1章 5話 初めての狩×情報源
一応書いてるのは2話分かありますが、今回から1話ずつです
「お、そこに居る小さいのは家畜として良い値で取引される食材だ。皮を剥いで少し炙ってやれば下処理せずに食えるから農家ではよく食卓にでる奴だ。…腹が減ってはだから俺がこの場で実演を踏まえて調理してやるよ」
「本当ですか!?お願いします!」
シムリが移動中に発見した小さいサイズの豚を調理すると言う言葉を聞き、腹が限界に来ていたのか思わずセイラが声を上げる。
「お嬢様?嬉しいのは分かりますが、もう少し押さえてください。そんなに食い意地が張っていては我らの国のレベルが疑われますよ?」
「はっはっは、そんな事はねぇさ。何処でも誰であっても喰わなきゃ生きてられねぇんだ。しかも、正也の話だと、この辺に来てから食事は出来てないんだろ?それなら食い気に走ってもしょうがない。どんなに高貴な者たちでも俺らみたいな奴の育てた家畜を喰って生きてんだから恥ずかしがることはねぇよ。…さ、一丁俺の調理技術を披露しますかね」
正也の言葉に、笑いながらセイラのフォローをしたシムリは、馬に跨った状態で豚を見据え…
手を前に出してから一言
「『火炎』」
と呟くと、前に出した手から極小の魔法陣が現れ、それに手を触れると、そこから対象を丸のみにするサイズの火の塊が飛び出した。
そして、その塊が豚に当たると、悲鳴も上がらぬ位のスピードで一瞬にして豚の丸焼きが完成した。
丸呑みにする事で外から万遍なく火の通った豚は、中国料理に出てくる物を左程変わらない見た目で、綺麗に毛も焦げ付いて手で払えば直ぐに皮からかぶりつける様な処理になっていた。
「へ~、お見事と言える手際ですね。…では、もう一匹そこに居るので、次は私がやってみましょう」
正也はそう言うと、一旦土の板からセイラと共に降りて、一歩前に進む。
そして、魔法の指向性を出すために手を前方へ突き出す。
(大気内の酸素を前方に集め、空気の摩擦によって火を熾して燃焼。更に徐々に酸素を追加させ火力を増大…っと、この位か?)
正也が頭の中で構築した理論によって突き出した手の先から魔法陣が現れる。
そして、そこからシムリと同じような火の玉が出てくる。
その火の玉は少し離れた豚に当たると同じように火だるまになるが、距離が離れていた事と、魔力強度が継続時間と同程度の扱いになっていた事もあり、豚が丸焼きになる前に消えてしまった。
しかし、消えたと言ってもほぼ全身を焼かれた豚はその場に横向きに倒れ、後一発先ほどの玉を受ければ死ぬと言ったくらいの状態だ。
なので、正也も再び火の玉を作り、豚に放ち、今度は正真正銘の豚の丸焼きが完成した。
2発喰らわせた事で時間が掛かったという事も無いと思うのだが、出来た料理をセイラに食べるかどうか聞こうと振り向いた時、思わず手で顔を覆ってしまう出来事を見てしまった。
「…お嬢様、我慢が出来なかったのは分かりますが、せめてナイフで皮を剥いでから食べてください。病原菌は無いにしても、皮は一番虫が棲みつきやすい場所ですよ?さっきシムリも言ってたでしょう?皮を剥いだら食べられると。それは逆に皮を剥いだ方が危険が少ないという事です。出会って間もない人にお馬鹿な真似を見られる事を少しは気にしないとこれからさき苦労しますよ?」
「はっはっは、まあ俺は気にしないさ。皮を剥ぐって言ったのも皮は固くて喰い難いって事だからだ。コイツはよく家庭の食卓に上るメインの肉だからな。それ程変な虫は巣食ってねえよ。…まあ、ここまで齧り付くほど腹が減ってたのなら仕方ないんじゃねえか?皮が邪魔にならない位の食べっぷりは素直に凄いと思うぜ?」
そう、シムリが言う様に、先ほどシムリが丸焼きにした豚を、血抜きが必要かどうかは分からないが、そのまま齧り付いているセイラが居た。
そして、正也に見られている事を悟ったのか、急に食べる勢いが弱まり、居住まいを正してから口元を服に入れていた布で丁寧に拭くと、正也に食事の開始を切り出した。
「…正也?私は食べ始めていますので、正也も食事にしなさい。言うだけあって火加減は丁度いい感じでよ?正也の丸焼きにした豚はシムリさんの家に持って行って色々と調理法を聞きましょう。今食べている物だけでも見た目以上にボリュームが有って、3人の腹半分には成るでしょう。…シムリさんは、体は大きいですが、食べる量は大丈夫ですか?」
「俺の朝食は早いし、帰ったら嫁が待ってるからお前らで食ってくれて構わねえ。正也の分と嬢ちゃんの分の腹をそこそこ満たす位にはその豚もボリュームは有るから大丈夫だろ。これ位は馬を捕まえてくれた礼にすらならねえさ」
「…へ~、歳は分からないですが、見た感じ若いのにもうお嫁さんがいるとは羨ましいですね。私も早く貰いたいものです」
「…正也?貴方は私の物なのですから、無闇な言動はダメですよ?」
正也が恋人がほしい感じの話をすると、急にセイラの目が据わって正也に警告を出してきた。
その様があまりにも解かり易いので、シムリも正也も苦笑しつつ、正也はセイラの齧っている分を魔法で切り裂き、自分とセイラの分を半分で割った。
その際の正也の魔法にシムリは興味を持ったようで、食べている最中の正也に、「そのままでいいから教えてくれ」と言って聞いてきた。
「正也の魔法は見たこと無い方法だな。普通は魔法陣を作ってそれに俺の詠唱や頭の中の想像を入れて、それから体の一部で触れて発動するのに、正也のは全ての工程をやった後魔法陣から現象が出てくる感じだ。何か特別な家の生まれか?」
「いえ、特別と言えるのはお嬢様の家だけで、私は普通の家庭の人間です。しかも、この大陸に来た昨日やっと魔法の事を知って、今は色々と実験段階です。その為、シムリの魔法程上手くは扱えないのです」
「へ~。しかし、昨日知ったって割には結構扱えてるな。…まあ、この世界では魔法は誰でも使えるが、逆に特別な魔法以外使えないって奴も結構いるから、お前さんみたいのも珍しくは無いが。…俺の嫁も似た様なもんだし」
正也の説明を聞いて、妙な納得をするシムリ。
しかし、正也もセイラも今あったばかりの人物の内情を詳しく知りたいと言う程餓えてはいない。
もしも、昨日魔法の事をあの男たちから聞いて無かったら、質問攻めにしていただろうが、一晩色々試した正也も、正也からある程度説明を受けたセイラも、深く追及する事はしない。
それは、もし追及して自分たちがこの世界の人間でないと知られれば、後々不利益に成りそうだったからだ。
しかし、ここでその事を話さない事が翻って後に一悶着の原因に成るとはこの時二人は予想できていなかった。
それから、正也も腹をある程度満たし、セイラと食後の軽い運動(所謂組手。見た目とは裏腹に、オーラを扱うセイラは、ある程度の戦闘ならオーラで防戦する事くらいは出来る。しかし、寝起きは無理なので昨日の晩の状態になっただけだ。)をした後、出発を促した。
「では、改めてシムリの家に案内して貰いましょうか。…それと、移動中で構いませんのでこの映像に、効果と利用法を記載してくれませんか?指で触れれば文字が書けるようになってますから」
そう言って、正也は端末をタブレットの部分を取り外してシムリに見せる。
その正也の行為にセイラは「あ!」っと声を上げかけるが、途中で正也の事だから、何か理由があると考え、無闇に技術を見せる正也を止める事は無かった。
正也は正也で、昨日の男たちの発言で、ある程度の魔法文化と技術が発展している事や、OBMに似た機械が有るとの事実(一応地球でも見ていたが、男たちが知っている事も確信の原因だろう)を知ったうえで、この程度の技術なら、露見させても影響は少ないし、此方の技術で更なる発展が期待できる可能性の篭めての提示だ。
「…これは物凄い高度な魔導技術だな。お嬢ちゃんが声を上げかけた理由と、お前さんらの国のレベルの高さが解かるぜ。こんな物、王都リルカルでも王族位しか見た事無いだろう。あそこはMBMを扱ってる為に、こんな感じの技術は底知れない範囲で取り扱ってるからな。…っと、こんなとこだな。王都周辺100キロにはまだまだ数えきれない種類の動植物や魔物が居るから、王都で生活するなら傭兵稼業で日銭を稼いでる間に色々と調べても良いと思うぜ?…俺の家の近くにも色々と面白い物が有るから、これは全部記入した後で返すわ」
「そうしてください。変に早々と返されても、逆にあらぬ疑いを掛けそうなので、自分からそう言ってくれる方が安全です」
「…しっかりしてるな正也。まあ、そう言う性格の奴は好きだぜ?面倒な駆け引きをせずに気ままに接して行けるからな。しかし、俺が預かっていて問題ないのか?」
正也の説明に苦笑しながらも、シムリはこの道具がない事で正也たちの行動に支障が無いのか問うた。
その疑問にはセイラが応える。
「それは大丈夫です。正也の物と同タイプの物を私が持ってますので、心配は要りません。それに、私は私で違うタイプの私専用の物を使いますので、気にせず持って居てください」
「そうか?なら書き終わったら返すって事で。…じゃあ、行くか」
そう言う感じで纏まった所で、3人は再びシムリの家へと足を進める。
その裏で、正也とセイラはお互いの手の見える範囲でハンドシグナルの交わし合いが行われていた。
(グッジョブだ、セイラ。あれなら何の疑いも持たれずに高度な機械を持たせられる。)
(はいです!私なりに頑張りました!やればできるのです!)
こんな感じでまんまと発信器付きのタブレットをシムリに預ける事が出来た。
この事で、これからあのタブレットを持って居る間中はシムリの行動範囲や接触する人物をセイラの分身体を通じて確認する事が出来る。しかも映像つきで。
他にもお偉いさんに渡せればいいのだが、先ずは良い情報源の入手先という事で良いだろう。




