達が作ったもので、私を含む今回この世界に召喚されたクラスメイト全員が旅立ちの時に渡していると言っていた。

 結愛もこの制服を着てるけど、グランド・ドラゴンのローブのボタンをしっかり留めて着ているから制服が見えていない。


 反面私は、ローブを着ずに椅子に掛けて堂々と制服を外に晒してる。


 東高校の制服は殆ど黒に近い紺色のブレザーに、黒に近い緑を素地に銀・濃緑・濃紺と言った色を使って線を描いているスカートで、スカートと似たデザインのネクタイという暗い感じのもの。

 ある意味でとてもわかりやすいこの制服は見る人が見ればわかると思われるけど、まさか彼女の方から声をかけてくるとは思いもしなかった。


 彼女が私達に声を掛けてきた理由はよくわからないけど、彼女の様子を見るに悪いことにはならないはず……多分。

 彼女の柔らかい笑顔とお日様のような温かい雰囲気が演技じゃないのなら、っていう話だけど。



「ええ、たしかに私は東高校の生徒よ。貴女は海華料理学校の生徒?」



 疑問じゃなくて明らかに確信を持った聞き方だったし、この制服を見て判断したのなら言い逃れは少し厳しい。

 というのも、地球の学校制服のような服はこの世界にはなくシュルイス教の人……総勢300人が1ヶ月以上ほぼ徹夜で解析してから、また2ヶ月ほどかけて再現したもの。


 はっきり言って王侯貴族が着るような服よりも素材が高級で縫い方が特殊、服屋やそれに関係する店に売れば暫くの間遊んで暮らせると徹夜明けでボロボロになったシュルイス教の人に言われた。


 そして、見る人が見れば服の高級さや縫い方の特殊さで注目されるだろうから気を付けろとも言われた。

 それなら渡すなって言いたいところだけど、彼らが制服を再現してくれたのは善意からくるもの。


 着たくなければ着なければいい。私はこの制服が並の鎧より強固でそれでいて柔らかく、そして何より着慣れた制服を着ていたいから着てるだけ。

 それで絡まれても仕方ないし、その時その時で対処していけばいい。



「うん、そうなのぉ。学校に行こうとしたらストーカーの人に滅多刺しにされて殺されて目が覚めたらこの世界にいたんだよねぇ」


「そう……」



 伸び伸びとした言葉遣いでほのぼのと自分が殺されたことを話す彼女に返す言葉が見つからない。


 普通、自分が殺される場面なんかにあったらトラウマとかになるんじゃないの?

 元々気にしていないのか、トラウマを乗り越えて今の彼女があるのか知らないけど。



「あ、自己紹介まだだったよね。私は石川愛美、気軽に愛美とかマナちゃんって呼んでねー。それよりもやっぱり東高校の生徒さんなんだぁ。私以外に地球の人が居て何か安心したよぉ〜」



 そう言って気の抜けた笑顔を見せる彼女は厨房に呼ばれて、私達に挨拶をしてからこの場を去って行った。何かふわふわしてて掴み所のない人だな。



「何か優しそうな人だったねぇ」


「う、うん……」


「おやおや?何顔赤くしてるの?愛美さんに惚れた?でも残念、あの人には既に恋人がいるから諦めた方がいいよ?」


「ち、違うから!」



 少し顔を赤くして石川愛美さんの去って行った方を見つめるカルロ・ベルトを揶揄う結愛に、慌てたように弁解するカルロ・ベルト。


 2人のじゃれ合いを見ながら私は朝食に手をつける。ふわふわで柔らかく小麦の甘みが感じられるパンに、砂糖と牛乳を入れたのか甘くてクリーミーなスクランブルエッグ、塩気がちょうどいいアクセントになっているベーコン、さっぱりとしていて飲みやすいスープは美味しいとしか言葉が見つからない程に美味しかった。


 2人も食べ終わり、食後のお茶を飲んでから丁度厨房から出てきた石川愛美さんに挨拶をして宿屋をチェックアウトする。


 結愛にあっさりし過ぎじゃない?って聞かれたけど、彼女には彼女の、私達には私達の生活がある。その生活の中に無闇に立ち入る必要なんてないし、会いたければまたいつか会えると思う。

 一度繋がった縁はそう簡単に切れはしないってどこかで聞いたことあるし私もその言葉に賛同する。それに、地球からミリニムに来たっていう特殊な共通項もあるしね。


 そうなると、世界各地に散らばったクラスメイト達と何処かでバッタリ会うだろうけど、それはそれ。それに私は今の今までクラスメイト達と碌に関わることなんてなかったし、街中ですれ違ったとしてもお互いスルーすると思う。




 ーーーーー



 旅立ちの準備をしてからミルト村を出て、話に出た遺跡へと向かう為にカルロ・ベルトが調べてくれた道筋を歩く。


 鬱蒼と生い繁った樹々や何処からともなく聞こえてくる鳥や獣、虫鳴き声。所々に綺麗な花が咲き誇り、一部の樹には実が出来ている。

 時々現れるウルフやゴブリンを狩りながら前に進む。カルロ・ベルトも、昨日の情けない姿を見せたことを挽回したいのか積極的に戦闘に参加していた。


 森の中にいるという強い魔物とは出会う事なく、現れるのは弱い魔物ばかり。本当に強い魔物なんているのかと思いながらも、私達を襲ってくる魔物を迎撃していく。


 途中途中休憩を入れながら半日程歩いてると開けた場所が見えてきた。それと同時に巨大な生き物の身体も見えてきた。巨大な極彩色の羽に大きい鎌が樹々の中から垣間見える。大きさは多分4m以上はあると思う。



「うっわぁ、おっきい〜」


「本当ね」


「バタフライ・インセクト……羽ばたきで起こる風と鱗粉、手にある……巨大な鎌、そして風の魔法の脅威……本当だったんだ……こんな魔物が、村の近くにいるなんて……」



 樹が邪魔して全容が見えなく何の魔物かわからないけど、その大きさに感心してる私と結愛とは真逆に、そこにいる魔物の説明を震えがなら説明してくれるカルロ・ベルト。


 その震えようは、アミュレットを装備してなかったら気絶してるだろうと思わせる程に震えていた。そのことを情けないとは思わないし、思えない。



「バタフライ・インセクトだっけ……あれって強いんだっけ?」


「強いってもんじゃないよ……バタフライ・インセクトはランクAの魔物だよ?小さな町ならあっという間に壊滅させることができる怪物だよ、あんなのに勝てるわけがない……」



 バタフライ・インセクト……カルロ・ベルトが言うように小さな町ならすぐに壊滅させる程の力を持つ魔物で魔物の脅威を表すランク……下からF・E・D・C・B・Aの階級分けで1番目を誇るAランクの魔物。


 細かく言えばAランク下位でそのランク内でもかなりの幅があるけど今は関係ない。ただ1つ言えることは今の私達じゃあ絶対に勝てないということ。


 数十年前に闘鑑定師という、戦えて物や生物の詳細を見分ける天職を持った英雄がバタフライ・インセクトのレベルを10数匹計ったことがあるという。


 そのレベルの平均は74……並の人間がまず敵う筈もなく、本来なら最低でも200人、安全を考慮するならその4倍以上の規模で掛かって行かなきゃいけないと言われてる。


 なんでそんな魔物がこんな人里の近い場所にいるの。これが魔物が活発化してきている影響……?もしかしてこんな化物とこれから戦わなきゃいけないの?


 バカ言わないでよ、無理に決まってるじゃない。フォレスト・ベアーやゴブリンキングなんてものとは文字どおり次元が違う。



 この世界なんてギフトと天職があれば楽に簡単に生きていけると思ってた。けど、今の状況はどう?


 私の認識が甘かった。今まで楽に倒せるような魔物を相手にして、殺されかけた事もあるけどそれは圧倒的強さにではなくてまだ対処できる範囲だった。


 今私の前にあるのはどう転んでも死という言葉以外見当たらない、どうしようもない現実。



 結愛もカルロ・ベルトの説明で勉強した内容を思い出したのか、顔を蒼白にして体が小刻みに震えだした。これは何としても撤退しないと。この距離ならいつ気付かれるかわからない……慎重に、慎重に後退しないと。



 頬に流れる冷や汗と勝手に震える体を叱責しながら2人に声を掛けようとしたその時にバキッていう不吉な音と共に『あっ……』と呟いた結愛の声が聞こえた。


 錆び付いたように動かない首を無理矢理動かして結愛がいる方向を見ると、結愛の足元にそこそこ大きな枝があってその枝が折れていた。


 多分踏み抜いたんだろうと漠然と思い、それと同時にさっきまでノソノソ地面を歩いていたバタフライ・インセクトの足音が止んだ。



 枝の折れた音に気付いたのか、それとも偶々立ち止まったのか。後者でいて欲しいと祈る。


 でも、その祈りは叶わず……一瞬の後に暴風が私達を襲った。

咲森 渚 17歳 女


Level45


役職:女子高生


天職:魔剣士


スキル:ポーカーフェイスlv6 料理lv6 平常心lv7 気配察知lv6 痴漢耐性lv6 身体制御lv5 魔力操作lv6 縮地lv5 斬術lv7 喧嘩殺法lv6 投擲lv3 疾風斬りlv5 居合いlv5 二連撃lv3 五月雨斬りlv2 十字斬りlv3 疾風衝lv5 疾風乱舞lv1


スペル:焔魔法ー焔の矢 焔の壁 焔の槍 焔の豪球 焔の鞭

氷魔法ー氷結の矢 氷結の盾 氷結の檻 氷結の棘床 氷結の欠片

合体魔法ー氷焔の光爆


ギフト:アイテムボックス ステータス閲覧 学習能力向上 刀剣の心得 魔法の心得 焔魔法 氷魔法



時間が変わりましたが投稿します!


これから任せられる仕事が増えたので、不定期更新になりそうです…。

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