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 王都から竜の谷付近の村まで馬車で四日。ただしこれは山賊や盗賊、魔物に狙われることなく休憩いらずで向かった場合であって。途中休憩を挟むので一週間はかかる。シキたちも例に漏れずこの状態で、何度か襲われたので返り討ちにしてた。


 御者は優秀な冒険者がいるかいないでは危険率が全然違うと言う。最初はその意味がわからなかった二人だが、実際に襲われる確率を考えて納得した。


 村に付いた頃にはすでに日も暮れていて、一軒しかない宿兼食堂兼酒場に二人は足を踏み入れる。中では村人たちがどこか沈んだ様子で酒を飲んでいる。


「……葬式?」


「違うだろ」


 首を傾げつつ、受付で同じように沈んだ面持ちの受付嬢に声をかけた。


「しばらく泊まりたいんだが」


「あ、はいっ! いらっしゃいませ! お客さんたち冒険者ですか?」


「ああ。ちょっと依頼で竜の谷に」


 その言葉に室内がざわめいた。


「? 何かあるのか?」


「いえ、その、谷自体には問題はないんですが……」


 言葉を濁す受付嬢をフォローするように奥から女将らしき女性が出てきてため息をつきながら言った。


「今この村に谷から困ったちゃんが来ていてね。村の作物を荒らしていくんだよ。倒そうにも竜の息か尻尾で攻撃してくるせいで村の奴らの半数近くが怪我を負ってるのさ。おかげで活気もなくなっちまった」


「それは……」


「まったく、先代の竜王陛下の孫だかなんだか知らないけど、今じゃただの竜と同じじゃないか。わがままな子供と一緒だよ」


「……同族が申し訳ない」


「同族? あんたまさか竜族かい?」


「ええ、まあ」


「俺、魔族」


 ゼロの魔族発言にまたどよめく。辺境に近い村ほど魔族を嫌悪する傾向があり、冒険者といえども排除される可能性もある。しかしゼロはあえて自らの種族を名乗った。その理由をシキは正確に汲み取り、彼の顔を困ったように見上げる。しかし彼はシキの頭に手を置いて軽く髪の毛をかき回す。


 女将の反応を窺っていたが、女将は目を見開いた直後ゼロの背中をばんばんと叩いた。


「こんなところに魔族が来るなんて何年ぶりだろうねぇ! まったく、魔族の男はいい男ばっかで目の保養だね!」


「おいおい女将。俺たちもいい男だろー?」


「この兄さんに比べりゃ月とすっぽんだよ!」


「違いねえ!」


 笑いが響き渡り、逆に呆然としてしまう。


「魔族ってことに偏見はないよ、この村はさ。何せ今代の竜王陛下は魔族に育てられた方でね。魔族だからといって偏見を持たないでほしいと、わざわざ当時の村長に直接お言葉をかけられてね。それがきっかけでこの村は魔族への態度を改めたのさ。200年前の戦争の折にも、近くに住んでいた魔族が村のために結界を張ってくれてね。戦火を免れたこともある。だから魔族を悪く思う奴らなんていないよ、安心しな。まあ、かっこいいから嫉妬する男共はいるかもねぇ」


 明るく笑う女将にシキとゼロは頬を緩ませる。そのまま二人は中央のテーブルまで案内され、村人たちに囲まれるようにして食事を取った。


 食事の間にも情報収集は欠かさず、花についてや谷の状況、困ったちゃん竜についても聞く。


 困ったちゃん竜はまだ若い竜で、大体は一匹で来て村で暴れ周り畑を荒らし、果物をかじり取っていく。時々取り巻きと思われる三匹の竜と共に来ることもあるという。先代竜王の孫と称して荒らしていく様は誇り高い竜族にはとても思えないと村人たちはため息をつくばかり。話を聞いていた二人も、その様子を思い浮かべて顔をしかめる。


「女将、そいつは成竜なのか?」


「らしいね」


「ろくな人生、いや竜生か? まあ、送らないな」


「同感だ」


 ふう、とため息をついて窓の向こうの谷のほうへ視線を向ける。すでに日は暮れて谷の形は見えずとも、僅かに竜の咆哮が耳に届く。


「その困ったちゃんには遭遇したくねえな。面倒くさそうだ」


「魔族のお兄さん気をつけてくださいね。なんかイケメン好きっぽいですから」


「はあ?


 突然受付嬢をしていた女性にそう声をかけられ、ゼロが素っ頓狂な声をあげる。


「前にくそが、失礼。困ったちゃんが来たときにイケメンの冒険者がいたんです。そしたらそいつ、いきなり人型になって冒険者の人口説いてったんですよ。まあ、冒険者の人は引いてましたけど、なかなか可愛い人型でした。ちなみに男の子です」


「リュイがいたら喜びそうな話題だな」


「確かに。ま、外見がいくらよくても中身がそれじゃあな。まともな奴はひっかからないだろ?」


「確かに。でもあいつは気に入った人間を浚っていくんです。私も弟も友達だ、とか言われて連れて行かれて……一週間後に全身傷だらけ、両手両足を折られた状態で広場に打ち捨てられていたんです……! 奇跡的にも命は助かったんですけど、それ以降外に出るのを怖がって……」


 顔を伏せる女性の言葉に村人たちが心痛な面持ちに。シキとゼロは眉をひそめて聞いていた。


「シキ、そういうくそがきは一回俺らでシメね?」


「運よく会えたらな」


「よっしゃ! ちょっとこの時代で試してみたい術があったんだよな……」


 楽しそうに喉を鳴らして笑う相棒に、シキは再度大きなため息をついた。












 翌朝、寝ぼけた眼を擦りながら窓を見ると、外ではゼロが何やら畑の周囲をうろうろとしている。シキは首を傾げたが、すぐにその理由が思い当たり手早く顔を洗って外に出る。


「おはよう、ゼロ」


「おはよう、シキ。ゆっくり眠れたか?」


「ああ。ゼロこそ眠れているのか?」


「心配してくれてんのか?」


「当然だろう。お前、馬車の中でも眠れてなかったじゃないか。王都にいた頃も」


「大丈夫だって。マジで眠くねぇんだよ。どうも魔族の体っていうのはほとんど眠りを必要としないらしい。便利っちゃ便利なんだけどな。いろいろやれるし」


「あまり無理しないでくれよ? ゼロが倒れるのは嫌なんだから」


 その言葉にゼロの目が僅かに瞬き、頬が緩んでどこか嬉しそうで困惑染みた笑みが浮かぶ。


「ほんと、お前って凶悪……」


「は?」


「いや、こっちのこと。気にすんな」


「ならいいが……もう一つ聞きたいんだが、なんで魔法陣らしきものを書くのにわざわざその辺の棒じゃなくてルキフェル使ってるんだ?」


 『ルキフェル』はゼロ愛用のサーベルで、こちらも『ディアボロス』同様一点物で、ゼロしか所持していない。若干バトルジャンキーの気があるゼロは、魔族の主な攻撃手段である魔法以外の戦い方を求めて銃と剣を習得しようとした。最初はガンブレードを選んだのだが、銃としては使い勝手が悪いため、単体として銃と剣の腕を磨いたのだ。その中でサーベルが一番彼の手に馴染んだ故、サーベルを愛用している。


「ルキフェルにも【増幅】がかかってるだろ? だからこいつ使うと威力上がるんだよ。たぶんこれで非常識竜も懲りるだろ」


「……どんなトラップを仕掛けたんだ、お前」


「見てのお楽しみだ」


 口角を吊り上げるゼロに、シキは彼のSっ気を見たような気がして遠い目をするのだった。






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