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 異世界トリップともいえるべき現象に遭遇してから一年弱。シキたちはゼロの講師依頼の期間が終了したのち、拠点として王都の一角に小さな一軒家を買った。


 そして着実に依頼をこなし、早々のランクアップをするべく保有ランクより上のランクの依頼を受けては遂行するということを繰り返した結果、一年も経たないうちに三人はランクAにまでなっていた。


 脅威のスピードでランクを上げ続けたことに疑問を持った者たちが、ギルドの監査機関に不正ではないかとの訴えを起こし、それを受けた監査機関が三人に監視をつけた時期もあったが、依頼の遂行スピードやその実力を認められ、不正なしとの折り紙つき。また、このあたりで一度土の味を味あわせてやろうとしたシキと同じ竜族――火竜族――のS級冒険者が、五分と持たずにシキの前に倒れた。


 パワー重視と炎を操る火竜族に比べて明らかにシキはパワーが劣る。しかしそれをテクニックとスピードでカバーし、相手が剣を振り下ろす前に懐に入り込んで風の塊をお腹に叩きつけたのだ。風の塊は渦を巻いていて、まともに入ると内臓にまでダメージが及ぶ。それほどまでにシキの風の魔法は威力があり、たとえ強靭な肉体を持つ竜族でも、人型であれば一発で意識が飛ぶ。


 ゼロは使い手のほとんどいない禁術級の魔法を、軽々と高短縮詠唱 (ハイカットスペル)で操り集団で襲い掛かる獰猛な魔物達を瞬殺し、ボスのサイクロプスと呼ばれる一つ目の巨人をサーベルで一刀両断。そのまま一緒にいたサイクロプス二体も撃破。


 リュイは疫病に冒され、次々に住人たちが亡くなりゴーストとして徘徊するようになった死の町と呼ばれる場所を、精霊たちの協力を得て浄化。神木を植えては成長促進の魔法をかけ、精霊の拠り所とした。これによって徐々に緑溢れる町となる。


 これらの出来事がきっかけで、三人は冒険者たちに一目置かれる存在となったのだった。そんな彼らに王都のギルドマスター直々に依頼が下される。


「竜の谷に咲く月の雫?」


「うむ」


「聞いたことあるか、リュイ」


「いいえ、聞いたこともありませんわ。一体どういうものですの?」


「最近はめっきり咲いている場所も減ってしまったからのう。月の雫は通称で、正式な名前はアキレアじゃ」


「ああ、ポーションの材料か」


 ぽん、とシキが納得といった手を叩く動作をする。


「……おぬしら、ポーションの材料にアキレアを使っておったのか?」


「まあ、雑貨屋で売ってたし、そこらの道に生えてたしなぁ。そういや今のポーションの材料はソルト水とコロネリアか」


「コロネリアとかよくドロップしたけど、使い道なさすぎて捨てるしかなかったただの雑草」


「ですわねぇ。それが今となっては立派にポーションの材料。成長しましたわ」


 しみじみと語る三人に、ギルドマスターの頬が引きつる。


「コ、コロネリアが雑草……」


「アキレアだって、ポーションの材料にならなけりゃ雑草扱いだったな。そういえばゼロ、お前いくつか持ってなかったかアキレア」


「なんじゃと!? 持っておるのか!?」


「ねえ。今の時代のポーションと比較するために使ったからな。アキレアで作ったポーションならばあるぜ?」


「ダメじゃ。アキレアの花びらが必要なんじゃ」


「それで竜の谷に行けと?」


「うむ。これは公爵家からの直々の依頼での。本来であれば立場上S級以上の者に行かせたいのだが、今王都の近くにS級以上の者はおらん。頼む、行ってくれ。竜族がいれば楽に入れるはずじゃ」


 三人、特にシキはかなり難しい顔をしている。


 出来ることなら同属である竜族にはあまり関わりたくないシキだ。火竜族の冒険者との戦いにおいても、出来るなら関わりたくなかったほど。竜の谷というとそこは竜の生息地で、竜族の多くが生息している地域だ。その場所と竜族全てを統べるのが竜王と呼ばれる竜。そしてその竜王すら頭を垂れ、あらゆる竜と名のつく存在から神聖視されているのがシキの転生後の種である始祖竜だ。下手に関わればシキの正体がばれて、可能性として芋づる式にゼロとリュイもばれかねない。


「……ちなみに断ったらどうなるんだ?」


「そうさのう……わしと公爵家からの評判が悪くなる上、アキレアの無断使用で牢屋行きじゃ」


「「「はあ!?」」」


「アキレアはのう、王家の許可なく採取及び使用出来ぬ保護植物なんじゃよ。まあ、先ほどの発言は500年引きこもっておった者の戯言として流してやらんこともないが……」


「このくそじじい……!」


「別に牢屋行きだとしてもすぐに脱獄は出来ますけど、後々面倒ですわねぇ……」


「受けるしか、ないな」


 大きなため息をついて、正式な依頼書を発行。必要経費として払われた前金を仕舞って竜の谷までの地図をもらう。


 だがここで問題が発生。


 竜の谷近くの村まで行く荷馬車は翌日の朝に出発する。その次の場所は二週間後。しかし、翌日リュイは指名依頼が入っており王都を離れることは出来ないでいた。


「わ、わたくしだけ置いてけぼり……」


「仕方ねーだろ。お前に指名が入ってんだから。しかも常連。ま、俺とシキでちゃちゃっと済ませてくるからよ」


 どこか機嫌の良さそうなゼロを見上げ、シキは首を傾げる。するとゼロの手がシキの頭にぽん、と乗る。


「久しぶりの二人旅だな」


「……ああ、そうか。最初の頃を思い出すな」


 まだリュイとパーティを組む前、ゲーム内ではゼロとシキ二人だけで行動を共にしていた。三人はアルカディアオンラインが正式稼動する前のβ版からの付き合いであるが、やはりゼロとシキで最初からコンビを組んでいた分、そちらのほうが付き合いは長い。


「あそこでお前に出会わなかったら、オレはここまでこれなかっただろうな。最初に組んだのがお前でよかった」


「シキ……」


 頬を緩めて優しい笑みを浮かべるシキに、ゼロも同じように笑みを浮かべる。二人の間に和やかな空気が流れるのとは反対に、リュイは落ち込んだ様子でため息を吐いた。


「仕方ありませんわ。今回はシキとゼロにお任せいたします。気をつけていってらっしゃいませ」


「ああ」


「わかってる」


 ギルドマスターとリュイの見送りを受けて、二人は竜の谷へと旅立っていく。





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