0章 プロローグ
マジェスティックプリンスを見ていたら浮かんできた話です。
SFかファンタジーか、学園ものにするか迷ったので、全てを絡める予定
大自然に広がる草原を覆い尽くすほどの魔物の群れを見つめる高台に立つ4対の目。
その中の一対は全身金色の輝く魔導と呼ばれる技術を利用して作られた機械の人型人形。
一つは銀色に輝くオーラと呼ばれる力を利用して動く機械のボディーを持つ人型人形。
一つは白金に輝く初めの物と同じ魔導による機械人形。
一つは漆黒に塗りつぶされた魔導による機械人形。
これらはそれぞれ2.5M級の大きさの物だ。
それら計4体の機械人形の内、漆黒の物と銀色の物が魔物の群れに向かって行く。
そして、銀色の機体が徐に片手を前方出すと、機体と同じ銀色の円盤の様な物が飛びだして来て2体ともそれに乗って飛び出す。
すると、その円盤に乗った直後に漆黒の機体の両手から幾何学模様の魔法陣とこの世界で呼ばれている陣が現れ、瞬間……直径100メートルは有ろうかという水の塊が魔物達に向かって飛び出した。
そして、放たれた方向にいる魔物、炎翼竜はその攻撃を放った相手を己たちの敵と判断したのか、一斉に炎のブレスを吐いてきた。その数、前衛の魔物だけの物で大凡100発。
その炎と水のぶつかり合いは、ほぼ互角。
だが、その結果を信じられないかのような驚きに満ちた音声が、水蒸気で見えづらくなった辺りに木霊した。
「何だと!?何故高が一体のMBMだけで、100体からなるフレイムワイバーンのブレスと互角なのだ!どうなってる、ヒュロム!」
いきなり怒声を上げた男の傍らで、冷静に戦況を分析していた若者、ヒュロムは「ふ~む…」と呟きながら、己の推察を述べる。
「恐れながら申し上げます、北王元帥閣下。恐らく…ですが、あの漆黒の機体の魔法は我らの知る物と多少ですが、異なっておりました。その事と、あの機体の搭乗者の実力が合わさり、我らの想像をはるかに超えた威力の魔法を扱える物に成っていると推測されます」
その意見を聞いた男は、しかし顔を紅潮させると、騎獣たる一角ホースの背中を拳でドンッ!と叩き。
「ぬ~…では、これだけの戦力を持って王女らが王都の王城に帰還する目前の緊張の解けた頃を見計らって襲撃を行ったと言うのに、失敗に終わったと言うのか?!もう少しで人間共のMBMの核たる【レガリア】を我が国に持ち帰れると言うのに…!!」
「お気持ちは察しますが、後はこの魔獣どもに任せ、我らも一旦、戦力を結集した方が宜しいかと。まあ、折角集めたこの魔獣どもが勿体ないと言うのであっても、所詮は使い捨ての下僕共。野性に還してやってもどうという事は有りますまい。しかしながら、ココに長居しては先ほどの機体がこちらに気付いて戦闘に成り兼ねません。…ご決断を」
ヒュロムに促された男は、悔しそうにしながらも、高台の方を見つめ
「…待っていろよ、リルカ。お前は我が妻になる道が一番の幸せの道なのだ…。そして、【レガリア】をこの手に収めた時、我が野望はお前を手に入れる事と共に達成するのだ…はーっはっはー!!」
男はそう叫ぶと、ヒュロムと共に自らの自国たる魔国へと騎獣の足を向かせた。
「では、気付かれぬ内に帰還するぞ。護衛に精鋭のドラゴンフライ20体を連れて来い!」
「は!」
言われたヒュロムは、言いつけどおりに比較的強いドラゴンフライを護衛に選び。
この男たちは魔族で、魔物を使役する事は容易いが、使役すれば魔物の自我が無くなるので、こういう大規模戦闘にしか使えない、単体で強い魔物を人間族に嗾ける事は頻繁にあるのだ。
その為の傭兵稼業も人間たちの間では存在し、良い稼ぎになる。
謂わばどちらも無くてはならない存在だったりするのだ。
そういう背景もあり、これから行われる漆黒の機体の大量虐殺を見ることなく、ヒュロムとその主は帰って行った。
二人が帰って数秒間、静寂が訪れたのを訝しげに思ったのは漆黒の機体の搭乗者。
数秒間黙って見ていたが、一向に次の攻撃が来ない。
なので、己の雇い主に伺いを立てる。
「…あの~、依頼人の姫さん?こいつ等はどうすんです?操ってる奴らもういないみたいですが?」
「では、掃討を行ってください!この辺りの安全が確保され、我らが無事に王城へたどり着けることが出来れば今回のお仕事は終了です!」
「…分かりました!よし、セイラお嬢様。聞いての通りですから、お嬢様のの広範囲収束バリアでこいつ等逃がさない様にしてください!私は固まったら一気にデカイの落としますから!」
「分かりました~、いっきますよ~!」
セイラと呼ばれた声の主が気合の声を発するとその瞬間、銀色の機体の手から、もう一つの手とも言うべき何かが出てきた。
そして、その手が段々と大きくなり、前方の魔物の大群をすっぽりと覆い尽くせる位に成ると、その手を握り込む様に萎ませ、魔物の群れを引き寄せてからビターーン!と魔物共々地面に縫い付けた。
その直後、漆黒の機体から、またしても幾何学模様の魔法陣が現れ、そこから今度は何かしらのエネルギーが上空に向かい…次の瞬間、ドーン!という地響きと共に一斉に数百もの青白い雷が落ちた。
その後、その場にいた魔物達は、見事に黒こげになっており、生存する個体は居なかった。
その光景を遠くで見ていたこの国の住人は後に天変地異が起こったと噂したと言う…
そして、近くで見て居た者は正に開いた口が塞がらないと言った感じで見つめ、各々機体の中で…
「お父様の伝達魔法で聞いては居ましたが、これほどの実力とは…。これは、正也さん達には我ら人間の味方で居続けて貰わないといけませんね…さて、どう口説き落したら良い物か…」
黄金の機体の中にいる女性がそう言ったと思ったら
「正也君は言わばジョーカーだな…、味方に居れば心強いが、変に機嫌を損ねると此方が滅ぼされかねない」
白金の機体の中にいる青年は対処に困ると言った感じに呟く。
更に黒い機体と共に魔物を片づけた、漆黒の機体の搭乗者にセイラと呼ばれていた少女は
「さっすが正也ちゃん!カッコイイー!!」
と、ただただはしゃいでいた。
そんな感じで思い思いに思っていると、漆黒の機体が銀色の機体の近くに来た。
そして、お互いの機体の拳を突きつけていると、二つの機体に近寄る形で、白金の機体が二つの機体の背後から音もなく近づき、MBMの音声拡大の魔法ツール(脳波経由型システム)で話しかける。
「やあ、我が君が見込んだ通りだね。君たちを王城への帰還の護衛に雇って正解だったよ。…正也君はもうMBMには慣れたかい?」
歩み寄った声は若い男性の物だが、何処かフレンドリーな感じがすることから、正也と言う機体の搭乗者に友好的な者の様だ。
「いや、まだまだですね。お嬢様のOBMと比べるとどうしても展開速度に差が出てしまいます。…これは俺の脳が体の実行速度について行って無いって事ですか?」
聞かれた少年、加納正也は己の纏いし漆黒の機体から音声だけを外部に発生させ、問いかけに問いかけで応える。
更に、その少年の質問を聞いていたもう一つの機体、銀色に輝く機体からソプラノの綺麗な声が発せられる。
「正也は体の反応速度が異常なほど速すぎるんです!長年扱って来た私のOBMの速度に付いて来る事が出来るなんて異常としか言えません!もう少し私の機体の方を速度重視のメンテにしなさい!」
「お嬢様…何度も言った様に、オーラは個人の精神力を、そしてココでのOBMは個人のエネルギー、私達からしたら体力を媒体にしてると。下手にメンテの基本を変えたら後で取り返しが効かなくなりますよ?ココに来た当初から言ってる事でしょ?元の世界とは少し違うんだって。もう忘れてしまったんですか?脳味噌本当に入ってますか?」
「むぅ~…」
正也がもう一つの機体に乗っているであろう女性を宥める。
そして、正也の宥めが功を奏したのか、女性が渋々ながら自らのOBMを戦闘態勢から、戦闘準備状態に移行する。
カシュ―…っと機体から青白い湯気のような物が出て来て、それを合図に機体が光と共に消失し、機体が有った場所には一人の見目麗しい美少女が立っていた。
顔は百人が居たら90人位までは振り返るだろう位に整っており、髪は銀髪を背中まで流して横髪を後ろで邪魔に成らない様に縛った状態だ。
背丈は160位の女性としては平均的な背丈だが。堂々とした佇まいが、何処か近寄りずらい雰囲気を出している。女性としての凹凸には若干の乏しさは有るが、それはスレンダーなモデル体型という感じで考えれば女性でも憧れる物が有るだろう。
腕には何かの機械の様な物が巻かれており、恐らくはそれが先ほどの機体の準備状態なのだろう
その少女が漆黒の機体に向かって叫ぶ。
「正也!正也も早くMBMを指輪に戻して私と王城まで行きますよ!?早く準備なさい!」
「分かりましたよって、そんなに急ぐとまたやる事忘れますよ?あ、リコルさん。化け物共の利用できる箇所の回収と私達用の報酬の回収頼みます」
「分かった、近くに高速フライヤーを用意してたんだが…セイラ殿のオーラで行く方が早いかな?」
「ハハハ…すみませんね。お嬢様はオーラの扱いだ・け・は得意なものですから」
そう言って正也も漆黒の機体を指輪形態に戻す事にする。
「【収納】」
一言キーワードを呟くと、先ほどのセイラの時とは違い、此方は幾何学模様が足元に現れ、一瞬にして指輪の形状に戻った。
そして、機体の有った場所に現れたのは極普通の少年。
黒い髪と黒い目で、先ほどの漆黒の機体と同一の色の服装で身を固めている。
そして、その少年の腕には、少女の物とは少し違うが、同じような機械が取り付けられていた。
その機械を見ながら少々考えてから…
「…う~ん。やっぱりマジックブレインシステムは何処かオーラマシンのシステムとは違うな…。お嬢様、少し端末見せてください?」
「?はい、どうぞ。序に見たいと言うなら身体データも見て良いですよ?正也は特別ですから」
「それは毎回見てますから」
「冗談で言ったのにやっぱりそうだったんですか!?もう!しかし正也?エッチはまだ駄目ですよ?」
そんな風に言い合いながらも、己の端末をオーラによって正也の端末に接続するセイラ。
やり取りから少しだけ解かるかも知れないが、二人が扱う物は似て居る様で違う。
そもそもこの二人、この世界の住人ですらないのだ。
二人は地球人で、ここは地球と似て非なる惑星アストリア。
二人は有る事情から、オーラ専門学校のセイラの個室からココにゲートを通じて渡って来たのだ。
そして、渡ったは良いが、戻るのに向こうと連絡が取れなくなり、仕方なく帰る方法を探している最中なのだ。
そして、その為の情報を持つ人物の居る国に今身を寄せ、その者の願いを叶えるのと引き換えに情報を貰おうと言う感じで今に至る。
まあ、主に頭を使うのは正也で、正也の幼馴染であり、主であり、財閥令嬢の少女、綾小路セイラは比較的ここの生活も満喫しているようだが…。
そんなセイラは、正也の端末を覗きながら、一応意見を言う。
「正也?正也のMBMは何であそこまで反応速度が速いのです?脳内で処理するのはOBMも同じな筈でしょ?そもそもOBMを動かせない正也が同じようなマシンであるMBMを動かせるのにも驚きですが、それはもういいです。…が、私が逆にMBMを扱えないと言うのは納得できません。説明はして貰いましたが、それとこれとは違います。…どうしてですか?」
「まあ、一旦王城で風呂にでも入りましょう。お嬢様も疲れたでしょ?相手が大量の魔物だった上に、、操られていたとはいえ、普通の魔物とは格の違う魔物ばかりでしたから。私のMBMの大規模破壊…ってあれはもう魔法と呼ぶべきだけど、魔法を使った攻撃で一瞬だったとはいえ、オーラを大量に消費したのは変わらないんですから」
「…そうですね。それでは王城までの一っ走りを済ませた後、一緒にお風呂に入りましょうか。久しぶりに私が背中を流して上げます。…嬉しいでしょう?」
「もう子供じゃないんだからそれはダメって言ってるでしょう?兄妹みたいに思われたら、また変な話が来ますよ?」
「…ウぅ…あれは嫌ですね…こうなれば早いとこ地球に帰らねば…」
「そう言う事です」
そんな感じで、二人は共にセイラのオーラで作った筋斗雲で一路、シルイア国の王城まで戻って行った。
それを見ていた青年と、彼らに護衛されていた対象の少女は、苦笑しながら話をする。
「リコル、あの方たちの目的は何だと言ってましたか?」
「まあ、彼らから聞いた話を信じるなら、ですが…」
「それは?」
少女が其れでも良いと聞いてくる。
それに対しての青年の答えは
「どうやら、元の世界とやらに帰るのが目的とか。まあ、それはあくまで聞いた話で信用性は薄いですが。ですが、みすみすあれだけの技術と、知識。更に未知の力を持つあの者達を何処へ帰るにせよ、このまま帰すのは勿体ないですね。しかし、先ほど彼らが話していたように、我が国の王が早とちりで纏めてしまった縁談話は持って行っても嫌だと怒られただけですし、しない方が良いでしょう。仮にあの力の矛先が我らに向けば、我が国は一日と持たずに壊滅でしょう。…どうした物でしょうか…」
「主たるセイラ殿は何故かあれほどの美しさなのに、正也さん以外は頭に無いようなのでしょう?なら、残るは正也さんに親しい関係を誰かと持って貰えれば、少しは希望が出ますか?…場合に由れば、私でも構いませんが。しかし、迂闊に取り込もうとすれば途端に敵に成りそうですし。如何にかならないでしょうか?あれほどの脳内処理速度は何処の国の者でも見た事だ有りませんでしたから。それに先ほどの戦略レベルの魔法を平然と行使する力。何としても我が国に欲しい所です」
「…姫様がそこまで考えて居るなら、我が君に相談したらどうですか?王女として関係を持つと言っても、正也君はその様な物に拘りそうにないですし、親しい関係が有るというだけなら結構いますよ?他の国は勿論、この国の傭兵仲間でも同じですが。まあそれは同時にセイラ殿とも親しいと言えますが」
リコルの話に、姫様と呼ばれた、恐らくこの国の王女は、先ほどのセイラとは違うタイプの美少女だ。
金髪の碧眼で、髪は後ろで縛られて有るが、上の方で縛られているため、流れている髪がそのままサラサラと風に揺れていて綺麗に見える。
顔も可愛いより、美人と言った方が良い位の大人の雰囲気の少女だ。
その少女の言葉にも、青年は苦笑しながらこれからの正也の女難を心配していた。
この半年で、正也はこの世界では最強に近い実力の持ち主に成っていた。
元の世界ではオーラが使えないと言うハンデを、身体能力で補う彼が、如何いう訳でそういう位置になったのか、それは今からこの世界で半年ほど遡る事になる。