私と仲間達の旅
バタフライ・インセクトと戦った翌日の朝、私と結愛は止まっていた部屋に忘れ物がないか確認していた。
「うんと、忘れ物はないよね」
「ええ」
結愛の確認の言葉に返事をすると、ふと私を見上げて不安気に質問してきた。
「ねえ渚、傷は痛まない?大丈夫?」
「結愛のお陰で傷跡もなく全快してるわ」
「本当?それならよかった」
バタフライ・インセクトで私が負った傷、正直たったあれだけで済んだのは幸運も良いところ。
普通は腕の一本や二本無くなってても不思議じゃない程の相手だった。
それが、一番深い傷が腿裏の傷だけで、それも体力ポーションである程度治る深さでしかなかったんだから……多分私は十年分の幸運を使い切ったような気がする。
「よし、それじゃあ一階に行こっか。カルロ少年が昨日みたいに待ってるだろうし」
「そうね」
昨日みたいに1人寂しく水を飲みながらボーッとしてるカルロの姿を思い出して少し笑いが溢れた。
まだ幼いって言っても過言じゃない年齢なのに、あの姿は老人のような雰囲気があってその年齢に似合わないギャップが今更ながらに笑いを誘う。
一階に着き食堂を見ると、カルロは黙々と何かを書いていた。
「なんだ、今日は水飲んでないんだ。……おっはよカルロ少年!何書いてるの?」
「あ、おはよ二人共。ちょっとね、ダンジョン都市に向かう為の最短ルートを書いてたんだ」
そう言って私達に見せてくれたものは、子供の落書きだった。
正確には子どもの落書きとしか言いようがない程に雑。幸いなのは東西南北の方角が記されていることだけ。
ミルト村を中心に、東に行けば幾つかの街や村を経由してダンジョン都市に着く。
だけど、どれがどうなって最短ルートなのかは私にはわからなかった。
いや、分かるには分かるけど……ミルト村から街や村を無視して直線を引いただけのものを最短ルートっていうのかな。
……うん、まあある意味で真理ではあるんだけど、流石に言葉を失った。
ただ、この子どもの落書きっていうのは私達地球人から見ての感想だからだと思う。多分この世界じゃあ、カルロはかなり優秀な部類なんだと思う。
だって、シュルイス教にあった地図より気持ち丁寧に描かれてるし……。
「私達はここら辺の地理は知らないの。だから貴方頼りになると思うからよろしく」
「……へっ、う、うん!!任せてよ!!」
私が声をかけたのが意外だったのか、少し固まってから大きな声でカルロは返事した。
その時にカルロが私に向けた感情にある怯えが少なくなっていたことに少し嬉しく感じた。
「おはよう3人共、よく眠れたぁ?今日の朝ご飯はパン屋さんのフレンチトーストに肉厚ベーコン、サラダにスープでーす」
「あ、愛美さんおはようございます!うわぁ〜、美味しそうですねぇ」
「ふふ〜そうでしょ?それじゃあ、よく噛んで食べてね」
話がひと段落したところで待っていたかのように愛美さんが朝食を持ってきてくれた。
結愛が言うように美味しそう。甘い匂いを漂わせるフレンチトーストに肉の暴力的な見た目、瑞々しい野菜のサラダに透き通った黄金色のスープ。何処か高級なホテルの朝ご飯を思わせるメニューだった。
3人で黙々と食べ、食後のお茶をまったり飲んで愛美さんに挨拶をして宿屋を出て村を出る為に歩く。
「そういえばローブボロボロだけど、大丈夫なの?
私の着ているローブを気にしてカルロが心配そうに聞いてきた。私が今着ているローブは所々が切り裂かれていて、言うなれば買い替え時の状態。
新しいローブを買っても良いんだけど正直言って、こんな状態のローブでもこの村に売ってるローブ類より全体的な性能が高い。
だから、お金出すのが勿体無いし正直言ってまだまだ使えると私自身がそう思ってるからローブは買い換えない。
「この状態のローブよりも性能が高い物があれば買うわ」
「それならダンジョン都市か王都に売ってると思うよ。魔物を狩ってそれでローブを作るのもありだけど」
……そっか、ローブって買うだけじゃなくて作る事も出来るんだ。でも、特殊効果付与とかってできるのかな。焔魔法や氷魔法で付与魔法的なのを覚えれたら良いんだけど。
……あ、確か火魔法で物に燃焼の効果を付与できるのがあった筈。ということは似た系統の焔魔法でも出来そう。暇な時にでも色々試してみようかな。
村を出る直前で前を歩いていた結愛がピタリと止まって、私とカルロの方に振り返った。
「よし!私達は、今から新たな道を歩きます!それぞれがどんな道を歩んで行こうとも、私達は一緒だよ!!……それじゃ、行こう!!」
どこぞの連載打ち切りみたいな事を宣う結愛に苦笑いが漏れた、カルロは何故か感動してる。
私は、意気揚々と歩き出す結愛に続くようにして足を踏み出した。
ーーーーー
ミルト村を出て歩くこと暫く、カルロ曰くの最短ルートである道を歩いていた。
「なーんか、歩いてるだけって暇だねぇ。なんか起きないかなぁ」
「いや、普通何も起きないから」
歩くという単調な作業に飽きてきた結愛がダラけてボヤいた言葉をカルロはバッサリと切り捨てた。
二人のやり取りを見ながら私は、少し離れて歩きながらスキルの訓練をする。“二連撃”や“十字斬り”、“五月雨斬り”や“疾風乱舞”を仮想敵を相手に叩き込んでいく。
色々洋風の技名を考えてた私だけど、漢字系の技名も良いって気付いた今日この頃。ということで今度から片仮名と漢字を使い分けていこうと思う。
「ねぇ渚、何か気合い入ってるけどどうしたの?」
「ちょっとね」
「ふ〜ん、まあ、体壊さない程度で頑張ってね」
私の様子を見て何を察したのかわからないけど、すぐに引いてくれた結愛に感謝。興に乗ってきてからとりあえず落ち着くまで体を動かしていく。
突き、袈裟斬り、逆袈裟斬り、兜割り、思い描く刀での攻撃を途切れさせないようにして繰り出していく。
その後にイメージするのは、近所のお姉さんが見せてくれた敵を殺す為の自称剣術の舞。
全身をバネのように使って、低い姿勢で左から右へ切り裂き、返す刀で逆袈裟斬りをすると共に身体を起こし、また刃を返して袈裟斬りをして、その勢いのまま回転して切り捨てる。
この一連の流れに魔法を加えることがしっかりとできたなら、私の戦闘スタイルは今よりもぐっと上がる気がするし……今までは魔法は魔法、刀は刀で別々にして使ってきた。だけど、一緒に出来たのなら……戦闘で出てくる隙や死角が格段に減るはず。
よし、当面の目標は魔法と刀の両立。天職が魔剣士なんだからきっとできる。
「なんか渚、キラキラしてる気がする……」
「カルロ少年もそう思う?多分やりがいか何か見つけたんだよ。……ところでカルロ少年の必殺技的なのって、やっぱりその頭にあるドリル関係?」
「だからドリルって何!?渚にも一言目で言われたけど、これ地毛だから!!」
楽し気に盛り上がっている二人の声を聞いて浮ついた心が地面にしっかりと足を付けた。
……うん、なんかテンション上がってたなぁ。恥ずかしい……。少し熱を持った両頬を押さえながら普通に歩くことにする。
ワイワイと賑やかな2人の後を追いながら遥か彼方にある空を見上げると……何かドラゴンみたいなのが飛んでた。
ドラゴンっていう自信はないけど、多分ドラゴン……だって鳥には見えないし、うん、ドラゴンだよドラゴン。ドラゴンってことで良いよね。
遥か遠くでバッサバッサ羽ばたいて地平線の彼方へと飛んでいくドラゴンを見送って、私はまた前を向いて歩き出した。……うん、ドラゴンが降りてこなくて良かった。
それからまた暫く歩き、昼食を終えて気付いたら夕焼けが世界を照らしていた。
「もう良い時間だし、今日はあそこで野宿する?」
そう話しカルロ少年が指差した場所は、少し離れたところにある空き地。街道から少し離れた場所のそこで野宿の準備をすることにした。
私が焚き火を用意して、結愛が寝る場所を用意して、カルロが料理の準備をする。そう、意外なことにカルロは料理が出来るらしい。
アイテムボックスからジャイアント・ベアーの肉やミルト村で買った野菜や調味料、そして調理道具を出して渡す。
「……え、もしかして……アイテムボックス?」
「ええ……今更?」
「……え、ええ〜!?アイテムボックス!?っていうことは英雄の系譜なの!?もしかして役職は女子大生とか女子高生だったりするの!?」
今までで最高の驚き方をするカルロ。その声を聞いて結愛が不思議そうにカルロに質問した。
「ちなみに私と渚は女子高生だけど、それがどうしたの?」
「それがどうしたのじゃないよ!!男子中学生や女子中学生、男子高校生や女子高生、女子大生や男子大生、それにニートやオタクは英雄の系譜って呼ばれてて、これらの役職を持ってる人は何かしらの分野で功績を残してるんだ!!まさか二人が英雄の系譜だったなんて……なんか、納得した」
勝手に騒いで勝手に納得したカルロを見てから結愛と顔を見合わせて首を傾げる。はて、シュルイス教じゃあそんなこと聞いたことなかったな。
「結愛は知ってた?」
「ううん、初耳」
結愛とお互いの認識が同じことを確認してカルロを見て、結愛がカルロに質問した。
「まあ、その英雄の系譜っていうのは置いとくとして、納得した理由はなんなの?」
「だって、渚の強さが異常だし、結愛も渚に掛けた治癒魔法の効力が凄かったし。それに、僕の地図を見て何とも言えない顔したじゃないか。僕、地図描くのは結構得意で、専属の話が出る程度には名が売れてるんだ。それに僕の地図を見て微妙な顔をするのは英雄の系譜しかいないってギルドの人が言ってたから」
何となく自慢が混ざってた気がするけどそれはいいとして、私の強さが異常って……。
バタフライ・インセクトに自信を粉々に砕かれた後だと胸に突き刺さるものがある。
ダメージを受けた胸を押さえながらカルロと結愛の会話を聞きつつ、料理の手伝いをする。流石に一人だと大変だろうしね。
そうして、ジャイアント・ベアーのステーキとサラダ、そしてカフリの実を切って夕飯は完成。野宿なのにこんなに豪勢なのはアイテムボックスのお陰。
モグモグと3人でご飯を食べてるとカルロが次に向かう街の事を説明してくれた。
ミルト村からダンジョン都市の直線上にある幾つかある街の一つで、名をシキルト。
そこでは毎年魔武闘大会というものが開催されていて、図ったかのように開催時期が今頃らしい。
今年の優勝景品は雷を生み出す大剣と三百万ゴルドで、準優勝景品は魔力を打ち出すことが出来る弓と百万ゴルド、三位はお米百食分と十万ゴルド。
準優勝と三位の景品の落差が酷いけど、そんなことよりお米である。この世界に来てから一度もこの目にすることが無かったお米がシキルトの街にあるらしい。
「お米」
「お米食べたいねぇ……よし!参加しちゃいますか魔武闘大会!!」
「う、うん」
私と結愛の熱気に押されて吃驚しながら頷くカルロ。カルロには悪いけど、本来ならシキルトで物資を補給してすぐ出る予定だったけど、急遽魔武闘大会に出ることにした。
だってお米よお米、食べたかったお米が戦うことで百食分も手に入るのよ?そんな好条件を誰が逃すっていうのよ。
待ってなさい、必ず私が手に入れてみせるわ。
立ち上がってシキルトのある方向に視線を向ける。何故かお米が夜空にキラリと映った気がした。
「うん、そんなに食いつくとは思ってなかった。盛り上がるのはいいけど、あんまり騒ぐと魔物きちゃうからもう少し抑えて……」
カルロの言葉に私と結愛はその場に座って少し反省する。あまりに嬉しくて興奮しちゃったわね。
バタフライ・インセクトと戦ってからどうもネジが緩んでる気がする。ここらで締め直さないと、何か致命的なことをしそう。
主に私が恥ずかしいという部分で。
咲森 渚 17歳 女
Level50
役職:女子高生
天職:魔剣士
スキル:ポーカーフェイスlv6 料理lv6 平常心lv7 気配察知lv6 痴漢耐性lv6 恐怖耐性lv4 身体制御lv6 魔力操作lv8 魔法操作lv3 縮地lv7 斬術lv7 剣術lv2 喧嘩殺法lv6 投擲lv3 疾風斬りlv5 居合いlv5 二連撃lv3 五月雨斬りlv3 十字斬りlv3 疾風衝lv5 疾風乱舞lv2
スペル:焔魔法ー焔の矢 焔の壁 焔の槍 焔の豪球 焔の鞭
氷魔法ー氷結の矢 氷結の盾 氷結の檻 氷結の棘床 氷結の欠片
合体魔法ー氷焔の光爆
ギフト:アイテムボックス ステータス閲覧 学習能力向上 刀剣の心得 魔法の心得 焔魔法 氷魔法




