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HEAVEN  作者: 真白
第一章 死者の言葉を紡ぐ
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1-04

* * * *



「ランチセットおまたせいたしました」


 目の前に置かれたさまざまな種類のサンドウィッチに空腹が早く早くとせかしてくる。


 少年は小さく手を合わせてサンドウィッチをひとつとってぱくり。


 うん、美味しい美味しい。


 もぐもぐと咀嚼しながらふとさっき会った告げ人の少女ことを思い出した。


 今頃は嘘に気付いてる頃だろう。少し悪いことしたなぁ、なんて呑気に思いつつも自分から謝りに行く気はない。もしばったり会ったら謝っておこう。たぶん会わないだろうけど。


 しかし、そうか。告げ人でも効くんだなぁ。


 面白いと思った。なんせ世界に一人しか存在しない、奇跡のような人間なのだ。そんな人物に会えたことも嬉しかったが、それよりもまるで実験が成功したかのような、妙な達成感が少年の心を埋める。


 とりあえず、告げ人といえど案外自分たちと変わらない、と。


 脳内のメモ帳にしっかりと記す。


 今頃は怒っている頃だろうか。はたまた落ち込んでいるのだろうか。落ち込んでいたら申し訳ないなー。なんてどこまで本気で思っているのかわからないがぽつりと漏らした。


 でも残念なことに今から少女を探して謝るほどの時間はなかった。


 あの時は予想外の出会いに忘れていたが、自分は今任務中なのだ。それも自業自得ではあるが、ただでさえタイムロスしている。これ以上はさすがに怒られそうだ。


 ポケットからメモ帳のようなものを取り出し、ぱらぱらとめくる。そうして文字が書かれた最後のページを見ると

殴り書きのような文字が綴られていた。




For 844925


まだ手がかりもないとは何事だ! 

さてはまたいらんことに首を突っ込んだのだろう! 

とっとと目的の人物を探せ!


               From 844210 アンナ




「相変わらず怒りっぽいなーあーちゃん先生は」


 苦笑が漏らしながらメモ帳をポケットにしまう。


 とにかく今はとっとと食事を済ませていい加減任務に移ろう。


 少年はひとつめのサンドウィッチをぺろりと食べふたつめに手を伸ばした。


 それを口に運びながら何気なく外に目を移す。


 あ。



* * * *



 見つけた。街を歩き回ること数十分。ようやく見つけた。


 しかも奴は呑気にサンドウィッチなんて食べている。人を騙しておいてなんて人だ。お腹すいた。腹立たしい。


 ハナはどかどかと店に入ると少年の目の前に鎮座しているテーブルにばんっと手をついた。


 見上げてくる少年に嫌味たっぷりの笑顔を浮かべる。


「……どうも」

「……おぉ、さっきぶり。盗賊には会わなかったか?」

「えぇおかげさまで」

「そっか、良かったな」


「……んなわけあるかああああ!」


 耳元で思いっきり叫んでやった。少年はうるさそうに耳を塞いでハナを見上げてくる。


「なんなんですか盗賊って! あんな嘘ついて。私を騙して楽しいですか、ええ!?」

「まぁな」

「即答すんな!」

「まぁそうぷりぷりすんなよ。ほら、サンドウィッチやるからさ」

「そんなもので誤魔化そうとしてもそうはいきませんからね」

「じゃあ食うなよ」


 空っぽだったお腹にサンドウィッチがたまって少しだけ落ち着いた。うん、美味しい。ひそかに感動しつつそれを表には出さず少年の目の前に座る。

 少年は楽しげに微笑んでいた。


「――あなた、名前はなんていうんですか?」

「人に聞くときはまず自分から言うもんだぜ。習わなかった?」

「残念ながら人を騙すような人に常識を通すつもりはありません」

「ぐっ。お前、なかなか鋭い返しすんな」

「告げ人なめないでください」

「それ関係なくね?」


 まぁいいや、と少年は呟くと、にっこりと笑った。


「俺はキャロル。キャロル・マクラウドだ」

「そうですか。ではキャロルさん」

「って、あれ? あんたは名前教えてくんねーの?」

「人を騙す人に言う名前はありません」

「うわっ、お前しつこいな! まぁいいや。じゃあ告げちゃんとでも呼ぶよ」

「ちょっと待ってください。なんですか告げちゃんって。なんだかすごく馬鹿にされてる気がします」

「まぁ半分馬鹿にしてるし」

「ちょっと!?」

「ごめん嘘だよ、80%馬鹿にしてる」

「なんに対しての謝罪ですか、なんで嘘ついたんですか、なんでそんな馬鹿にしてるんですか!」


 一息で言い切ったハナは最早肩で息をしていた。しかし瞳はきっ、と少年を睨んだまま逸らさない。


「……ハナです」

「ん?」

「私の名前! ハナ・オールウィンです」

「そっか、ハナっていうのか。よろしくなー」


 人当たりの良い笑顔を浮かべるキャロルに、ハナはなんとも複雑な表情を浮かべた。騙してきた人とよろしくする気はないのだが、しかし彼はどうしてこうも悪気がないかのように普通に接してくるんだろう。というか、もう少し申し訳なさそうにしたらどうなのだ。にこにこしているキャロルに内心毒を吐いて、ハナはむすっとしたまま「どうも」とだけ応えておいた。


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