私と友達の最後の基礎訓練
初めての魔物狩りから2ヶ月程経過した今日この頃、最初は順調にレベルが上がっていたけど今では少し上がり辛くなってきた。
というのも、元々レベルが上がるにつれてレベル自体が上昇し辛くなるものだし、更に狩っている魔物がシュルイス教の街周辺にいる弱い魔物だけだからだ。
できるならもう少し強い魔物と戦いたいけど、ジル・ソルダード曰く『もう少し我慢してほしい』とのこと。
なんでも、もう少し遠くに行って他の魔物と戦うか、王都から15日程の離れた所にあるダンジョン都市に行くかで上司の人と話してるらしい。
ダンジョン都市っていうのは、魔物を生み出すダンジョンがありその周辺に人が集まって街の形になったもの。
ダンジョンは世界各地にあって、最下層にはダンジョンマスターっていうそのダンジョンの主がいるらしい。そのダンジョンマスターを倒すことでダンジョンの攻略が完了し、ダンジョンマスターの骸から紅い水晶体が出てくる。
このダンジョンコアは現在全くと言っていいほど解析が進んでいなく、言ってしまえば神秘の塊と呼べるもので売れば一生遊んで暮らせるような金額になるらしい。
ちなみに、ダンジョンを攻略した人は1番最近で100年以上前なんだとか。
「ねぇ渚、渚の魔法って日に日に進化してるように感じるのは私の気のせいかな」
「気のせいじゃない?」
結愛の質問にそう答えて“焔の矢”を20本ほど出して、燃焼に特化させて且つ回転させる。
私が魔法に色々と手を加えてる理由は『魔法は限られた数しか覚えられないけど、それを改造できない道理はない』って言ってたクラスメイトの1人の言葉を聞いて実践したら特性を変える以外に色々と出来ただけ。
“焔の矢”なら燃焼に特化させて回転させることで貫通力を上げて当たった部分が綺麗に穴空いたり、“氷結の矢”なら鏃の部分や他の所に返しの刃をつけて硬度をあげれば刺さった後に抜けることはないし動くたびに返しの刃が肉体を傷つける追加効果付き。
“焔の壁”や“氷結の盾も同様に、覚えた当初より色々と改良してる。
この2つはちゃんとした方法であまり使うことはなかった。それでも防御系統の魔法を持っているのは、防御手段は持っておいたほうがいいというレト・シルータの言葉通りにしたからだ。
本来なら自分の前に形成して敵の攻撃を阻害する目的の“焔の壁”は敵の周りに形成して敵を焼き殺すのに使ったり、壁の部分から焔の棘を出すことで刺殺したり、その名の通りに盾として扱う“氷結の盾”は円盤投げの要領で射出して敵を切断するのに使ってる。
他にも新しく覚えた魔法は色々とあるけど、それはおいおい使っていくということで。
「う〜ん、やっぱり渚の魔法進化してるよ。……進化っていうか魔改造?」
あまり褒められてる気がしないのは気のせいかな。というか、結愛も人のこと言えないと思う。結愛の持ってるギフトの1つである光魔法で、そこそこえげつないことしてるじゃない。
例えば敵の体内に小さな光球を入れて暴発させてぐちゃぐちゃにしたり、同じく敵の体内に入れて脳を爆発させたり……。
初めての魔物狩りでフラフラしてた結愛はいったいどこにいったのよ。
「集合!!」
結愛と魔法の練習をしながら話しているといつの間にか屋内訓練場にいたジル・ソルダードが大声を上げて注目を集めた。
ジル・ソルダードの言葉に従って彼の近くに集まった私たちを見て一回頷いた彼は、私達を見渡しながら口を開いた。
「今回の魔物狩りで基礎訓練は終了だ!王への謁見は魔物狩りから1番早く帰還したチームに行ってもらう。それ以外のチームは魔物狩りが終わり、この場所で報告した時点で世界各地に散らばって魔物と戦ってほしい!実感は沸かないだろうが最近の魔物は凶暴化してきている。本来いない場所に魔物がいたり、比較的穏やかな気性の魔物が人を襲う事件もあった。本来ならここにいる全員で王へ謁見する予定だったが、それを変更して皆には魔物を狩っていってもらう。地理や情勢は勉強しただろう、旅路はそれぞれに任せる。……それでは最後の課題だ!魔物を1人20匹狩ってこい!時間制限は無しだ!これが無事に終わればお前らはもう実力者と誇っていい!以上解散!!」
なんともまぁ投げやりな事で……。あれでしょ?優秀なチーム以外自由にしてやるから勝手に魔物でも狩ってろってことでしょ?
優秀なチームを勇者一行として国を挙げて祭り上げて、それ以外はエルフィエール王国に迷惑をかけなければ好きにしろっていう解釈でいいんだよね?
うん、そういうの嫌いじゃないよ私。つまり、1番にならなければ自由気儘にあっちこっち行けるんだよね。
南の国にあるっていう超絶甘い果物とか、東の島国にあるという寿司とか、色々と食べたいものがあったんだよね。
特に寿司なんて、この世界に来てから米すら食べてないんだもん。食べたい欲求は一入だよ。……というかダンジョン探索や遠出に護衛をつけるのが面倒だからって理由じゃないよね?
「渚、頑張って1番になってみる?……って聞く必要なかったや。あえて順位落として好きにしようって顔してるね」
「当然じゃない、目指すは1番以外よ」
そう、結愛の言葉通り1番になろうと思えばなれる。今までの魔物狩りで、私と結愛のコンビは必ず3番目以内に入ってたし魔物の狩った量で言うなら全チームで競っても2位は確実だ。
だから、本気で頑張れば1番になれるだろうけどしない。
まず王への謁見とか、絶対身なりや礼儀作法とかグチグチ言われるだろうし何か下手なことしたら貴族とかから色々言われるかもしれない。
まあ、国を救う勇者だからそんなことはないだろうけど……それでも、婚約だのどーのこーのっていう話は絶対に出ると思う。
私は生涯独身貴族を貫こうと思ってるから余計に嫌だ。
「そんなにやる気に満ちた顔を見るのは初めてだよ……。それじゃあ渚の希望通りにしよっか」
「ありがと、今度何かお礼するわ」
「え、本当!?それなら暇な時にぎゅーって抱きしめて!!」
「了解したわ」
私の我儘を嫌な顔をせずに聞き入れてくれたお礼だ。結愛の気が済むまで抱きしめることくらい造作もない。
ーーーーー
今回もレト・シルータが付いてくる形で最終課題に臨む。
私達が狙うのは此処近隣で最も強いフォレスト・ベアー、次点でフォレスト・ウルフ。
フォレスト・ベアーは、緑色の体毛をしていて樹々の中で生きることに特化したくせに体長2m以上ある魔物。身体に似合わない俊敏性で走り回り、剛腕から繰り出される鋭い爪の攻撃は地面に深く傷を刻む。
フォレスト・ベアーの体毛は並の刃物じゃ傷付かず威力の低い魔法なんてものともせず、逆に反撃される。
フォレスト・ウルフは、フォレスト・ベアーと同じく緑色の体毛で樹々の中で生きることに特化した魔物。体長は尻尾を含めて1.5m程で、周囲の環境を利用して身を隠したり武器にする賢さを持つ。
基本的に3〜5頭で活動していて、待ち伏せ、奇襲、偵察と役割を分担して相手を襲う。鋭い牙と爪が武器で、爪には風の魔法が付与されている。その爪の一撃は大岩に深い爪痕を残す。
フォレスト・ベアーの方がフォレスト・ウルフよりタフで凶暴なことから、近隣の魔物の中で1番強いとされている。
初めて遭遇した時は少し死を覚悟したけど、最終的にはなんとか倒すことができた。
「それが今は雑魚扱いか……」
「ん?どったの?」
「なんでもない」
フォレスト・ベアーの口の中に“光の球”を入れて頭を爆発させた結愛を見ながら思う。
もしこの状態で地球に戻ったらとんでもないことになると。
しみじみとそんな事を考えてると私から見て右側の繁みの中から、フォレスト・ベアーが私に向かって襲い掛かって来た。
それを認識した瞬間に私は“氷結の盾”を2枚出す。
1枚を投擲してフォレスト・ベアーの首を切断して、残りの1枚をフォレスト・ベアーの前に設置して血飛沫と熊の死体を受け止める。
「お見事!さっすがだね!」
「ありがと」
フォレスト・ベアーを回収してこっちに来た結愛の言葉を受けながら、周りを警戒しつつフォレスト・ベアーの死体をアイテムボックスにしまう。
少し警戒を続けるも、何かが来ることもなく静か。そこまで確認して警戒を必要最低限にまで落とす。
これで丁度10匹目で、結愛は12匹目。まだ日も高いからもう少し探索する事にして森を歩く。
「あ、林檎擬きがあるよ!回収しよ!」
10分程歩いてると結愛が林檎擬き……正式名称をカフリの実っていう果物で、結愛が林檎擬きっていうように非常に林檎に似ている。違いは皮の色が青色っていうだけ。
ざっと周りの木を見ると数本の木にカフリの実があるのがわかった。いちいち木に登るのも面倒だし、魔法を使うのも魔力が勿体無いから“疾風衝”を放つ。
“疾風衝”は剣を振った時に衝撃波を放つ技で、暇な時に剣から衝撃波が出ないかとブンブン振り回してたら電球が点いたような閃きと共にスキル欄に加わっていた技。
カフリの実を傷付けないように気を付けながら“疾風衝”を放っていく。
興に乗って“疾風衝”を乱れ打ちしてたらピコーンって感じで閃きが舞い降りてきた。
流れに任せて剣を振り抜くと一気に5つの衝撃波が飛んでった。
「……また、スキル閃いたの?」
「うん、まあ」
「……なぁーんでそんなにスキル獲得出来んの!?ギフトが原因だってわかってるけど納得いかなーい!!」
うがーって感じで大声を上げる結愛を無視して周りを見渡す。あれだけ枝を斬って出した音と結愛の大声が合わされば、それを聞いて魔物が集まってくるはず。
「うにゃーー!!」
尚も大声を出す結愛を放っといて周りを警戒してると、至る所からガサガサと私達のいる所に向かってゴブリンやビック・ベアー、キラービーやコボルトが群れを成して迫ってきた。
「結愛、来たわよ」
「にゃー!!ん?オッケー!!」
返事を聞いて即座に“氷の盾”10数枚を私と結愛を包むように展開する。
結愛が“爆裂光”を発動して魔物の目を潰すと共にダメージを与えて、私が氷結に特化させた“氷結の矢”で魔物を射抜き氷結させて動きを阻害する。
ここまでで、私達に迫っていた魔物の殆どが動けなくなった。動ける魔物は個別に“疾風衝”で殺す。
「よっし、渚!景気付けに合体魔法いくよ!!」
「了解」
私と結愛が考え出した合体魔法“氷焔の光爆”は至って単純。
大量の“氷結の矢”が敵に突き刺さり、“焔の壁”が敵を包み込む寸前に“光の玉”を敵の体内に撃ち込み、“焔の壁が敵を包み込んだ少し後に体内に撃ち込んだ“光の球”を爆発させる。
そんな至って単純ながらも、3つの魔法が合わさって出来たこの魔法は周囲の魔物と樹々を弾き飛ばして更地を形成した。
「……ちょーっとやり過ぎたかな?」
「よくあることよ」
「そっか、よくあることか」
「いやねぇよ。ていうか手加減をしろ手加減を」
威力の測り間違いで更地になった周囲を見渡して話す私達にツッコミを入れたレト・シルータ。あれ、近くに居たのに無傷なんだ。
流石エリートしか入れないと言われてるらしい騎士団の一員、私達の最強魔法を見事に避けてみせた。ちなみに、私達には被害が来ないようにちゃんと調整してる。
「よし、あっちこっちに飛んでっちゃったから手分けして回収しよ」
「じゃあ私はあっち側のを回収するわ」
「ほーい」
ということで散らばった魔物の死体を回収して回った。この戦闘での私達の戦果は、ゴブリン8匹、キラービー21匹、コボルト13匹、ビック・ベアーが4匹の合計46匹となった。
この時点でまだ2日しか経ってないっていうことに気づいた私達は、順位を落とすために5日程森の中で過ごしてシュルイス教の街に戻って課題クリアの報告をした。
順位はなんと4位、見事に思惑通りに事が進んだ私たちは騎士団の人とシュルイス教の人から選別として20万ガルトと数着分の服に数日分の食料、そして今使っている鉄の武器よりも強力な武器と防具を貰ってシュルイス教の街を出た。
何気に太っ腹な選別を貰ってびっくりしたっていうのは、流石に相手方に失礼だから口に出さなかった。
咲森 渚 17歳 女
Level45
役職:女子高生
天職:魔剣士
スキル:ポーカーフェイスlv6 料理lv6 平常心lv7 気配察知lv6 痴漢耐性lv6 身体制御lv5 魔力操作lv6 縮地lv5 斬術lv7 喧嘩殺法lv6 投擲lv3 疾風斬りlv5 居合いlv4 二連撃lv3 五月雨斬りlv2 十字斬りlv2 疾風衝lv5 疾風乱舞lv1
スペル:焔魔法ー焔の矢 焔の壁 焔の槍 焔の豪球 焔の鞭
氷魔法ー氷結の矢 氷結の盾 氷結の檻 氷結の棘床 氷結の欠片
合体魔法ー氷焔の光爆
ギフト:アイテムボックス ステータス閲覧 学習能力向上 刀剣の心得 魔法の心得 焔魔法 氷魔法