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07





 簡単な舗装しかされていない道を一定の速度で歩く馬車。


 隣には試験の監督役のフィンが座っている。これはまだいい。


 しかし、対面式の馬車で彼らの反対側には依頼人である宝石商を営むカイエン。隣に秘書らしき男。この二人はシキをいないものとして、フィンにばかり話しかけている。シキが疑問に思ったことをフィンに問いかければ、フィンとの会話を邪魔されたとばかりにシキを睨みつけてくる二人。


 いい加減にしろと言いたい。


 二人の中ではただの新米で非力な冒険者としか思われていないということをシキはわかっている。目がそう言っているからだ。


 (これが二日も続くとなると……切りたくなるな)


 少々危ないことを考えつつ、自身が持つスキルの一つ【索敵】を発動する。


 (範囲は周囲5キロ、っと……うん、すでに引っかかってる所がテンプレだ)


「フィン」


「なんですか?」


「ここから3キロほど行った所に20人ほどの人の固まりがある。動く様子が見えないんだが、盗賊だったら嫌だから斥候を出していいか?」


「あ、それでしたら僕がします。風の精霊と契約してるんで」


 言うなりフィンは風の精霊を呼び出し、馬車の外に放つ。魔力の高い者であれば精霊の姿は視認可能で、シキも彼の呼び出した小さな精霊の姿を見て取れた。


「シキさん、よくわかりましたね。竜族の力の一つですか?」


「りゅ、竜族!?」


「あ、はい。シキさんは竜族なんですよ。なんでも500年ほど引き籠ってたみたいで、世界が様変わりしてびっくりしたって」


「引きこもりで悪かったな。あと、さっきのは竜族の能力じゃない。【索敵】っていうスキルの一つなんだが……持ってないのか?」


「? スキルって何ですか?」


「……魔法の一つ?」


 シキ達プレイヤーは普通にスキルを使用していた。だからこそ、今一つスキルがどういうものなのか口頭で説明しづらい。魔法で括ったほうが相手がわかりやすいので、魔法と説明したのだが、思わず疑問形になってしまう。


「便利な魔法なんですね。じゃあ、えっとせっこう? っていうのは?」


「斥候な。フィンの風の精霊と同じだよ。召還した動物、こういうときは鳥かな。それを放って相手の様子を確かめるんだ。精霊は目には見えないから便利だけど、相手にフィンみたいなエルフがいた場合は感知されやすいだろ」


「はい」


「でも動物だと逆に警戒されにくい。こういう森だと鳥なんていくらでも飛んでるし。まあ、逆に動物を見かけない地域なんかだと疑われるから、その辺は個人の状況判断だな」


 そこまで説明し終えると、フィンの目がキラキラと輝いているのがシキの目に見て取れた。そして彼はシキの手をぎゅっと握り――その時商人と秘書がムンクの叫びのような顔をしていたのは無視して――笑顔で叫んだ。


「すごいですっ! 初めてシキさん達見た時から絶対に只者じゃないと思ってたんです!」


「そ、そうだったのか」


「はいっ。だってシキさん気配消すの上手いですし、ゼロさんは隠してますけどすごい魔力を感じてます。リュイさんに至っては契約してる精霊達がすごく喜んでるんです。僕、200年生きててこんなの初めてです」


 わりと自分に対してだけそんなに称賛していると感じないのは気のせいだろうか、と思いつつ、シキは乾いた笑いをもらす。


 (ダメだ。こいつは本当に素でこれなんだ。天然っていうより鈍いんだ。え、なにゆとり教育?)


 その時風の精霊が帰還し、フィンの耳に何かを囁いた。それに頷いたフィンがカイエンに伝えると同時に、精霊を送還しようとするが精霊は嫌がっている。


「どうしたの?」


“ご挨拶したいの”


「挨拶?」


 精霊はちらちらとシキに視線を送っており、シキもそれをしっかり受け取っている。そこに込められた意味も。


「いいぞ、来い」


 ぱあっ、と精霊の顔が輝き、シキのほうに飛んでくる。精霊は小さな唇をシキの頬に付けて、にっこりと微笑んだ。


「話はまたあとで」


 シキは頬を緩めて、人差指で精霊の頭を撫でた。それが合図のように精霊の姿はかき消える。


「えーっ!? なんですか、今の!」


「ああ、オレ風竜出身だから風の精霊には懐かれやすいんだ」


 嘘ではない。


 シキが最初にプレイヤー登録したさいには、竜族の中でもスピード特化の風の魔法を操る風竜族として登録した。転生したことで風竜ではなくなったが、それでも一番相性がいい属性は風だ。


「エルフが精霊や動物と親しくなるのと一緒だよ。それよりフィン、報告があるんじゃないか?」


「あっ、そうだ! カイエンさん、ここから2キロほど行った所に盗賊団が待ち構えてます。僕達が先に行って倒しておくので、別の馬車に移って速度を落として走行してください。シキさん、協力お願いします」


「了解」


 カイエンが馬車を止め別のに乗り移り、フィンとシキの乗っていた馬車に、ステラのメンバーが乗り込み先行する。御者を務めるのは人間であるラスとゾックスが適任なのだが、見た目で盗賊団が警戒する可能性があった。ラスはいかにも魔道士らしいローブを着ており、ゾックスは筋骨隆々で農夫ならともかく隊商の御者には見えない。


「ラス、ローブ脱いでもらっていい?」


「うむ。フィンの頼みなら仕方ない」


「ありがとう。ごめんね、ローブは魔道士の証なのに無理言って」


「大丈夫だ。これも依頼なのだから」


 ローブをたたみ、杖と共に御者台の隅に置いておく。


 その状態でしばらく進むと、予め得ていた情報通り20人ほどの盗賊達がナイフや剣片手にぞろぞろと出てくる。その口から出る口上も似たり寄ったりで、中で聞いていたシキはつまらなそうに小さく息を吐いた。


 だが、その間にもフィンやクロス達は馬車の扉を開けて外に飛び出し、盗賊達に攻撃を仕掛けていく。シキが外に出た時には半数以上の盗賊達が血を流して倒れていたり、魔法で黒焦げや氷漬けになったりしている。


「オレの出番なさそうだ……っ、気持ち悪い……」


 辺りを漂う血臭に肉の焦げた臭い。


 (っ……! ここは、ゲームじゃない……血だって出るし、一歩間違えば死ぬんだ……)


 ゲームでは死亡によるゲームオーバーでも少し時間が経てば復活できる。攻撃されてもエフェクト効果が出るだけでも、痛みも何も感じない。


 しかし、今シキがいるのはゲームの中の世界じゃない。


 今のシキにとって、ここが現実。


「やばい……吐く……」


 口元を抑え、迫り上げてくるものを我慢していると、視界の端に己に向かってくる影を捉える。


「シキさんっ!」


 フィンの声にシキの体が反応する。


 シキの手が腰元の刀に触れたかと思うと、目の前に迫っていた盗賊の首が胴から離れていた。切口は凍っており、血が噴き出すことはない。


 『氷華凍月』


 シキの愛刀であり、氷属性の力を秘めている刀。スキル【永久凍土】を標準装備しており、これに切られた相手は状態異常【凍結】となり体力値が徐々に削られていく。しかし氷漬けになる時間は所有者の属性魔力値に左右され、属性魔力値が高い者ほど凍結効果も長い。


 マスタークラスであるシキの属性魔力値は、風は最大値でそれ以外もほぼ最大値に近いステータスを保有している。


 本来であれば全身が氷漬けになってもおかしくないが、シキが持つサムライとしての技量と合わさって切り口だけを凍らすという神業が為し得た。


「ははっ……」


 (初めて、初めてこの手で人を殺した……)


 仮想現実ではただのゲームオーバーでしかないが、現実である今はれっきとした殺人行為に値する。


 肉と骨の断つ瞬間の感触が手に残っている。


「あははは……」


 小さな笑いだけが唇から零れ出る。


 それがスイッチだったかのように、シキは自身が持つポテンシャルを使用して周囲を囲んでいる盗賊達を切り捨てて行った。





異世界トリップ設定で、あんまりみんな書かないけど、絶対自分の攻撃で相手の命が失われたら何かしら思う所があると思うんですよね。


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