私と友達と少年の依頼
光が瞼の裏まで刺し、何かが焼ける匂いが嗅覚を刺激して意識が覚醒していく。
目を擦りながら起きて周りを見渡すと、結愛がせっせとジャイアント・ベアーの肉を焼いてるところだった。
そして結愛の焼いてる肉を信じられないような顔をして見てるカルロ・ベルト。
はて、よくそこら辺にいるジャイアント・ベアーになんでそんな目を向けてるんだろう。そりゃあ私達も最初は苦戦したけど、それでもそんなに脅威じゃなかった記憶がある。
「あ、渚おはよっ。お肉はもう少しで焼けるからこれで顔とか洗ってね」
「ん、ありがと」
結愛に差し出された水の入った皮袋を受け取り水を出して顔を洗って、口の中をゆすぐ。口の中がちょっと粘ついてて気持ち悪い……地球の洗口液とかが欲しい、切実に。
そんな不満を飲み込んで未だにジャイアント・ベアーを見てるカルロ・ベルトが、まだギルドで受けた依頼を終えていないと話していたのを思い出して声を掛ける。
「それで、貴方は今から依頼場所に行くの?」
「あ、それなんだけどさ渚、私達もこのカルロ少年の依頼に付き添っていい?」
そう言って私とカルロ・ベルトに焼けた肉を差し出す結愛。受け取って口に含みながら疑問に思う。このカルロ・ベルトが女の子なら進んで助けに入るだろうっていうのはわかるけど、正真正銘此処にいるのは少年である。
普段の結愛なら、何かしらの報酬がないと手伝うなんてことはしない……というと、何かしらカルロ・ベルトから報酬とかお礼を渡されるのかな。
「あのね?確かに私達シュルイス教で勉強したけど、実際に体験すると色々違ったり戸惑ったりする部分って多いし対処するってなったら難しいじゃない?このカルロ少年はそういう事にはある程度慣れてるんだって。だからそういうのとかを教えてもらう代わりに依頼を手伝おっかなって思うんだけど……」
……ふむ、たしかにその通りだ。私達は勉強はしたけど、言ってしまえば聞いただけで体験はしてない。つまりそういう意味では箱入り娘と同義ってこと……。
その箱入り娘から脱出するために、実際にこの世界で生まれて今まで生きているこのカルロ・ベルトに実体験を踏まえて教えてもらえば、多少なりともマシになる。……うん、そんな事全然考えてなかったな。
「結愛に任せるわ」
「わかった!それじゃあカルロ・少年、君が受けた依頼の詳細を聞かせてくれる?」
男子に話すにしては幾分柔らかい口調で話すのは、多分カルロ少年が私に怯えてるのを見て場の雰囲気を紛らわす為。
普段は空気を読まないけど、大切な場面では空気を読んでその場に合った対応をすることができるのが伊藤結愛という女の子で、私には逆立ちしても出来ない芸当だと言える。
ううん、空気を読むこと自体はできるんだよ。でもその場に合った行動をするのが疲れるからしたくないの。本当だからね。
そういえば、昨日色々聞いたのに依頼の詳しい内容を聞いてない。純粋に興味なかったし、聞く必要もないと判断したからなんだけど。
「う、うん……。ミルト村っていう所の近くにゴブリンが巣を作ったらしくて…ゴブリンの巣の破壊と討伐の依頼を受けたんだ……」
肉をチビチビと食べながら俯いて話すカルロ・ベルト。ゴブリン単体とかの討伐ならともかく、ゴブリンの巣も壊すとなると少なくて20匹、多くて50匹位のゴブリンと戦闘することになる。
言っちゃなんだけど、カルロ・ベルトがこの依頼を受けるなんて…自殺志願か、ただの無謀かのどっちかとしか感じない。
だってカルロ・ベルトが正直に話していたのなら、彼のレベルは10。世間一般ではゴブリン3匹を一人で相手取って戦って少し余裕を持って勝てるレベル。
とてもじゃないけど、ゴブリンの巣…延いては20匹以上いるだろうゴブリンと戦えるわけない。
「……うーん、カルロ少年のレベルだと死んで終わりだと思うんだけど……誰かと一緒に受けたの?」
「ううん、ちょと……色々あって……1人で受けた……」
結愛の質問に後悔の念を放出しながら答えるカルロ・ベルト。その顔は後悔と羞恥、自責と焦燥が混ざって凄いことになってる。
そんな顔をするなら最初から受けなきゃいいのに……。そう言おうと思ったけど結愛に目で止められたから止めた。
何気に大人な対応をする結愛を見てびっくり……普段の結愛からは到底想像できない姿だ。
「そっかぁ、じゃあ何も問題ないね。私と渚がその依頼をしっかり手伝ってあげるから大船に乗った気でいなさい!」
ない胸を張ってフンスと鼻息を荒く出した結愛の姿を見て涙ぐみ、その後に私を見て涙を引っ込めたカルロ・ベルト。
その失礼とも取れる態度は、私が昨夜散々脅した所為だから見なかった事にしてジャイアント・ベアーの肉を食べる。
やっぱり肉だけじゃなくて米を欲しいと思う朝だった。
ーーーーー
朝ご飯を食べ終えミルト村へのルートを変更してゴブリンの巣へと向かう為に歩くこと数刻、茂み越しから見える洞窟の入り口前にゴブリンが7匹いた。
ちなみに昨日カルロ・ベルトが道に迷った理由は、無理して夜の森の中を歩いてたかららしい。
『このお馬鹿!!』と結愛からお叱りを受けたカルロ・ベルトはしゅんと落ち込んでた。
「よし、それじゃあ私と渚は遠くから様子見て危なくなったら助けるからね」
「えっ、一緒に行ってくれないの……?」
「当たり前じゃない、手伝うって言ったけどカルロ少年に変わって依頼をやるとは言ってないからね。私達が出たんじゃ、あっという間に終わっちゃうし」
結愛の言葉に愕然とした表情をするカルロ・ベルトを、結愛は慈悲も無くゴブリンの前に蹴り出して“光の球”を7つ待機状態にしてからカルロ・ベルトの様子を見守るように眺め始めた。
一方のカルロ・ベルトは、蹴り出された姿勢で固まっていてゴブリン7匹がそれぞれの武器を構えながら近づくと同時に悲鳴を上げた。
「うぎゃあぁぁああぁぁ!!死ぬ!!死んじゃう!!僕なんて食べても美味しくないよ!!」
「……あれ?ちょっとヤバい?」
「ヤバいんじゃない?」
ジリジリと近づくゴブリン達と未だに悲鳴を上げ続けるカルロ・ベルト。なんとも情けない姿を晒す彼を見ていると、結愛が慌てて“光の球”を全弾ゴブリンの口に放った。
“光の球”が口の中に入ったゴブリン達は目を白黒させて立ち止まり、すぐに苦しみ出して腹が内側から爆発して地面に倒れ伏した。
相変わらずエゲツない魔法を使う結愛に頬が軽く引き攣りながら、結愛と一緒にカルロ・ベルトの下へ移動する。
茫然とした顔をしているカルロ・ベルトを見て苦笑いした結愛は、彼の顔を軽く叩いて意識を覚醒させる。
「あっはは……ごめんねぇ……。まさかここまでとは思わなかったよ……。後は私達に任せてここで待ってて?」
優しいようでいて実際には一番キツイ方法で突き放した結愛、その言葉を聞いたカルロ・ベルトの様子を見ずに私は洞窟に向けて歩みを進める。
励ますのもフォローするのも面倒、そうゆうことは結愛に任せて私は荒事をした方が楽。
ということで、私は結愛を置いてスタスタと洞窟の中に入っていき見つけたゴブリンを片っ端から氷漬けにしていく。
ゴブリンの後始末は、結愛となんだかんだで来るだろうカルロ・ベルトのレベルをアップさせる為に放置する。
でも、1番奥で太々しく座っていたでかいゴブリン…多分、ゴブリンキングだろう魔物は私が殺した。だって無駄に堂々として粘ついた視線を向けてきてて、何か気持ち悪かったから。
殺したキングゴブリンは身に付けていた装備を取り外してからアイテムボックスにしまい、その場でキングゴブリンから取った装備を確認する。
色取り取りな宝石が装飾された首飾り、エメラルドみたいな宝石が装飾された銀色に輝く手首飾り、先の方にテニスボール程の大きさの水晶が埋め込まれている金属製の杖、ゴテゴテした宝石の石が嵌め込まれた指輪10個。
ゴブリンの割に随分と派手な物を持ってたなと考えつつしげしげと眺めてたら結愛とカルロ・ベルトが合流した。
「よっし着いた!それでそれで?何か戦利品あった?……ってなんか成金みたいだね」
「凄い……てっ、アミュレットに魔導士の練杖!?それにベルスルトまで!?なんでこんな所にそんな物があるの!?」
私が布の上に広げている品々を見て軽く引いた結愛と、大声で驚きを表現するカルロ・ベルト。
アミュレットは知ってる。毒や恐慌とかのあらゆる状態異常の発生確率を下げる物、魔導士の練杖もなんとなくわかる。ただ、ベルスルトって何?勉強した時に出た覚えがない。
「ベルスルトって何?」
「うぇ!?えっと、あっと……その……2つで1つのレア魔装具で、冒険者の間で密かに噂されてる古代具なんだ。両手首に付けるんだけど……その、付けたら身体能力の強化がされるんだ」
「ふーん」
何で密かには噂されてるのか疑問に思い、異様に怯えられてちょっとショックを受けつつベルスルトを付けてみる。
「……これ、凄い」
付けた瞬間に身体が軽くなった。あまりの変わりように戸惑いつつ刀を抜刀すると振り切った後に風切り音が鳴った。
「うっはぁ、凄いね渚。取り敢えずこの装飾品達は渚の戦利品だし、全部装備してみれば?」
「……これは結愛にあげる。これは貴方に」
からかい交じりの言葉を無視して結愛には魔導士の練杖を、カルロ・ベルトにはアミュレットを渡す。魔法は私も使うけど、結愛の方が魔法の使用頻度が高いから何らかのプラス補正が入るだろう魔導士の練杖を渡すのは絶対。
持っていると便利なアミュレットは、直ぐに恐怖で固まる彼には最適かなと思って渡した。それに、彼がいなかったらこんな上等な装備は手に入らなかったからそのお礼も兼ねて。
小躍りしながら受け取る結愛と、ビクビクしながら受け取ったカルロ・ベルトの違いを面白く思いつつ洞窟を後にしようと歩き始める。
私の後に2人が付いてくるのを感じながら外に辿り着いてゴブリンの巣…つまり今回で言えば洞窟を破壊してからミルト村に向かう。
その道すがらベルスルトを装備した状態に慣れるべく積極的に魔物を狩っていく。手段は魔法ではなく刀で、最近使ってなかった“2連撃”や“十字斬り”を多用したり居合いの技術を向上させるべく居合の練習をしたりしてると何時の間にかミルト村に着いた。
依頼の報告はカルロ・ベルトに任せて私達は露店を冷やかしに行く。
いろいろな野菜を売ってる店や何かの串焼きを売っている店、装飾品を売ってたりする中に妙に見覚えのある食べ物を売ってる店を見つけた。
コッペパンに切り込みを入れ、その中にソーセージを入れてケチャップを掛ける。お好みでマスタードをどうぞと屋台の看板に書いてあった。
その料理は正しくホットドッグで、それを作っている人は黒髪黒目の女の人。来ている服が完全に地球の物だとわかる料理服は、私たちの住む街近隣で有名な料理学校の物。
私達以外に地球の人がいることに驚きつつ、様子を見る。ここで普通は声を掛けたりして交友を深めるんだろうけど、村の人と談笑して一緒に働いている男の人と幸せそうに笑う姿はどう見てもこの世界に完全に馴染んでる。
それに水を差す気になんてなる筈もなく、私と結愛はそのお店をスルーして露店を見て回る。
野菜や果物等の目ぼしいものは少しずつ買っていき、そろそろ露店の途切れ目が見えてきたところでカルロ・ベルトが慌てた様子で走ってきた。
「はぁ、はぁ……。ね、ねぇ、2人とも今日はこの村に泊まるんでしょ?このアミュレットのお礼に宿屋のお金払わせて」
中々に律儀な少年だこと、これで12歳とかこの世界の子供は地球の子供よりしっかりしてると思う。
「ん〜、流石に年下の子にお金払わせるのはなぁ……。あ、そうだっ!カルロ少年はダンジョン都市に住んでるんだよね?それだったら、ダンジョン都市まで案内してくれない?その間に色々聞きたいことあるんだ。宿代より色々教えてくれる方が私達的には助かるんだけど、どうかな?」
「えっと、うん、そっちの方がお礼になるならそれでいいけど……」
年下にお金を払わせるのを忍びないと感じた結愛の説得が完了して、今日泊まる宿へと案内してもらう。
着いた宿屋はこじんまりとしていて何処となくアットホームのような雰囲気があった。一晩2食、体を拭くお湯付きで1500ゴルドという良心的な値段。
夕飯は白パンに野菜のスープ、ジャイアント・ベアーのステーキにデザートのカフリの実と結構ボリューミーで味も満足のいくものだった。
早朝に出発するという事で決まり、私と結愛、カルロ・ベルト1人の計2部屋を借りてそれぞれの部屋に行く。
身体を拭いて露店で見つけた歯ブラシと歯磨き粉の2役をこなすシャカシャカの枝で歯を磨き、口の中がさっぱりしていい気分になりながらおねむ状態で甘えん坊モードになった結愛の相手をして私は眠りについた。
咲森 渚 17歳 女
Level45
役職:女子高生
天職:魔剣士
スキル:ポーカーフェイスlv6 料理lv6 平常心lv7 気配察知lv6 痴漢耐性lv6 身体制御lv5 魔力操作lv6 縮地lv5 斬術lv7 喧嘩殺法lv6 投擲lv3 疾風斬りlv5 居合いlv5 二連撃lv3 五月雨斬りlv2 十字斬りlv3 疾風衝lv5 疾風乱舞lv1
スペル:焔魔法ー焔の矢 焔の壁 焔の槍 焔の豪球 焔の鞭
氷魔法ー氷結の矢 氷結の盾 氷結の檻 氷結の棘床 氷結の欠片
合体魔法ー氷焔の光爆
ギフト:アイテムボックス ステータス閲覧 学習能力向上 刀剣の心得 魔法の心得 焔魔法 氷魔法
なんとか更新することができました。ただ、明日は私用で更新出来ないので明後日から更新を再開します。