私とクラスメイトの訓練風景
私達がミリニムに召喚されてから一ヶ月が経過した。最初は体力作りだけでバテていたクラスメイト達も少しずつ余裕が出てきて、今では各々にあった武器を持って走る程度は出来るようになってきていた。
私やその他の一部の人たちは元々身体能力が高かったから、ある程度マシだったけどそれでも本気で吐くかと思った程辛かった。
ちなみに、私を含めて皆が持っている武器はこの建物にある武器庫から配られたもの。私は天職が魔剣士だから武器は剣類にしておくように言われて、武器庫の隅に仕舞われてた刀にしてみた。
天職っていうのは、その人が持つ才能の大元みたいなもので薬師なら薬に関する技術や知識が、剣士なら剣を扱う能力が非常に高いらしい。別に剣士が槍を使ってもいいけど、槍に関する能力が非常に伸び辛いとか。
天職と違うものを選んで苦労するか、天職通りにして強くなっていくかだと当然後者を選ぶもの。だから、私もその例に漏れず魔剣士の名が表す通りに剣の類である刀を選んだ。
最初は構えて振るだけでも大変だったけど今ではあまり負担なく扱うことができるようになったし、ギフトの焔魔法や氷魔法も扱えるようになってきた。
ただ、レベルが低い内はそこまで高威力の魔法が放てない。白ローブの人に聞いた話だとかつて存在していたLevel90の賢者の風魔法は山と空を一気に切り裂いたとか。
私も大規模な魔法を使いたいからLevel90越えを目標に頑張ってる最中です。
ちなみに、Levelを上げる方法は知識の吸収や訓練で上がり一番有効なのは殺す事らしい。
でも、いきなり殺しに向かわせるのは厳しいだろうという事で白ローブの人達は私達が魔物と戦っても大丈夫だと判断するまで、此処で訓練する事にしたらしい。
そして今は建物の中にある屋内闘技場で私達は魔法や戦闘の訓練をしてる。
今は対人戦の訓練で私の相手は、白ローブに紹介されたエルフィエール王国騎士団の人達の内の1人。
軽鎧に身を包み両刃の片手剣を構えて私の前に立っている。
騎士=全身鎧っていうイメージがあるけど、それは所属する騎士団の隊によって違うらしい。
全身鎧に身を包む人がいれば、鎧なんて着ずにローブだけの人もいるとか。
この人の場合は“エルフィエール王国騎士団二番隊”に所属していて、二番隊は素早い立ち回りと攻守の臨機応変さを主軸にしてる隊で、軽鎧とライトプレートに片手剣又は両手剣といったシンプルな装備をしてる。
「はああああっ!!」
騎士が片手剣を構え、声を上げながら走って来るのをじっと観察する。
足の動きや呼吸の仕方、筋肉の動きや視線の向きを見て行動を予測しつつ刀を構える。
「ふっ!!」
振り上げた剣を振り下ろした瞬間に、後ろに数歩分飛んで騎士の間合いから離れる。そして振り切った直後に騎士の横に移動して首筋に刀の切っ先を押し当てた。
「……はぁ、参った。この一ヶ月で随分と上達したな」
「ありがとうございます」
肩をすくめながら苦笑いする騎士に礼を告げて元の位置に戻る。それを見た騎士はまた苦笑いして元の位置に戻って剣を構えた。
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私達がいるこの建物は、エルフィエール王国の王都から少し離れた山にあるシュルイス教という宗教団体の総本山らしい。
シュルイス教は世界に広く浸透しており、崇められているシュルイス神は世界を作った創生の神なんだとか。
宗教にこれといった感情のない私は、白髪で白い髭をたっぷり生やした教主の話していた言葉を聞き流したのは暫く前。
それはともかく、対人訓練が終わり次にやるのは魔法の訓練。近くにいる人達から離れて人の少ないところに行き魔法を使う。
身体中に流れる暖かい力を循環させ、魔法のイメージを頭に浮かばせる。
身体に流れる魔力とイメージ、そして世界に溢れるマナと呼ばれる謎物質に干渉して現象を顕現させるのが魔法。
頭にイメージするのは矢の形をした焔、出現場所は私の頭上で横一列、数は10で向かう先は壁際にある木の板、全弾同時発射で刺さると同時に爆発。イメージを明確にして、言葉でそのイメージを補強して明確にする。
「“焔の矢”」
その言葉と共に私の頭上に出現した“焔の矢”は、全て同時に指定した木の板まで一直線に飛んで刺さり小爆発を起こして木の板をボロボロにした。
「よし、次は……」
“焔の矢”に続けてイメージするのは矢の形をした氷、出現場所は私の左右に5本ずつ、左から一本ずつ順に発射して向かう先はボロボロになった木の板で刺さると共に氷結。
「“氷結の矢”」
イメージ通りに私の左右に出現した5本ずつの矢は、左から一本ずつ発射されボロボロの板に突き刺さると同時に消し炭や地面が少し凍り、矢が全て当たると綺麗な氷のオブジェになった。
「うん、上出来」
「うっはぁ〜、相変わらず凄いねぇ。私なんて全然できてないのに」
そう言って私の腰に抱きついてきたのは、この世界に召喚される前から何かと一緒にいる結愛。 私の胸に顔をグリグリする結愛の頭を押してどかす。
「やん、いけず〜」
「で、何か用?」
「もう、相変わらず冷たいなぁ」
そう言いつつ、押しても押しても頭を押し付けてくる結愛に根負けして好きにさせることにした。
力一杯甘える子供みたいにギューっと抱き締めては頭を押し付けたり、頭を撫でるように催促したり。
なんか、ミリニムに来てから結愛の甘えが日に日に酷くなってる気がする。実際に一ヶ月前までは拒否したら大人しく引いてたのが、今では私の拒否を押しのけて甘えてきてるし。
見た目通りにまだまだ甘えたい盛り?……まあ、気が済むまでこのままにしておこうかな。セクハラじゃなくて純粋に甘えてるだけみたいだし。
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召喚された私達の訓練は戦闘系だけじゃなく、勉学にも及ぶ。
お金の単位や物の物価、魔物の種類やある程度の地理、主要国の情勢、今まで確認されたスキルやギフト等と色々と学びたまに抜き打ちテストが開始される。
クラスメイトの半分くらいは勉強に対して呪詛を吐きながらなんとかやっている。
私や結愛、それと神木優希と愉快な仲間たち、そして地味に村中広とかはスラスラと覚えてたりする。だってゲームの設定を見てるみたいで覚えやすい。それに、言葉や文字が問題なく通じるから余計にスムーズに出来る。
白ローブの話だと召喚に使った魔法陣に“自動翻訳”なる魔法が組み込まれていて、そのお陰で言葉や文字が通じるんだとか。
お金の単位はゴルド、物価とかは平均的な料理一食あたりで650ゴルド程。大体円換算で計算出来る程度には分かりやすい。
国についてはまだまだ此処から出る事はないだろうから、頭の隅に追いやる。
スキルやギフトは数があり過ぎて覚えるのが大変だけど、それでもゲームに出てくるようなものは粗方あるから特に問題はない。
魔物についてもゲーム同様で、ゴブリンやオーク、ドラゴン等が世界中にいる。
これらは全員が受けるべき授業で、希望者によっては薬草や魔法に関する書物を読んで勉強することができる。かくいう私も色々な本を読み漁っては脳内に叩き込んだ。
魔法に関しては色々と参考になったものが多く、レベルが上がって使える魔力が多くなり次第色々と試そうと思う。
理由は、今の私は“焔魔法”と“氷魔法”を合わせて4つしかまともに発動できないから。
というのも、魔力の総量によって使える魔法の数が決まっているらしい。
その魔法も一度覚えたらリセットして新しい魔法にするということが出来ない。だから、魔法を覚えるのはとても慎重に行うものなんだとか。
ちなみに魔力の量を測る方法はないから、逆に覚えている魔法の数で魔力量を推測しているらしい。
私の場合は4つの魔法を覚えていて、順位で表すなら下の上あたり。普通に生きていくなら特に問題はない程度には強いって白ローブの人から聞いた。
それに私の場合、ギフトにある“魔法の心得”と天職の“魔剣士”のお陰で魔力の操作やイメージ、マナに干渉する技術が驚く程スムーズに出来るようになり、そして魔法を放つ時に消費する魔力の量を減らすことが出来ている。
ただ、消費魔力が減ったからといって使える魔法が増えるわけじゃなかった。理由は知らない。それか、使える魔法が増えた結果4つ魔法を覚えられたのか。
ちなみに、ギフトの“学習能力向上”のお陰で、学ぶという行為に関して以前よりかなり覚えやすくなった。
そのお陰で戦闘訓練時に騎士の動きを観察して学び、自分の技術に反映したり学んだ動きを改良できたりしている。
魔法も同じ…というより、ギフトの“魔法の心得”と天職の“魔剣士”も合わさったお陰か魔法を発動させるプロセスを他の人よりかなり早く理解することが出来たし、魔法に関する勉強もスラスラと覚えることが出来た。
ギフトの“刀剣の心得”と“学習能力向上”が合わさったお陰で。力の入れ方や振り方、間合いの把握や連携攻撃に繋ぐ過程と言ったものを比較的楽に物にすることが出来た。
スポンジが水を吸収するかのように覚えていく私を見て、白ローブの人や騎士団の人が何かと声を掛けてくれては色々と教わり学ぶことが出来ている。
この前も教えるのが楽しいからって“疾風斬り”っていう剣技スキルを教えてもらった。正にギフト様様である。
「ここで問題!ジャーラン!ゴブリンの王様の名称はなんでしょうか!」
「ゴブリンキング」
「せーいかーい!!さっすが渚!!」
「問題文で答え言ってるようなもんじゃない…」
大げさに褒めて恒例の如く抱き着いてくる結愛を抱き止めながら周りを見る。基本的に2〜3人、多くて5人のグループで別れて講師役の人に勉強を教えてもらっていくという体制で行っており、私は結愛と組んで勉強をしている。
神木優希は愉快な仲間達(1人欠番)と組んで合計5人、村本広は神木優希と愉快な仲間達の1人である“白石小百合”と組んで2人。
何処からどう見ても普通としか形容できない村本広と、学校の三大美少女の内の1人である腰まである艶やかな黒髪と大きな黒い瞳が特徴的な白石小百合の組み合わせ。
村本広が照れるのはわかるけど、白石小百合も照れてる謎。…いやまあ、見た限りだと両片思いみたいな状況だろうと思う。
じゃなければ、常に一緒に行動してる神木優希と愉快な仲間達から離れるわけないし、そのメンバーも白石小百合を生温かい目で見てるはずもない。神木優希に至っては泣きながら白石小百合を応援してる。
ぼーっとその様子を見てると、突然扉が開きエルフィエール王国騎士団二番隊副団長のジル・ソルダードが中に入って来た。
ジル・ソルダードの特徴としてはただ一言、熊みたいな人で大体通じる。
実際にクラスメイトの間ではジルじゃなくて、熊で広まってるし。それでも、本人を前にしてそんなこと言えないから副団長っていう呼び方をされてる。
「唐突だが皆よく聞いてくれ。皆が此処に来てひと月が経った、そろそろ戦闘にも慣れてきたことだと思う。よって明後日から、近隣の魔物狩りを行ってもらう。勿論俺達も同行するから滅多なことは起きないので安心して欲しい。明日は休養に当てるから日頃の疲れをしっかりと落としてくれ、では今日は解散!」
言うべきことを言ったというような満足気な顔で部屋を出て行くジル・ソルダードを見送り、前に置いてある本を読む。
この本に書かれているのはこの世界の神話に関すること。何処となく地球と似た様なものがチラホラ見受けられるのは気のせいじゃないはず。
まあ、人が考える様な神話なんだし似るのは仕方ないのかなと思う。
「ねぇねぇ渚、明日一緒に過ごさない?」
瞳を妙にキラキラと輝かせながら覗き込んでくる結愛を見て考える。本当は明日も疲れが出ない程度に訓練しようと思ったけど、今の結愛を見る限り拒否したらまたべったりくっついてきそうな気がする。
流石にベタベタ触られ続けるのも嫌だし、ここは頷いて普段通りにやり過ごそう。
「まあ、いいよ」
「本当!?じゃあじゃあ、明日の朝部屋に行くね!!」
バイバーイ!と手を振って風の様に去っていく結愛を見送り私も部屋を出る。
さあ、明後日の魔物狩りに備える……前に明日、結愛とどう過ごすかある程度考えておかないと。そうしないと1日中ずっと抱きつかれる羽目になるのは、地球にいた頃に学習したから。
とりあえず、此処を散策するってことでいいかな。
咲森 渚 17歳 女
Level15
役職:女子高生
天職:魔剣士
スキル:ポーカーフェイスlv5 料理lv6 平常心lv5 痴漢耐性lv6 魔力操作lv3 縮地lv1 斬術lv5 喧嘩殺法lv5 投擲lv3 疾風斬りlv2
ギフト:アイテムボックス ステータス閲覧 学習能力向上 刀剣の心得 魔法の心得 焔魔法 氷魔法