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2:告白と失恋と孤立

 高校二年の夏に、俺は失恋をした。


「マジで無理…… 」

 それが相手の返事だった。

 只それだけを俺に告げると、黙ったまま沈黙の時が流れる。


(マジかよ…… )

 イエスと言って貰えるのではと期待していた俺は、予想外の反応に少々混乱していた。


「あ… そ、そうなんだ… あの、ごめん、ほんとゴメン、無理にって訳じゃなくて、その、俺の気持ちをどうしても伝えたくて、その…… 」


「友達が待ってるから…… 」

 俺の言葉を振り切って、その場から逃げるように立ち去る彼女「岡田おかだ和泉いずみ」は俺のクラスメイトで、尚且つ俺の隣の席の女の子だった。


 一人で来て欲しいと呼び出したのに、いつも彼女と一緒につるんでいる仲の良い梅本うめもと圓佳まどかが彼女と一緒に現れた時から、俺は悪い予感しかしていなかった。


 二年になって同じクラスで隣同士の席になった岡本和泉は、授業のチーム分けでも同じチームだった。


 太り気味で運動が苦手、勉強だけは何とか上位の下と言うか中位の上くらいに居るけれど、何かとコンプレックスの塊だった俺が何で自殺行為にも等しい事をやってしまったのかと言えば、惚れたからとしか言いようが無い。


 明るくて割と可愛い部類に入る岡本和泉が、毎日俺に話しかけてくれるという新たな日常。

 それは女慣れしていない俺にとって、久しぶりにワクワクする楽しみな毎日を演出してくれたのだった。


 話しかけられれば、内心ドキドキしながらも素っ気ない返事をして見せる子供な俺。

 でも心の底では、もっと話したい、もっとワクワクしたいという欲求が次第に強くなって行くのを抑えられなくなっていたのだ。


 岡本和泉が、いつの間にか俺の気になる存在になって行ったのは無理も無いと思う。

 それなのに、勇気を出して告白したのに帰ってきた返事は「マジで無理…… 」って、酷すぎないだろうか?


 だったら、初めから話しかけなければ良いし、気を持たせるようなことをしなければ良いんじゃないか?

 そうすれば、俺だってこんな事をしなくて済んだし、嫌な思いだってしなくて済んだんだから……


 どう言い訳をしてみても、俺が一方的に好きになって一方的に振られたという事実は内心では解っているのだが、どうにも俺の小さなプライドってやつがそれを認めたくなくて、いつの間にか彼女に責任転嫁をしていた。


 更に悲惨だったのは、遅れて教室に戻った時に聞こえたヒソヒソと俺を見て話しているクラスの連中の姿を見たときだ。


 すっかり俺の告白と玉砕はクラス中にバレている!

 そうに違いないと確信して、俺は絶句した。


 俺の名は下野しもの南央樹なおき、現在16歳と7ヶ月の高校二年生だ。

 身長は172cmだが体重が94kgもある、ちょいポチャな帰宅部の男子高校生でもある。


 小さい頃から自己主張が苦手で、クラスでも目立たない存在…… で居たいのだが、

何が悪かったのか悪ガキ連中に体型の事をよくからかわれて弄られる存在でもある。


 何でもない普通の事のように言ってみたけど、小さな虐めの対象になっているのかもしれないとは、俺も薄々気が付いてはいた。

 俺がそれを認めたくないだけで、新しいクラスが、いつの間にか居心地が悪いものになっていたのは否定できない。


 これでも、幼稚園の頃は同じ年頃の仲間よりも太っていた事もあって体が大きかったから、信じられないだろうけれど俺だってガキ大将っぽい事をしていた時代だってあるのだ。

 だけど今の俺の姿を見れば、誰もそんなことを信じてくれないのは間違いない。


 そんな身分の俺が、何をとち狂ったのか隣の席の子に告白なんかをしてしまったのだから笑える(自嘲)、ほんと嗤える……


「お前、本当に告白するとか馬鹿じゃねーの」

 クラスの悪ガキのリーダー格である、多田おおたきよしが笑いを堪えながら近付いて来た。


 振られたばかりの俺には、言い返す言葉が無い。

(やっぱり、みんな知っているんだ)

 その確信が、胸に突き刺さる。


 多田という奴は、俺から見れば嫌らしい程に狡猾な奴だ。

 顔は中の上といったところだが、成績も悪く無い上に金持ちの息子ときているから、世の中は公平にはできていない事が良く判る。


 なにしろ、全ての持ち物が一般的な高校生よりもワンランク以上違うブランド物だ。

 夏はヨットにボードセイリング、冬はスノーボード三昧という羨ましい生活を送っている恵まれた奴に、俺が恨まれる覚えは100%無い。


 多田は俺を虐めるときも、体に傷が残るようなことは絶対にしない。

 その代わりに、暴力を振るうときは自他共に認める手下役の谷口と後藤という奴らを上手に使って、絶対に自分の手は汚さないし顔を殴る事もしない。


 こいつが一番好きなのは暴力で俺を追い詰めることでは無くて、精神的に俺を追い詰める事のようだと俺は感づいている。

 クラスが一緒になった当初は、こんな嫌な奴では無かったと思う。

 普通に他愛の無い話をしてるうちに、急にこいつの態度が変わって嫌がらせが始まったようにしか思えないのだ。


 これが仕組まれた茶番劇だとすれば、たまたま席が隣になった岡田おかだ和泉いずみが、こんな俺に親しげに話しかけてきたのもそういう事なのかもしれないのだ。

 俺は今にしてようやく、その事に気付いた。


(まさか、どうしてそこまで…… )


 そう疑問に思いながらも、心に湧いた疑いの気持ちを捨てきれずに隣の岡田おかだ和泉いずみを見ると、俺の視線を避けるように目を逸らした。


 正直、高校生にもなって、俺を虐めるためにそこまでする意味が解らない。


 そもそも、虐める側の真理なんて解らないし判りたくも無いが、同じクラスになってから毎日ともなると、友達が居ないことに慣れている俺でも参ってしまう。


 何よりも、小学校から一緒で仲の良かった友長というダチが入院してしまった事が、クラスの中で俺の孤立に拍車を掛けていた。


 友長は、突然発症した筋肉の麻痺で歩けなくなり学校に来られなくなった。

 なんでも遺伝子の病気だという噂で、効果的な治療法が無いらしいのだ。


 なんとかしてやりたいとは思うが、お見舞いに行っても面会も出来ない状況で、相当に良くないらしい。


 授業で習ったDNAやRNAなんて程度しか知らないけれど、遺伝子という訳の判らない物がそんな事をしでかすなんて驚きだ。

 人間の体と言う物は何て不思議なんだろうと、不謹慎だがそう思った事を覚えている。


 色んな事を考えて重い気持ちのまま次の朝が来た。

 俺は仕方なく、事情を知らない母親から家を追い出されるかのように促されて、足取りも重く家を出た。


 次の朝なんて二度と来なければ良いのにと思ってはいても、それがどうにもならない事ぐらいは俺にも判っている。

 だけど、問題は理屈じゃ無いんだ。


 駅へと向かう道すがら、これから起きるであろう陰口や嫌がらせのたぐいをシミュレーションしてみた。

 予め嫌な事を予習しておくことで精神的なショックを和らげようという算段だけど、それは逆効果だった。


 俺は駅でふらふらと、学校とは違う方角へ向かう電車に乗ってしまった。

 たまたま先に来たのが、西浜臨海公園経由新港空港行きの電車だっただけで、深い意味は無い。


 吊革に掴まりながら、車窓から見える景色をぼんやりと眺める。

 車窓から見える景色は次第に川幅が広くなり、遠くに眩しく輝く夏の海が見えた。


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