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 三人がギルドへ入ると、普段でも騒々しいホールがさらに騒々しくなっていた。シキは首を傾げつつ、近くのカウンターにいる受付嬢に理由を聞く。


「いつもより騒がしいが、何かあったのか?」


「実は早朝に依頼が入りまして。それが王家からの依頼で……」


「何かの討伐依頼か?」


「いえ、採取なのですが……物が物でして。それで騒ぎになってるんです」


 ちょうどそこへ依頼のボードを見ていたゼロとリュイが戻ってくる。二人ともどこか戸惑ったような表情を浮かべているので、シキは何かあると思って身を引き締める。


「二人とも、何かあったのか?」


「あったっつーか、なんつーか」


「王家からの採取の依頼の対象なのですが、ヴェグニスラピスなのです」


「また懐かしい名前が……」


 ヴェグニスラピスとは風と炎の精霊の魔力が入り混じった鉱石で、ある特定のフィールドでしか採取することが出来ない代物だ。


「だが、あれをどうするつもりだ? あれを使うにはテラクアラピスが必要だろう、確か」


「そっちは手に入ってるってことだろ」


 テラクアラピスは土と水の精霊の魔力が入り混じった鉱石で、ヴェグニスラピス同様、特定のフィールドでしか採取することが出来ない。二つの鉱石は対になっており、シキ達の知識では双方が互いの暴走を防ぐために一緒に鍛冶や調合に使用することが必須になっているアイテムだった。


「シキさんっ!」


「フィン?」


 鉱石の使用方法について考えていた時に、聞き覚えのある声がシキの名前を呼んだ。その方向に顔を向ければ、フィンと彼のパーティが勢ぞろいしている。前に見たときよりも人数が増えているのは気にしないことにした。


「お久しぶりですっ」


「ああ。相変わらず元気そうだ」


 きらきらと輝くような笑顔につられて、シキも笑みを浮かべる。そのまま撫でようかとしたところで頭の上に重さを感じた。同時に、腰に絡み付いてくる腕。こんなことをシキにするのは一人しかいない。


「……ゼロ」


「よお、フィン。久しぶり」


「あっ、ゼロさんお久しぶりです! 相変わらず二人とも仲がよろしんですねっ」


「まあな。で、どうした? もしかしてお前もあの噂の依頼目当てか?」


「ゼロ重い。退け。そして腕も放せ」


 しかしゼロは聞く耳持たずと言った体で、顎をシキの頭に乗せたままフィンとしゃべり続けている。


「そりゃ噂にもなりますよ。ヴェグニスラピスが取れるのはもうコレーの洞山しかありませんから」


「ごふっ」


 フィンが出した単語にシキは思わずむせた。その単語をこんなところで聞くとは思っても見なかったのだ。


「コレーの洞山、なぁ……そんな危険な所だったか?」


 ゼロはにやにやとした顔でシキの顔を覗き込む。


 (ゼロ、お前知ってるだろうがーーーー!!)


「洞穴までは安全なのに、中の森が危険地帯って有名なんですよ」


「なんだと!?」


「S級冒険者数名がパーティを組んで向かったことがあるんですけど、命からがら逃げて来たったほどですから。噂では、森の奥の洞山の頂上に当たる部分に大きな屋敷があって、そこには伝説級のアイテムがあるらしいんですが、そこに辿り着く前にはかなり強力なモンスターを倒さなければならないそうです」


 フィンの説明に、シキは忘れていたことを思い出して顔面蒼白。


 (や、やばい……どう考えてもアレが原因だぞ……!)


「ヴェグニスラピスは、そのモンスターが出るギリギリの領域で採取出来るので、ギルドとしても人選に困ってるらしいです」


「そうか……ゼロ、リュイ」


「わかっております。行くのでしょう」


「原因が原因だからな。すまない、二人とも付き合ってくれ」


「断るわけねーだろ。指名の依頼もねーしな」


「その通りです」


「あの、まさか三人がこの依頼を受けるつもりですか!?」


「そのつもりだが?」


「さっき言いましたよね!? すごく危険な場所なんですよ!?」


「危険じゃない。あそこは俺のフィールドだ」


「そうそう。フィン、お前が言ってる頂上の屋敷はシキの“家”だからな」


「え、え、えええええええええ!?」


 大声を上げたことで冒険者達の視線が一気にこちらへと向く。シキは注目を集めたことに頭痛を覚えつつ、フィンに黙るように目で訴え、それに応えたのを見てカウンターへ手続きをするため足を進めた。









 依頼内容が内容のせいか、普段よりも依頼の受諾に時間がかかり、手続きが終わった頃にはすっかりと日が暮れていた。三人はフィンも交えて早めの夕食を取るべく馴染みの酒場へ。シキが定期的にヘルプとして手伝っているせいか、他の客よりほんの少しだけ安くしてくれるお気に入りの店である。


「シキさん。ちゃんと説明してくれますよね」


「あー、フィン。お前クロス達を置いてきて」


「クロス達がいると無駄に騒いで話が進まない気がするんで」


「何気にひどいよな、お前」


「本当のことです」


 ばっさりと仲間を切り捨てて、フィンはシキに詰め寄る。思わずこの切捨てっぷりに、シキは実はフィンは天然鈍感なのではなくて、すべてわかっている上で逆ハーレム状態を維持しているのではないだろうかと思ってしまう。


 だが、それ以上にこれから起きざるをえない出来事の予想がつきすぎてため息をつきたくなる。


「フィン、俺たちはいわゆる長命種だろう?」


「そうですね」


「それでだ。その中で俺たちはそれぞれある場所に“家”を持ってるんだ」


「シキさんだけでなく、ゼロさんやリュイさんもですか?」


「はい。わたくしの“家”はアルセイドの森にありますわ」


「俺はハーデスの冥海だな」


「どれも第一級特殊危険地帯認定されてる場所じゃないですかっ! というか、ゼロさんのハーデスの冥海なんて住むような場所じゃないですよ……」


 絶叫するフィンと正反対に、シキ達は運ばれてきた食事を突いている。


「そうか?」


「そうです。あんな強力な魔獣や幻獣に囲まれた場所に住むなんて普通考えません。というか、住む場所ってあるんですか? 海じゃないですか」


「ああ。一応島があんだよ、無人島。住み心地はいいぜ」


 もう何も言えないとばかりに、フィンはテーブルに突っ伏してぐったりしている。逆のこの光景がシキにとっては不思議で仕方がない。シキ達の【ホーム】があるフィールドは、マスタークラスになったと同時に与えられる一番相性のいいフィールドだ。だがそのフィールド、最初は名前があるだけの、無のフィールド。そこからプレイヤーがカスタマイズして初めてフィールドとして成り立つ。マスタークラスのプレイヤーの【ホーム】があるフィールドは運営が設定するフィールド・ダンジョンより難関で鬼畜というのが、【アルカディア・オンライン】の定説。それでも攻略するプレイヤーが後を絶たないのは、【ホーム】の規定の場所に辿りついた所で運営から褒章が貰えるからである。だから今更慌てられることに首を傾げてしまうのだ。


 (まあ、他の冒険者を悩ませているのは俺達がカスタマイズ配置した幻獣達だろうな。そういえば最後にカスタマイズしたと何かでかいのを配置したような……)


 目を閉じて当時のことを思い出そうとするシキ。ふとゼロとリュイを見てれば、二人も何かを思い出そうとするかのような表情をしている。それぞれの視線が絡み合うと同時に記憶が呼び覚まされた。


「「「ああっ!!」」」


「な、何事ですか!?」


「やばい」


「やべえ」


「やばいです」


「何がどうやばいか説明をお願いします」


 説明をしたくとも、フィールドカスタマイズなどという出来事を説明出来るわけもなく。上手い言い訳はないものかと考えていたらリュイが口を開いた。


「簡単に言えば、わたくし達“家”の周りに警備用の幻獣を召喚してそのままなのです。ちなみにわたくしは金毛白面九尾ですわ」


「オレは十二天将」


「俺はフローズヴィトニル」


 三人の発言にフィンが意識を飛ばすのを見て、シキは思わず美少年は気絶する姿まで美しいなと関係のないことを考えるのだった。






誤字脱字は帰宅後直します!



久々の総受けキャラ登場。彼はホイホイです。

まあ、脳内では総受けからの固定ルートがしっかり出来あがっているのですが、たぶん日の目を見ることは当分ないでしょう。気がついたら「あ、こいつとデキてやがる」というような感じになっていることでしょう。



この連載の単語は様々な神話や言語から取って造語作ってます。

幻獣とか魔獣に関しては神話・伝説上の生物や神様から拝借中。


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