1章 2話 謎の物体
ガタン…ガタン…ウィーン…
オーラ研究所とはいえ、開発しているのが機械だけに、その様相は他の工場と同様な内容だ。
違う光景は一つ。
所処に配置された研究者によって医療、スポーツ、などの各分野に応じた機械群が分けられている。
しかも、その研究者全員がここのOBやOGで構成されている事だろう。
彼らの中には世界大会で日本を優勝に導いたこともある選手や、独自の研究でOMの発展に協力している者など様々だ。
そして、そう言う者達の中に見知った者を見かけた正也は、急いで挨拶に向かった。
「ご無沙汰してます、旦那様。今日も一段とお暇そうですね?この前の忙しいと言っていた事はハッタリですか?」
その正也の言葉に工場内は一斉に沈黙した。
それはそうだろう。
なんせ、正也が失礼をかました人物こそ、この研究所に多大な援助をして、尚且つ自らも開発者として国に貢献している綾小路権蔵その人なのだから。
しかし、この正也の言葉にも慣れているのか権蔵は笑いながら
「はっはっは、相変わらず主に対しての毒舌は健在だな、正也君。…所で、君がこんな所に何の用だ?まさか、セイラに怒られて私に取り成してくれという事ではないだろうな?」
「それは無いですよ、馬鹿ですね。あのお嬢様が私に対して本気でその様な事を言うと思ってますか?あの甘々な甘ったれなお嬢様が」
「なら結構。私としても、君ほどあの子に気に入られている者は居ないと思うから、余程のことが無い限りはよろしく頼む心算だからね。…そう言えば、君はまだオーラに目覚めないのかね?これまでで、遅い者でも君くらいには目覚めた事例は幾つかあるのだがね?」
「それが、未だのようですね。…まあ、オーラが使えなくてもお嬢様の体は俺がシッカリと護りますよ。その為の日ごろの鍛錬なのですから」
「それもそうだな」
正也と権蔵が話す会話を横で微笑ながら聞いていたナースは、正也をココに連れてきた理由を簡潔に述べる。
「所長、正也君と積る話もあるでしょうが、ココに連れてきたのはナースが扱うOBMに正也君が興味を持ってるみたいだったので、試に連れて来たんです。それで、この際あのブラックボックスも見せて上げたらどうでしょうか?正也君なら案外既存のシステムに囚われ無い分、何か解るかも知れませんが?」
「………そうだな、我々研究者がこの物体を発見して百数十年。私は勿論、今までの卒業生も一通りは試して貰っているが、流石にオーラを扱えない者に試してみて貰った事は無いから、もしかしたら謎が少しは解けるかもしれない。…よし、持ってきてくれ。」
「はい!」
権蔵が指示を出すと同時に恭子は一瞬でその場から消え失せた。そして、次の瞬間には正也から見て50メートルは離れた位置にあるドアから、何やら怪しい球体をオーラで抱え込んだ恭子がこちらに来ていた。
「はい、正也君。これをそこの解析用のメインコンピューターに取り付けるから、正也君の端末で読み取ってコピーしてみて?内容のコピーすらも出来ないから、安易に持ち出せない様になってるんだ。これで出来れば少しばかりでも謎の究明に繋がるんだ」
「あ、はい」
恭子に言われ、殆ど訳が分からないままに球体のコピーの準備に取り掛かる正也。
恭子は正也に説明した後、オーラを球体から外し、解析用のメインコンピューターに接続する。
そして、自分の準備が終わった後、正也に声を掛けた。
「正也君、準備終わった?」
「…もうちょっと…、はい、出来ました。じゃあ、コピーしますね?」
「ええ、お願い」
恭子の指示で早速取り掛かる正也。
そして、自分の端末を謎の球体に取り付けた直後…
ヴーン…という低い音と共に謎の球体から黒い何かが飛び出し、正也の体内に入って行った…。
そして、その後正也が己の端末を覗いてみると
「…?なんだ?これ…」
「え?何かあった?…プログラムダウンロードオールクリア?…マジックブレインシステム作動開始?…なに?これ?」
正也の端末を覗きこんだ恭子も何の事だが分からない。
「さあ?俺にも何が何だか…」
それは当然正也も同じであって、お手上げ状態なのだが…
「けど、今までに無い反応だな。正也君。他に何か変わった事が無いか端末を調べてみてくれ」
「あ、はい」
訳が分からない正也を余所に、研究者としての何かが反応したのか、権蔵の顔が活気に満ちている。
そして、言われたとおりに端末を操作すると、中に『ゲート発生』というコマンドを見つける。
その事を権蔵に言うと…
「…、もしかしたら何処かの国か、若しくは別の世界、はたまた別の銀河に行くゲートが発生するのかもしれんな…って、なんだね?正也君、そのいかにもアホを見るような目は。…って恭子君まで?」
「「だって…、ねえ?」」
正也と恭子の二人がお互いに同じ事を言い合う。
正に以心伝心(少し違うか?)
しかし、互いに言いたいことは同じだろう。
だが、権蔵のいう事も一理ある。
この世界は無い者も数多くいるが平均的に、否、少ない者も合わせればいつの間にか8割がたはオーラが使える者たちがいる世界になっている。
そんな世界で別の世界が無いだの、異次元の世界等存在しないだの言う方がおかしい。
その事に辿り着いた二人は、再び正也の端末を見て意見を交わす。
「…では、正也君。今日は一応その端末の事を調べるためにバイトはここまでで。後、調べている最中に何かあったらいけないから、一人で調べている最中は1時間おきに、セイラさんがいる場合は二人で30分おきに定時報告をお願いするよ。ココの皆の端末のIDは入ってるでしょ?」
「ええ、しっかりと。後、夕食後にお嬢様に、リリさんと海人さんと一緒に相談したいことが有るって言われたので、場合に由れば4人で同じ部屋にいるかも知れません。その場合は如何します?」
「ああ、その場合は構わんよ。我らは皆家族だ。隠し事など必要ない」
「って事。セイラさんには私から連絡するから、正也君は先にセイラさんの部屋でそのデータを解析してて?そんで何かあったら連絡。無くても1時間おきには連絡を入れて。分かった?」
「了解です」
恭子との相談も終え、そのまま部屋に行こうとする正也に権蔵は
「4人で寝るのも良いが、リリと海人君の仲を邪魔する事が無い様にな?何故かリリも海人君も奥手で困る。二人とも正也君のように毒舌でも良いから色々としてくれれば良い物を…。って事だから、場合に由っては海人君の刺激に成るように、リリを誘惑するのも良いが、刺激以上の事はダメだぞ?それ以外は見ない方向で対処する」
「…それでいいんですか?4人の娘の親としてどうなんです?私から言わせれば馬鹿としか言えませんが?」
「はっはっはー。娘たちが幸せに成るなら馬鹿で結構!セイは言うまでもないがルナも君には心を開き掛けているから、何なら二人ともよろしくと言えるようにしてくれ?まあ、ルーは婚約者がいるから諦めてくれとしか言えんがな?」
「!!ルーナさん遂に良い人が見つかったんですか?!おめでとうございます!」
突然のサプライズ報告に驚く正也だが、権蔵は苦虫を噛み潰したような表情で
「私は納得できておらんがな?ルーの意志を尊重して反対はせんが賛成もワシはしておらん。後は二人の考え次第だ」
どうやら相当権蔵にとっては嫌な相手らしい。
なら、必然的に相手は権蔵の嫌いな財閥の御曹司に絞られる。
後で調べて嫌がらせをしてやろうと決めた正也は、後ろ手に「では、また明日」と言って雇い主と別れながら、端末の事を考えて居た。
そして、財閥令嬢特別室へと来た正也は、何故か既にいるセイラとリリナ、海人の3人を見て絶句した。
何故なら、3人とも自分のオーラ型の端末をスタンバイ済みで、明らかに「仲間に入れろ!」という意志が見て取れた。
まあ、隠しても仕方ないので取り合えずデータだけでもお望み通り送ろうとしたのだが…
「来ないですよ!?正也ちゃん?!意地悪しないでください!」
「そうだよ!?正也君!こんな面白……いや、危なそうな事、一人でやろうとするなんて水臭いよ?年長者の意見も聞いた方がお得だよ!?」
(今、面白そうって本音が出てたぞ?おい!…けど、権蔵さんの言った通り、オーラが有る人には無理って事か?これは調べてみる必要があるな…)
そう思った正也は、一先ず3人(リリナはじーっと正也を見つめているだけだった)を落ち着かせ、此方の端末を見るように言った。
「落ち着いてください、お馬鹿さん達。貴方方の意見は分かりましたから、先ずは正常に働いている私の端末で検証しましょう。…良いですね?」
全員がコクコク頷いたのを確認すると、正也は端末を手元のパネルサイズのデータ画面から、ワイドモニター画面の各パラメーターが表示されているパネル画面に切り替えて3人に見せる。
そして、問題の『ゲート発生』のコマンドを開いて表示する。
すると……
「…これは何処かの惑星の映像?上に『アストリア』って書かれてるけど、もしかしてこの映像の世界がアストリアって名前って事?」
表示された世界は上空から見た世界だが、地球と似た世界…厳密には世界地図のまんまの大陸配置だった。
しかし、縮尺が異様に広範囲なのを除いて…だが…。
そして、海人の意見に傍で見ていたリリナは
「…海人?それが本当に有ってるとして、この『ゲート発生』って項目を考えると、普通に考えてこの世界にゲート、つまり扉を開くことが出来るって事かな?」
「……そうなると思いますが、リリ?もしかして行きたいの?」
「……」コクコク
海人の質問に無言で肯定の意を示すリリナ。
しかし、正也は流石に最初からリリナ達を使おうとは思っていない。
「まあ、どうなるかは分からないけど、もし扉が発生したら、最初は俺が行きますよ。もしお嬢様方が一度に帰って来れないとなれば、世界中で問題に成りますから。ここは「勿論、私も行きますよ?」…お嬢様?今言ったでしょう?万が一帰って来れない場合は問題に成ると。そもそもこのブラックボックスがダウンロードできた端末はオーラを使わない、いや、使えない者専用の端末なんですから。それに、ブラックボックスの内容物自体は、私の体内に直接入ってきて、情報が入っているの端末なんで、もしかしたら俺の端末が俺の体内の物とリンクしている可能性もある。そうなるとお嬢様が如何言おうが俺しか行けない可能性も0ではないんです。…それを分かっててくださいよ?」
「…分かりました。その時は戻るのを待ってます。ただし、その場合は必ず生きて帰ってくること。死ぬことは許しません。…良いですね?」
「…分かりました。私もセイラお嬢様を物にするまでは死んでも死にきれ…「では、一生死なないという事ですね?それなら安心です」…え?いや、そう言う訳では…」
「ははは、正也君。今回は珍しく君の負けだ。分かったら準備を整えて、万が一に備えないと。準備不足でどうにかなったら、それこそ笑い事じゃ済まなくなる。…じゃあ、実験は夕食が終わった後で再度ここでって事で。それでいい?」
「ああ(うん)」
「……」コクコク
そう言う感じで夕食後に再度準備を整えての実験となった。
更に、権蔵や恭子とも連絡を取って、場合に由っては必要になる正也の家族も少し遅い到着に成るが、集まるとの事だ。
そうして、その時がやって来た…。