03
マップに従って歩く三人の姿は周囲の目を惹いた。
三人とも目を攫うほどの端正な顔立ちをしており、女性の視線はシキとゼロに。男性の視線はリュイへと向けられている。最初は。
だが、明らかにゼロとリュイが真ん中にいるシキに対してアプローチ染みた行動を取っていくので、次第に男女問わず嫉妬の視線がシキへと向けられていく。
(オレにそんな視線向けられても困るんだが……)
思わず肩を落としたくなるくらいの強烈な視線の嵐。視線で人が殺せるなら、間違いなくシキの息の根は止まっている。
現在の体勢。
ゼロの腕がシキの腰へと回され、リュイが自分の腕をシキの腕に絡めている。
「……二人ともすごく歩きづらいから、手を離してくれないか?」
「「いや」」
「即答か」
離す気の欠片もない二人に、シキは大きくため息をついて最終的に諦めた。
通行人の視線をないものとして、無心でギルドまで歩いて行く。
街並みは、三人がプレイしていた時代とそう変わってはいなかったものの、広さは格段に広くなっており、中央に位置する城は遠目から見ても大きいと言えるほど。
「お城ってこうなんて無駄にでかいんだろうな」
「そういや城落としなんてクエストあったな」
「ありましたわね。わたくしたちは参加不可でしたけど」
「あれ、おもしろそうだったんだけどなぁ……」
ギルドクエスト、ストーリークエストの二つに加え、運営側が特定のプレイヤーに対して強制かつ突発的に発生させるクエストがある。
プレイヤーは強制イベントと呼んでいたのだが、その一つにレベル1000以上のプレイヤー全員に発生した強制イベントがあった。
その名が『城落とし』と呼ばれたもので、運営側が指定した国に傭兵としてプレイヤーを配置し、敵対国を攻め落とす戦争イベント。
最後に残った国に所属してプレイヤーにレアイテムもしくはレアスキルが与えられた。
マスタークラスの面々は一人一人のステータスが半端ないため、戦局のバランスを崩しかねないという理由で参加不可だったのだ。
「わたくし、あの後腹が立ってマスター全員と残りのプレイヤーのガチンコバトルクエストを運営に申請したのですが却下されてしまいました」
「そりゃ却下されんだろ。つーか、さすがにマスターといえども対クラス外プレイヤーっつーのはきついぞ」
「オレ、運営が却下してくれて助かったと思う」
「楽しそうだと思ったんですもの」
「あ、ここだギルド」
三階建ての建物の扉を開けると、様々な種族で溢れていた。それらを軽く眺めてから、受付と思われるカウンターへと足を向ける。受付には赤毛をした猫族の女性が立っており、にっこり微笑んで三人を迎えた。
「冒険者ギルドへようこそ、本日は何の御用事でしょうか」
「ここに冒険者として登録したいんですけど」
「冒険者志望の方ですね。それでしたら、まずは此方の用紙に名前と種族をお書き下さい」
三枚の羊皮紙とボールペンを差し出される。
(羽ペンじゃないのか……)
中世ヨーロッパのような雰囲気を放っているのに対し、所々に現代の科学技術に通じる部分も見て取れた。
シキは朝食を取る際に、厨房内にオーブンレンジと思われる物や冷蔵庫思われる物があるのを見ていた。聞けば魔法具の一つで、中に魔石が入っているとのこと。
シキの中では魔石=電気という結論に達している。
(種族……普通に書いたらやばくないか?)
最強種に転生しているシキ達。普通にその名前を書くと争いごとを招きかねない。
シキの始源竜。
ゼロの魔王。
リュイの妖精女王。
この三種がこの時代ではどういう扱いなのか、皆目見当もつかない所なのだ。シキはシークレットチャットを開く。
【二人とも、種族は転生前のを書いた方がいいと思うんだが、どうだろうか】
【俺もそれを考えてた。下手に書くとどんな目にあうかわかんねえしな】
【そうですわね。特にゼロは最悪討伐対象になってもおかしくありませんもの】
【一応、魔族の冒険者がいたから大丈夫だとは思うけどな】
【じゃ、そういうことで】
チャットを閉じて、三人はそれぞれ転生前の種族を書いて女性に差し出す。受け取った女性は羊皮紙の上に、カウンター下から取り出した無色透明の宝石を二つずつ置いて何か一言唱える。すると、羊皮紙が一瞬で消えてなくなる。まるで宝石の内側に吸い込まれてしまったかのように。
「では、こちらの石に少量で構いませんので魔力を流し込んでください。それによって皆様専用の魔宝石が出来あがります」
(なるほど。魔力の質は個人個人で違うから、個人情報の特定みたくなるわけか。魔法とは恐ろしい技術だな)
他者に悪用されないよう、魔宝石は自身の魔力にしか反応しないようになっているのだと女性は言う。一つはギルドで保管され、特殊な魔法によって一つに精製されるのだと言う。
(ファンタジー版個人情報保護法だな。これだったら盗まれても個人情報が晒されることもないから安心ってことか)
三人がそれぞれ魔宝石に魔力を流し込むと、無色透明だった魔宝石が色を持つ。
シキは黄金。ゼロは漆黒。リュイは白銀。
「それでは次に……」
言いながら女性は粘土のような平面状になっているものを取り出し、三人に魔宝石と一緒に手に乗せるよう言う。その指示に従うと、魔宝石と粘土もどきが発光し形を変えていく。
光がおさまると、シキの左手に黄金の魔宝石のついたピンキーリング。ゼロの右手に漆黒の魔宝石のついたピンキーリング。リュイの左腕に白銀の魔宝石のついたブレスレットがそれぞれついていた。
「それぞれご本人様仕様になっておりますので、失くした場合の再発行には金貨五枚かかります。ご了承ください。続いてギルドのシステムについて説明させていただきます」
「ギルドのシステムは500年前と変化なしか?」
ゼロの問いに女性は僅かに考えてから頷く。
「大まかな部分には変わりありません。ですが冒険者ランクが変更になり、SS・S・A+・A・B+・B・C・Dの八階級になりました」
「なるほどな。どうする、変化ないなら飛ばすか?」
「いや、念のため聞いておきたい」
「お前がそう言うなら」
「すいません、続きをお願いします」
「かしこまりました」
ギルドへの依頼は壁一面の掲示板にランク毎に貼ってあり、受けてみたい依頼がある場合は依頼書を掲示板から取ってカウンターに提出。依頼の再確認をした上で初めて契約が成立する。
依頼終了後はカウンターに終了報告をする。こちらも終了確認が取れたら依頼終了と認められ、報酬が支払われる。
アイテム採取や討伐依頼などはアイテム提出や、討伐モンスターの一部を提出することで依頼完了とする。また、荷運びや護衛などは対象者から依頼完了の証を受け取り、それをギルドに提出することで依頼完了とする。
依頼をこなすことにより、報酬と共にポイントが登録者の元に入り、そのポイント既定のラインに達するとランクが上がる。
また、モンスターの毛皮や爪、牙、羽などは換金の対象になる。
「説明は以上です。皆様はDランクになりますので、一番右端の掲示板がDランク用の依頼版ですのでご活用ください」
「今のランクより、上のランクの依頼って受けることは出来るんですの?」
「はい、可能ではありますが、それはCランクからになります」
「つまり、Dランクのわたくし達がCランクBランクの依頼を受けることは不可能、ということですのね」
「はい」
「わかりましたわ、ありがとうございます」
登録を無事に終えた三人はさっそく掲示板の前に立って、貼られている依頼書を眺める。
「んー……やはり最低ランクなだけあって、心を擽るものはありませんわね」
「討伐依頼とかほとんどねえしな。大体が薬草採取か、荷物運びってとこか。シキ、どうする?」
「んー……ふと思ったんだが、オレ達三人で一つの依頼受けるのか?」
「……ランクを上げるには別々の方がいいかもしれませんわね」
「ちょっと聞いてくる」
「え、ゼロ?」
ゼロが再びカウンターに向かい、説明をしてくれた女性に何かを問いかけていた。二言三言会話を交わすと、シキとリュイに向けて手招きをした。
「ゼロ?」
「パーティ申請出来るんだと。そうすると個人依頼で受けた分の一部のポイントが他のメンバーにも入る。パーティで依頼を受ける場合もあるらしいぜ」
「ソロでやるよりは早いってことか」
三人はそれぞれ顔を見合わせ、不敵な笑みを浮かべて申請する。
パーティ名は『アヴァロン』
ケルト神話において霧に包まれた伝説の島であり、アーサー王をはじめとした英雄達の集いし島と言われている。このパーティ名は三人が初めてパーティを組んだβ版時代につけた名前だ。
その名前が使用できなければ他の名前を考えなければならない。だが、思った以上に登録はすぐに終わった。登録が終わればもう一度掲示板の前に立ち、それぞれ依頼書を剥がしカウンターに差しだすのだった。
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