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 あらかじめ敷いておいた転送陣で村へとやってきたゼロとリュイを出迎えたのは、悲痛な顔をしている大人達と、泣きそうな顔の子供達だった。


 シキが連れて行かれたと泣く子供達を宥め、大人達に状況を聞いたゼロは静かに怒気を撒き散らす。その怒気に怯えたような様子を見せる子供達に気づいて、気を落ち着かせようとするも、なかなかうまくいかない。


 (落ち着け……あいつがあの程度の奴らにやられるわけがねぇ。俺の相棒はそんなに弱くない……)


 ゼロにとってシキは最愛であると同時に、肩を並べられる強い絆で結ばれた仲間で、背中を預けることの出来る存在。


 相棒と呼ぶ唯一の存在。


 シキ以外にゼロの相棒になれる存在はなく、また、しようとも思わない。


 ゼロはシキが最初のパートナーであったことは運命だと思ってる。あの邂逅の瞬間、ゼロの運命は決まったのだ。


「リュイ」


「なんです?」


「久々に暴れようぜ」


「勿論ですわ。谷が壊れるくらい暴れてやります」


 ニヤリと笑って言うと、リュイもにっこりと微笑んで言葉を返す。そして二人は、心配げに見送る村人達に気にするなと声をかけて谷のほうへと歩き出す。


「ゼロ、谷までどうやって行くおつもりですか? まともに歩いていたら三日はかかりますわよ」


「あ? 何言ってんだ、お前。便利なもんがあるじぇねぇか」


「便利なもの?」


「召喚獣」


「あ」


 同時にゼロの前方に魔方陣が浮かび上がり、陣の中から大きな白い鳥が鳴き声と共に出現する。鳥は親愛の情を示すように、首をゼロの顔に摺り寄せる。


「久しぶりだな、ルフ」


『五百年ぶりじゃな、主よ。して、何用か?』


「俺の相棒が馬鹿な竜に連れ去られてな。それを助けに行くために、あの谷まで運んで欲しい」


『なんと。竜の身でありながら、始まりの竜たる竜帝殿を浚う不届きものがおったとは知らなんだ。あいわかった。主と女王殿を運べばよいのだな』


「ああ、頼む」


「わたくしは大丈夫ですわ。ルフの手を煩わせることなど出来ませんもの」


 今度はリュイの隣に魔方陣が浮かび上がり、羽を持った一頭の馬が出てくる。馬はリュイの顔に鼻面を摺り寄せた。


「ペガサス」


『マスター、お久しぶりです。また、あなたと共にあれて私はうれしく思います』


「ありがとう。突然で悪いのだけれど、あの谷までわたくしを運んで欲しいのです」


『承知いたしました』


 リュイがペガサスに乗ったのを見届けてから、ゼロは自身の召喚獣【ルフ】の背に乗って飛び出させる。周囲に結界を張っているおかげで、風の抵抗を受けずにいられるため地上を馬車などで走るより快適な旅といえよう。


『主よ』


「なんだ」


『この五百年何をしておったのだ。我らが呼ぶも応えることはなく、我らを呼ぶこともなく。突如として主殿達の気配が消え、最近また気配を感じた』


「…………」


『我らもだが、特にあの竜の仔が、な』


「……正直、俺らにもわかんねぇんだよ。気づいたら五百年経ってやがるし、シキとリュイ以外に知る奴もいねえ」


『不思議なこともあるものよ。さて、主。そろそろ谷に着くぞ』


「谷間に突っ切れって言いたいところだが、あの警戒ぶりだと無理だな」


 数日前に谷を訪れたときは竜族であるシキがいたからこそ、警戒されずに花を手に入れることが出来た。しかし、今はそのシキがいない。


 谷の入り口で数頭の竜がぎらぎらとした目つきでゼロとリュイを見つめている。


「あんときの取り巻き共か。ん? あのクソガキがいねえな……」


 竜達が吐き出すドラゴンブレスを華麗に避けながら、ルフから飛び降りる。同時にルフは送還し、衝撃を和らげるべく足元に下から押し上げるように風の渦を作る。隣を見れば、リュイを同じように風を纏って衝撃を殺している。正確には風の精霊が、彼女が傷つかないようにと支えていた。


 地に足をつけると、銃を肩に乗せ、サーベルを竜達に突きつける。


「さっさとシキを返せ。じゃねえと三枚卸にすんぞ」


 ゼロの言葉に、竜たちは目を細ませて人型を取った。会話する意思があるのかと思ったが、竜たちはゼロに嘲笑を向ける。


「世の中には馬鹿な存在がいるものだね。私達竜に人が勝てるとでも?」


「どうやら勘違いしてるみてぇだな。俺は人じゃなくて魔族だぜ?」


「対して違いはないよ~。どっちにしろ僕達には勝てないしね~」


「その通りです。魔族といえども下級魔族でしょう。そのような者に私達が負けるはずがありません」


「……なんですの、このお馬鹿さん達は。本当にこれが竜族? 五百年の間に随分落ちぶれたようですわね」


「馬鹿なのはこいつらとフィオなんとかっつー我がままクソガキだけだ。全部一緒くたにしたら失礼だろ」


「ああ、そうですわね」


 二人の言葉に竜たちの殺気が膨れ上がる。だが、ゼロはまったく気にしていない。


 この世界にトリップしてから、肉体と種族に合うように感覚も変化したのか、ゼロはこの程度の殺気には動じなくなっていた。同等の実力を持つ者以外には興味は惹かれない。


 戦いにおいてゼロの興味を惹くのは、同じマスタークラスだけで。今となってはシキとリュイしかいない。しかしリュイは基本的には後方支援タイプ。あまり手合わせすることもないため、ゼロの心を惹くのは後にも先にもシキだけになっていた。


「……ゼロ、もう一匹近付いてくるのがいますけれど、もしかしてあれが困ったちゃんですか?」


「あー……あの色、そうだな。うわ、うぜえ」


 ゼロ達の視線の先には見覚えのある色の竜。対峙していた竜達も気づいたのか、慌てた様子で「フィオリース!」と叫んだ。


「来たの……どうして?」


「俺を仲間はずれにするなんてひどいっ! 最低だっ」


「違うよ、フィオリース。こいつらはフィオリースを傷つけたから、俺達がお仕置きしようと思っただけだよ~。これ以上フィオリースに傷ついてほしくなかったし」


「そうですよ。決して仲間はずれにしたわけではありません。私達がフィオリースにそんなことするわけないでしょう」


「そうなのか? じゃあ許してやるっ」


 人型になったフィオリースの顔がゼロへと向けられ、彼は顔を輝かせる。


「お前かっこいいな! 名前はなんていうんだ? 教えろよ」


「誰が教えるか。消えろ、カス」


『なっ!?』


「友達にそんなこと言っちゃいけないんだぞ! あ、わかった! お前友達がいないんだろ。だったら俺が友達になってやる! だからちゃんと謝れよ?」


「マジうぜえ」


「聞きしに勝るとはこのことですわね……本当にあなた脳みそ詰まってまして? まさかピーマンのようにカラカラ音が鳴るのではないのですか?」


「リュイ、そりゃピーマンに失礼だ。こいつは煮ても焼いても使えねえクソ野郎だが、ピーマンは立派な食材だ」


「わたくしとしたことが……ピーマンさん、ごめんなさい」


 明らかに馬鹿にしているゼロとリュイ。フィオリースはぽかんとした後、ようやく言葉の意味を捉えたのか怒りで顔を真っ赤にしている。それは彼の横に立つ竜達も同じで。武器を手に取り、攻撃しようとしてきたところで別の竜の影が彼らを覆った。


『そんなところで何を騒いでいる』


「リーガル様……!」


 跪く取り巻き竜達とは違い、フィオリースは人型になったリーガルと呼ばれる竜に即座に駆け寄って抱きつく。だが、抱きつかれたほうの顔が顰められたのをゼロは見逃さなかった。


「リーガルっ、あいつらひどいんだ! 俺のこと馬鹿にするし、この間なんて村で俺のこと傷つけたんだ!」


「村、だと?」


「そうだ。ほらっ、麓の」


「この、馬鹿者が!!」


 リーガルの身体からゆらゆらと魔力が滲み出る。そのプレッシャーに、フィオリースの身体が震え目には涙が浮き始めていた。取り巻き竜達もがたがたと震えている。


 (へえ……結構強そうじゃねえか……レベルも750とあいつらとは桁違いだな)


「竜王陛下は貴様に人里へ降りることを禁じたはずだ! 貴様は人の村を荒らし、人を傷つけた。誇り高き竜がそんな堕ちたモノのようなことをするなど、到底許されるようなものではない。本来ならば処分されてもおかしくないところを、先代陛下の頼みで今代陛下は貴様を謹慎処分で済ませた。だが、貴様は先代の心遣いを無残に破った。もう誰も貴様を庇う者はいない」


「お、俺は悪くない! 悪いのはあいつらだ! 俺が友達になってやるって言ってんのに逆らうあいつらが悪いんだ!」


「そうです、リーガル様。フィオリースは優しい子で」


「貴様らも同罪だ。人の村にいた同族をありもしない罪で牢に入れたそうだな」


「違います! あいつはフィオリースを傷つけてっ」


「だからと言って魔力封じをつけた上に襲わせたと?」


「「襲わせた……?」」


 ゼロとリュイの言葉が重なり、そこでようやくリーガルは気づいたというふうに二人の顔を向けた。


「貴様らは……」


「そいつらが村人を人質にした挙句に浚っていった奴の仲間だ。そっちのごたごたはどうでもいいが、シキは返してもらおうか」


「そうか……それはすまないことをした。此度のこと、陛下も心を痛めていた。是非我らの謝罪を受けてもらいたい。奥へと来てもらえないだろうか」


「謝罪はわたくしたちよりも、周囲の村の方々へお願いいたします。ある村では領主へ収める税の一部である作物を荒らされてしまったそうですから……」


「なんということを……その村へは心からの詫びをしなければ……」


 目を細め、心を痛めているかのような声で呟くリーガル。フィオリース以下取り巻きの竜達は頭を垂れ、その場を動かない。と、いうよりも動けないでいた。彼らの周囲を武装した人型の竜達が囲み、逃げないように見張っていたのだ。


「名前を聞かせてもらえないか。魔の者にエルフよ」


「ゼロだ」


「リュイですわ」


「ゼロ殿、リュイ殿。竜の谷は貴殿らは歓迎する。陛下の下へ案内したい。着いてきてくれないか?」


「ああ」


「わかりました」


 竜体に戻ったリーガルの背に乗せられ、谷の奥へと飛び立っていくのだった。






出逢い=運命。

ただしゼロ目線(笑)


ちゃんと番外でゼロがシキを愛するようになった過程もあげたいんですが、全部纏まりきっていないのでまだUP出来ません……


ちなみに「ルフ」っていうのはロック鳥のことです。

本当はガルーダとかにしようと思ったのですが、ガルーダの餌ってドラゴンだよねって思い出して却下しました。いろんな意味でシキが食われかねない(笑)


また編集前のそのままあげてしまった……たぶん、たぶんもう誤字はないはず……!!

一時間前の自分を蹴りたい。

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