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 後ろからぞろぞろと付いてくる気配にシキは眉をひそめる。隣に並ぶゼロとリュイも不機嫌そうな顔をして歩いていて。


 (全部切り捨ててやろうか、こいつら……)


 依頼を受けたことがどこからか広まり、おこぼれに預かろうとしたであろう冒険者達が姿を隠しながらついてくるのをシキ達は早々に察知していた。


「フィン達がついてこなかったことを喜ぶべきだろうか」


「それは当たりだったな。あの王子様に感謝だ」


「さすがは天然総受け体質ですわ。何か、魔性のフェロモンでも出ているのでしょうね」


「男限定のか」


「男限定のです」


 王家からの特別依頼ということもあり、三人は依頼を請け負った後ギルドを通じて王家から顔見せの話が来たのだ。フィンのいるパーティがサポートとして一緒に依頼をこなす予定を立てていたこともあって、彼らも同じように城へ招待された。


 城にいた衛兵や王族達の一般的には高い顔面偏差値だが、シキとしてはゼロとリュイを見慣れている分普通に思えてしまった。また、フィン達のパーティの顔面偏差値も比較的高い。その中で頭一つ飛びぬけているのがリーダーのフィンだったのだが、彼は女性からというより男性から熱い視線を浴びるほうが多かった。エルフという前提をおくならば、シキにとってフィンよりもリュイのほうが美人だと思う。だが、城ではフィンほどリュイは熱い視線を浴びてはいなかった。逆に、女性からの視線を圧倒的に集めたのはゼロだったりする。


 そして、最終的にはフィンの明るく真面目な態度が気に入ったのか、シキ達は面会していない第二王子に見初められて王都、それも王城に一時的に止まることになってしまったのだ。クロスを始めとしたパーティメンバーも反対したが、王族の権威というものを見せつけられてしまうと一歩下がるしかないのが一般庶民。フィン自身も同行の意思を示していたが、後々面倒なことになりそうな予感がしたシキがそれを制し、王都に止まるようお願いした。王族に気に入られたという話を聞いた時点で後々面倒な事が起きる予感がしていた。


「シキの判断は本当に正解ですわ。わたくしたち三人だけでもこれですもの。フィンが同行したらもっと多かったことでしょう」


「次に戻ったらまた増えてんじゃねえの、あのパーティ。最終的にはフィンと愉快な仲間達になんぞ」


「さすがにそこまではないと思いたいが……まあ、そんなことよりそろそろ転移しないか? うっとおしくなってきた」


「同感だ」


「同じく」


 シキが右手中指の指輪を見せながら言うと、ゼロとリュイもため息をつきながら右手をあげる。いくつか生きていたゲーム内の機能で、【ホーム】機能が生きていたことにこれほどありがたいと思ったことはない。マスタークラスにのみ与えられる【ホーム】機能は、同じマスタークラス同士のみフレンドリストに登録してあればお互いの【ホーム】に行き来可能なようになっている。無条件で【ホーム】に出入りできるのはマスタークラスの特権なのである。シキのフレンドリストにいるマスタープレイヤーはゼロとリュイだけなので、シキの【ホーム】に出入りできるのは二人しかいない。元々シキはソロプレイ希望で、必要以上にフレンドを増やさなかったこともあり、ゲーム内でシキの知り合いはそれほど多くない。数少ないマスタークラスの中にも、シキが知らない人物が数人いたりする。


 これらのことから、シキ達は自分達がいる世界が現実ではあるが、虚構と入り混じった誰かが製作した世界なのではないかと時々考えることがあった。何度考えても答えは出ないが。


 【ホーム】への転移機能を起動させると、三人の足元に転移陣が現れる。様子を伺っていたであろう数人の冒険者が慌てて駆け寄ってくるがもう遅い。


 次に三人が見た光景は、青空とその下に広がる雲海。シキの【ホーム】である屋敷の屋上から見える、ゲーム内でもデフォルトの光景だった。


「……ふうん。思ったより酸素は薄くねえな」


「というより、普通は夜明けから早朝に発生するものなんだが、雲海は」


「ゲームですもの」


「リアルだろ、今は」


 風にたなびく髪を押さえながら屋上から屋敷内に通じる扉へと足を向ける。扉を開けて、階段を下った先に見える景色は、ゲームの中で見ていたものと同じで。


 サムライという職業を選んだのも、シキは根っからの和物好きからくるもので。【ホーム】の外観は和風、中のインテリアは和を基調とした和モダンで構成されている。【ホーム】をもらってから、稼いだ給料から生活費を除いた金額をこれでもかというほど課金アイテムとしてインテリアを買ったのは間違いではないとシキは思っている。


 (やはり正解だったな。ここは本気で落ち着く。こういうのは好みが出るものだし……そういえばゼロの【ホーム】には脱力したな)


 ゼロの【ホーム】が島にあると聞いたとき、シキはバリ島のような雰囲気のインテリアや外観かと思えば、普通の洋風建築の外観に、中身はどこかのモデルルームかと思うような、物の少ないシンプルイズベストという言葉が似合う部屋だった。それは500年経った今でも変わっておらず、一度【ホーム】機能を試した際に再度痛感した。ただし、倉庫には多種多様のアイテムが無造作に置かれている。


 (まあ、倉庫はどこも似たようなものか。オレの所も同じようなものだ)


 出入り可能とはいっても、【ホーム】の持ち主本人以外が【ホーム】内の物を持ち出すことは不可能な、盗難防止のシステムも未だ働いている。そのため、一年以上経っても時々ゲームなのか現実なのかわからなくなる。


「さてと、採取といくか」


「シキ、お前倉庫にはないのか?」


「あまり生産系のスキルはあげなかったからな。倉庫にも生産系アイテムは少ない。逆にお前のところのほうがあるんじゃないか?」


「んー……ああ、イベントで使い切った。炎と風のロンド」


「懐かしいですわね。運営のお茶目イベント、区分はハーレクインでしたかしら」


「噂によると、あれで付き合い始めた奴ら、リアルでも付き合い始めたらしいぜ」


「あ、オレもそれ聞いたことある」


「わたくしは女性の一人が実はネカマで、リアルでオネエだったっという話を聞きました」


「「………………」」


「しかもバリタチだったそうです」


 その光景を思い浮かべ、シキは静かに合掌した。












 シキが屋敷の扉を出ると、周囲に広がる森の奥から強い力の固まりが此方側に向かってくるのを感じて一瞬警戒するが、すぐにその正体が思い当たり気を抜こうとしたが、


『主様―――――――――――――――!!』


 怒涛の勢いで向かってくる者達に危険を感じ、一度は出た屋敷に戻って扉を閉めた。


「シキ」


「オレは何も見なかった」


 リュイの窘めるような声をシキはスルーしてリビングのソファに座る。


「俺んとこのリルもすごかったけど、お前んとこはもっとアレだな」


「わたくし達は獣型ですけど、シキの所は人型ですものね。しかも十二体」


「おかしい……あんな奴らじゃなかったはずなんだが……」


「悩む前に外出てきて相手してやれ」


「……………………わかった」


 眉間に皺を寄せつつ、シキはもう一度屋敷の扉を開ける。すると、そこにはカラフルな髪色と体色を持つ者達がいて、シキを見ると感極まったかのように泣きだした。


『主、様……!!』


「……久しぶりだな、みんな」


 まるでようやく母親を見つけた迷子の子供のような使い魔達。シキは思わず苦笑してしまう。何も怖がることも怯えることもない。彼らは絶対にシキを傷つけることはしないのだから。


「長く留守にしてすまなかった」


『主様!!』


 黒髪に黒い瞳を持つ幼子の姿をした一体が飛び出してシキに抱きつく。それを皮切りに、残りの十一体もシキに抱きつくのだった。






今年最後の投稿になります。

本年は大変お世話になりました。来年も書き手共々よろしくお願い致します。



いい加減さっさとくっつけたいのになんだ、こののろのろペース……

そして十二天将といいつつも、まったくもって彼らのビジュアル面は考えてません。考えると結果的に印象深い某ライトノベルの十二神将になるからね!

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