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ヴァンパイアハンターだった少女

 あたしの名前は、赤芽アカメ雷華ライカ、大学を目指して、勉強と剣道を頑張っています。

 勉強は、ともかく剣道っていうのは、解らないという人も多いかもしれないけど、とある事情で中学の前半までまともに勉強をしてなかったあたしが大学に行くには、それなりのプラスアルファーが必要な訳で、それであたしが選んだのが剣道だったが。

 とある事情関係で、剣術には、そこそこ自信があったからだ。

 でもやってみると中々面倒だった。

「赤芽、またルール違反だぞ」

 コーチから注意が飛ぶ。

「すいません!」

 頭を下げてから練習を再開する。

 剣道は、あたしがやっていた、ただ勝てば良いって言うのと違い、ルールが複雑で、そのルールにあわせて動こうとするとどうしても手間取ってしまい、いまいち成績が上がらないのだ。

 練習も終り、あたしがため息を吐く。

「剣道を選んだのは、失敗だったかも」

 そんな時、コーチがやってくる。

「赤芽、お前は、なんで剣道をやっているんだ?」

 いきなりストレートな質問、あたしは、視線を逸らす。

「剣道が好きだからです」

 呆れた顔をするコーチ。

「ミエミエの嘘を吐くな。本当の事を言え」

 あたしは、諦めて言う。

「良い成績残せれば、大学に行くのに有利になると思ったんです。あたし馬鹿だから勉強だけだと教育学部のある学校に進学するのが難しいから」

 それを聞いて苦笑するコーチ。

「お前な、そんな簡単にいけば誰も困らないだろうが。しかし、なんで剣道なんて選んだんだ?」

「昔、少し剣術を齧っていたから」

 あたしの答えに眉を寄せるコーチ。

「剣術と剣道は、かなり違うぞ。しかし、それで納得がいった。お前の動きは、剣道というよりも確かに剣術の動きだ。素質は、あるが、今のままでは、大会で良い成績を残すのは、難しいぞ」

「やっぱりそうですか。諦めて、勉強に集中しようかな」

 そう呟きながらも、かなり難しい気がする。

「もしくは、勉強をすっぱり諦めて剣道に集中するかだ」

 コーチのトンでも発言にあたしが驚く。

「指導者がそんな事を言って良いんですか?」

 コーチが肩をすくめる。

「いけないだろうな。だが、お前の成績を考えるとな」

 何故コーチまであたしの成績を知っているんだろう。

「覚悟が決まったら、話してみろ。出来るだけの協力をしてやる」

 想定外の展開に戸惑うあたし。

「どうして、そこまで言ってくれるんですか?」

 コーチが遠い目をして言う。

「お前を見ていると昔の自分を思い出すんだ。勉強が得意じゃなく、剣道に逃げていた頃の自分と」

「嘘、コーチって一流大学だった筈ですよね?」

 強い驚きを見せるあたしにコーチが手を見せてくる。

「頑張って頑張って、それでも結果が出なかった。でもその頑張りが無駄じゃない、頑張った分だけ頑張り方が解った。大学には、一浪で入ったんだよ。お前もここで一つの事に打ち込む事を覚えれば最悪は、一浪してから大学に入ればいいさ」

 コーチの豆だらけの手を見てあたしが頷く。

「解りました。手が豆だらけになるくらい頑張ってみます」

 それが、あたしとコーチ、城田シロタ誠一セイイチコーチとの関係が強くなる切掛けだった。



 あたしは、城田コーチと約束通り、剣道の練習に力を入れた。

 すると、少しずつだが、実力が上がっていった。

「城田コーチ、今日も居残り練習に付き合ってください!」

 あたしの言葉に他の部員が冷やかす。

「赤芽ってもしかして、城田コーチラブ?」

「違うよ!」

 あたしが力一杯否定すると他の女子が楽しそうに言う。

「そんな事を言って、二人っきりの居残り練習で、エッチな事を……」

 あたしの竹刀が畳から大量の埃を舞い上がらせる。

「あたしの本気の一撃を食らいたい?」

「結構です!」

 部員達が逃げていく。

 そこに城田コーチがやってくる。

「すまないが、今日は、用事があるんだ」

 眉をひそめるあたし。

「城田コーチだって用事があるでしょうけど、協力してくれる約束じゃなかったんですか?」

 手を合わせる城田コーチ。

「申し訳ない。暫く外せない用事が続く。それが終わったらちゃんと手伝うから」

「もう良いですよ!」

 あたしは、胸をもやもやさせながら練習場を出て行く。

「きっと本命の彼女よ」

「それとも赤芽に飽きて、別の女子に……」

 あたしが睨んでいる事に気付いて、視線を逸らす部活の仲間達。

 そして、皆と別れて一人、夜道を歩いていると、嫌な気配を感じた。

「これってまさか……」

 あたしの予感が当たった。

 不自然な足の動き、それに引き換えもう直ぐ日が完全に暮れると言うのに立ち上がる獣じみたオーラ、あたしに近寄ってきたサラリーマンは、間違いなく吸血鬼に襲われ、伝染している。

「嫌なものを見ちゃったな」

 あたしは、携帯を取り出しながら呟く。

「あいつだったら戻す方法も知ってるかもね」

 そういっている間にも襲ってくる。

「はいはい、落ち着くって、言っても解らないか」

 あたしは、携帯を操作しながら、攻撃をかわす。

 パワーやスピードが鋭いが、所詮暴走でしかないので、避けるのは、それほど難しくないのだ。

「周りに被害が出る前に……」

 その時、後ろから声が聞こえた。

「赤芽、下がれ、そいつは、危険な化け物だ!」

 先に帰った筈の城田コーチが駆けて来る。

 その手には、見覚えのある刀があった。

 振り下ろされる刀の一撃が元サラリーマンを消滅させた。

「何も聞くな、今日の事は、忘れるんだ」

 城田コーチがこっちを見ようとせずに告げた。

 あたしも無意識に視線を逸らしてしまう。

 そんな中、霧が集まり、一体の吸血鬼になる。

『人間の分際で私の僕を滅ぼすなんて生意気ね』

 無意味に露出が多い服を着た、無駄に胸の大きい女吸血鬼がその目から赤い光線を放つ。

「危ない!」

 城田コーチが前に立ち、それを防いでくれた。

『その刀、ただの武器じゃないわね?』

 城田コーチが刀を突きつけて告げる。

「そうだ! これこそがお前達吸血鬼を滅ぼすための武器、シルバーアイだ!」

 やっぱりそうだったか。

『面白いわね。でも、刀にどんな力が有っても、人間の動きには、限界があるのよ』

 下半身を狼に変化させた女吸血鬼が野獣の動きで城田コーチに襲い掛かる。

「くそう!」

 必死にシルバーアイを振るう城田コーチだったが、完全に翻弄されている。

 遂に、シルバーアイが弾かれる。

『お終いね!』

 一気に城田コーチに襲い掛かる女吸血鬼。

 あたしは、シルバーアイを拾い、女吸血鬼の前に出る。

「止めるんだ! それは、使い手を選ぶ、それをこっちに渡して逃げるんだ!」

 城田コーチの言葉にあたしは、苦笑する。

「よく知ってるよ。来たら、あたしには、あんたの攻撃は、通じないから」

 嘲笑する女吸血鬼。

『愚か過ぎる! お前みたいな小娘が握った所で、その武器が本当の力を発揮するわけも無いわ!』

 スピードを信じた真っ直ぐな攻撃、あたしは、半歩だけ前に出てシルバーアイを振り下ろす。

 あたしの後ろに降り立った女吸血鬼の動きが止まる。

 あたしがゆっくり振り返ると女吸血鬼が顔を強張らせて居た。

『何をしたの?』

 あたしは、シルバーアイの刀身を軽く叩いて言う。

「シルバーアイって名前は、伊達じゃないの。その声を聞こえれば、貴女の弱点、狼に変化させても残った重要なパーツを見破る事が出来る。そこに一撃を入れられた貴女に助かる道は、ないよ」

『嘘よ!』

 叫びながら崩壊していく女吸血鬼。

「赤芽、お前どうして、シルバーアイの力を知っているんだ」

 それに対して、答えたのは、あたしも知っているが、余り顔を合わせたくない人間だった。

「それは、彼女がかつてシルバーアイの使用者だったからです。それも歴代でも指折りの吸血鬼撃退数を誇るね。お久しぶりですね」

 あたしは、隠れて一部始終を見ていただろうシルバーアイで吸血鬼を狩る組織、シルバークロスのエージェント、青木アオキ豹輔ヒョウスケが姿を現す。

「前に剣術を習っていたって言ったでしょ。吸血鬼狩りに必要だったから、習わされていたの」

 あたしの答えに城田コーチが戸惑っていた。

「そんなどうしてお前が……」

「才能があったからだって、でも中学の時に辞めた。友達が辞める勇気をくれたの」

 あたしの言葉に青木が大きなため息を吐く。

「本当に残念な話です。あの化け物が余計な事をしなければ、もっと多くの吸血鬼が滅びていた事でしょうに」

「あたしの友達を化け物呼ばわりしないで!」

 あたしが睨むと青木が手を差し出す。

「そうですか、とにかく、シルバーアイを返してください。それともまた、貴女がその主になりますか?」

 あたしは、シルバーアイを青木につき返す。

「誰が貴方達の下で戦いますか!」

「そうですか、また機会がありましたら」

 シルバーアイをもって去っていく青木。

 あたしは、城田コーチを見る。

「どうして、城田コーチがシルバーアイの使い手になったんですか?」

 城田コーチがあたしに背を向ける。

「個人的な事情だ。お前の判断は、正しい。戦う覚悟があるものじゃないといけないんだ」

 その言葉にあたしは、ヴァンパイアハンター時代、あたしつきのエージェントだった男性と似た雰囲気を感じた。

「城田コーチも吸血鬼に家族を殺されたのですか?」

 城田コーチは、胸から下げていたロケットを握り締める。

「俺の恋人が奪われた。奴らからそれを取り戻すその為に、俺は、修羅になる覚悟がある」

 月光のした、城田コーチを見送るあたしの胸がズキンと痛む。

かつて吸血鬼ハンターだった少女の現在、そして新たな吸血鬼ハンターは、淡い恋心を抱いた男性だったって話です。

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