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 ゆらゆらと波間を漂っていた意識が急速に覚醒していく。


 瞼を開けると目の前は肌色で、シキの身体が硬直する。恐る恐る視線をあげれば見慣れた顔で、ふっと硬直が解けて力が抜ける。


 (……寝起きでこれはきついだろう……)


 気づけば、己は彼の腕を枕にして寝ており、起きたときの事を考えると申し訳なくなる。刺激しないようゆっくりと起き上がろうとするも、腰にしっかりと腕が回されている。


「……はあ。仕方ない。ゼロ、起きろ」


 彼の肩を揺らし、声をかけるが無反応。何度か繰り返すも無反応。次第にまともに起こす気をなくし、シキは風の膜を作ってゼロの顔を覆った。


 膜の内側は真空なので、当然酸素はない。


 数秒後、真っ赤な顔で荒い呼吸を繰り返すゼロがいた。


「シ、シキお前なぁ……!」


「起きないお前が悪い。オレは普通に起こした。大体、こんな寝起き悪くていつもどうしているんだ?」


「昨日は特別だ。遅くまでアートルムと呑んでたからな。お前も途中で潰れるし」


「途中までは覚えているんだがな……オレ、何か仕出かさなかったか?」


「……いや、別に?」


「その間がすごく気になるんだが……」


 眉を顰めると、ゼロは苦笑して立ち上がってベッドの下に散らばるシャツを拾い上げる。シキがじっとシャツを羽織る様子を眺めていると、ゼロが視線に気づいたのか「どうした?」と問いかけてくる。


「こうして改めてみると、いい身体しているなお前」


 ぺたり、とシャツの上からゼロのお腹をさわり、ぺたぺたと肩や胸、背中へと手を当てる。前から背中に腕を回して触っているので、傍から見ればシキがゼロに抱きついているように見えるだろう。


「……シキ」


「ん?」


「お前は、鬼か?」


「は?」


「また生殺しかよ」


「何を言っているんだ、お前は」


「無理だ、もう無理だ」


「ゼロ?」


 ひょいとシキの身体が抱きかかえ上げられ、一度は離れたベッドに放り投げられた。文句を言おうとする前に、腕を押さえつけられ唇が塞がれる。


「んぅっ!?」


 歯列を割って侵入してくる舌にシキのそれは絡められていいように翻弄される。ほとんど経験のないシキは、ゼロにいいようにされっぱなしで。


「シキ……」


「ゼ、ロ」


「……悪ぃ。マジでもう無理。だからちょっとだけ」


 ――味見させて


 その言葉を聞いた次の瞬間、シキの脳内は真っ白になった。









 ぼおっとする頭を抱えながら、窓から見える風景に心癒される気がした。小さな幼竜達が互いにじゃれあって遊んでいる。近くで見れば人型のシキよりも大きいが、高い場所から見ればとても小さく見えるほど。


「……なんであんなことをしたんだろう」


 思い出すのは、体中を巡る感じたことのない感覚と、それをもたらしたゼロの色っぽい表情。


 シキが風呂に入るとき以外は絶対に触れることのなかった場所に、ゼロは自ら手を伸ばして触れ口内に含んだ。それだけでも羞恥で死にそうになったのだが、そこから始まった快楽にシキは呑まれ、気が付いたら目の前が真っ白になったのだ。


 その後は動けなくなったシキの身体を綺麗にタオルで拭き、脱がせた服をしっかりと着させて部屋を出て行った。それ以降、ゼロはこの部屋に戻ってきていない。


「元彼もあそこまで色っぽくなかったしなぁ」


 今ではほとんど顔も思い出せない存在ではあるが、少なくとも顔面偏差値はゼロよりも低かったのは確実だと言える。そこでかなり久しぶりに現実世界のことを思い出したことに気付いて顔を俯かせる。


 こちらの世界に来た当初は何があっても脳裏の片隅に現実世界の事は残っていた。あちらにいた家族や友人のことを忘れることはなかった。しかし、ゼロやリュイと過ごして行くうちに、まるでこちらの世界に最初からいたように馴染み、気がつけば忘れないと思っていた現実世界を思い出にしていた。


 ゼロとリュイが早々に現実世界に見切りをつけていたのは気がついていた。二度も戻れないと確信した時に二人は覚悟を決めていたのだろうとシキは思う。郷愁を抱えていれば、その寂しさと今の現実とのバランスが取れなくて壊れてしまう可能性があることもシキは知っている。それでも忘れないと決めていたのだ。だが、その決意は遠い昔のようで。今はこの世界で生きることがすべてになってしまっている。それもこれも、ゼロとリュイという心強い仲間がいるからだ。二人がいなければとっくにシキは壊れていた。元々、男の体に女の心というアンバランスを抱えていた所に孤独と郷愁を抱えてしまえば、シキの心は摩耗する一方で自ら命を絶ちかねなかっただろう。


「ゼロとリュイに感謝だな……よし」


 一つ気合いをいれ、深呼吸をしてから寝台を出る。これ以上うだうだと考えても答えは出ない。それならば本人に突撃あるのみだ、の精神で部屋を出て行くのだった。












 アートルムはテーブルに突っ伏して絶賛どん底中の養父を見てくすくす笑う。


「もう、お父様ってば早まってはダメって言ったのに」


「うるせぇ」


「まあ、お母様はある意味お父様にとって天敵ですものねぇ。でも、最後まではいたしてないのよね?」


「してねえ。してたら土下座してる」


「押し倒した時点で土下座するものではなくて? それはそうとお父様、ちゃんとお母様に説明した?」


「あ?」


「お母様をつまみ食いしたあと、ちゃんとお母様に説明もしくは謝罪」


「……してねえな」


「……嫌われるんじゃないかしら、それ」


 これから先やっていけるのかしら、この二人。とアートルムは養い親達の行く末を心配してしまう。五百年ぶりに再会した二人の間に流れる空気は彼が覚えているのと変化はなかったけれど、それはそれで心配だとも思っていた。


 (ホント、お父様の鉄壁の理性には乾杯だわ。まあ、お母様が気付いてないのも理由でしょうけど。リュイお姉さまと相談しようかしら)


 養い親達をよく知る姉貴分なら快く相談に乗り、なおかつ二人を動かしてくれることだろう。


「……取りあえずシキに説明して謝ってくる」


「そうね、それがいいと思うわ」


 ゼロがのろのろと立ち上がって歩きだそうとした時、私室の扉をノックする音が聞こえてくる。そしてリーガルの声がしてシキを連れてきたとの言葉に、アートルムはゼロと顔を見合わせる。すでにゼロの顔色は悪く、一度は立ち上がったものの再びテーブルに突っ伏していた。


「すぐに通してちょうだい」


「アートルム!」


「ちょうどいい機会だからがんばってちょうだい、お父様」


 扉が開いて、ひょっこりとシキが顔を出す。アートルムは笑みを浮かべて養い親の片割れを迎え入れ、そしてリーガルと共に部屋を出て行った。


 事情を知らないリーガルが不思議そうな顔をしているのを知らないふりをして、事の顛末を語るべくリュイを探していると、竜の谷の中でひときわ緑が目立つ場所で彼女は竪琴を弾いていた。その周囲では小さな幼竜達が集まって奏でられる旋律に聞き惚れて寝ている。アートルムをしばらく立ち尽くし、目を閉じて旋律に酔いしれる。


「……アートルム、来ていたのなら声をかけてもよろしかったのに」


「あたくしもリュイお姉様の奏でる音色に酔いしれていたのよ」


「口がお上手ですこと」


「お世辞じゃなくてよ?」


 竪琴を脇に置いたのを見てから、アートルムも幼竜達を起こさぬよう気配を殺して近くに座りこむ。


「シキとゼロの様子はどうです?」


「一応二人きりにしてきたわ。今は話し合いが必要だと思うから」


「ゼロの忍耐が切れてきたというところでしょうか」


「……ほんと、リュイお姉様は何でも知っているのね」


「その兆候はありましたもの。しばらく会えなかったので、弱っていたのかもしれませんわ」


「あのくそガキったら本当に碌な事しないわ」


 アートルムはくるくると指で毛先を弄り、唇を尖らせる。


 先代竜王の嘆願によりフィオリースは謹慎処分で譲歩したのだ。本来なら谷から追放が最低処分でもおかしくなかったのに。フィオリース自身にもそのことを伝えておいたはずなのに、まったく聞いていなかったとでもいう風に彼は出歩いてシキを攫って岩牢に閉じ込め、人里を荒らした。今度という今度は先代竜王も口出しできない。人との共存を掲げてきたのはその先代竜王自身なのだから。


「一応今のところ谷からの追放が有力ね」


「力の封印をして谷から追放してしまえばよろしいのですよ。徒人同然に生きるということがどれだけ大変かを知るべきですわ、あのお子様は」


「それはいい考えだわ、リュイお姉様。是非提案させてもらうわね」


「ところで、話は変わりますけれど。アートルム、あなた結婚はしていないのですか?」


「してないわねぇ。周りはさっさと跡継ぎを作れって言うけど、そんな気にもなれなくて……」


 その時のことを思い出し、アートルムは盛大にため息をつく。養い親達と再会するまで婚姻を結ぶことはしないと宣言した。そして今その養い親達と再会したのだから、フィオリースの件が片付いた後、再度長老や側近達が縁談を持ってくるのは目にも見えていた。


「本当に嫌になるわぁ」


「それでしたら……」


 次の瞬間、リュイが発した言葉にアートルムは絶叫するのだった。







取りあえずメインの仲を縮めて行きます。

シキはゼロがバイだと知らないので鈍感かましてます。この態度にイラッとしたら申し訳ないです。


この程度ならR15レベルだと思うんだけど、大丈夫、ですよね……?



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