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 学院内の広大な広さを持つ食堂。その一角に二人はいた。周囲から視線を浴びていることにゼロは眉をひそめつつ、メニューを眺めるシキにどれがお勧めかを教えている。


 上流層の生徒たちも多いことから、学院の食堂メニューは豊富でどれも味に煩い料理人達の手によって作られている。


「食堂って言うより、レストラン並みだな。それもファミレスとかじゃなくて、銀座あたりにあるレストラン」


「えらくピンポイントだな、おい。まあ、否定はしねえけど。で、どれにすんだシキ」


「……アースラーグの煮込みハンバーグ、のセット」


「よし」


 シキが決めたのを聞き、近くを歩いているウェイトレスに注文する。しかし、ウェイトレスは彼の顔に僅かに頬を染めて注文を聞いておらず、小さくため息をついた。そうするとウェイトレスは我に返り、急いで注文をメモに取りカウンターへと小走りで向かっていった。


「ちゃんと仕事しろってんだ」


「それは仕方ないだろう。お前やリュイの顔は目を惹くんだから」


 シキはそう言うが、ゼロにとってはシキこそ目を惹くと思っている。


 さらさらとして、触り心地のよさそうな桔梗色の髪。ゼロの外側にハネているのとは違い、シキの髪はストレートだ。


 猫のような大きなアーモンド型の瞳は、同じ金色に輝いてはいるが、わずかにシキのほうが深みがあると思っている。


 顔立ちも整っていて、男らしいとは言いがたいが女顔というわけでもない。男よりの中間と言ったところか。


 職業ゆえか、立ち姿はまっすぐとしていて、遠目から見ても綺麗で目を惹いてしまう。


 陣羽織コートの上からでもわかるが、コートを脱いでいる今ならより一層細身の体が強調されている。特にその抱きしめると折れそうな細い腰と、吸い付きたくなるような滑らかな鎖骨のライン、髪の隙間から見える白さがよくわかる項はゼロのお気に入りでもある。


「ゼロ、お前真っ昼間からエロい顔になっているぞ」


「あー、よく言われるな。まあ、リアルでもエロい顔と声が人気でしたから」


「イケメン爆発しろ」


 そこへ二人の生徒たちが必死な顔で駆け寄ってくる。


「ゼロ先生!」


「あぁん?」


「態度悪っ!?」


「当たり前だ。シキとの飯の時間邪魔しやがって」


「別にいつも食べてるじゃないか」


「……気持ちの問題だ、気持ちの」


 まったくもって気づいてくれないシキにゼロは大きなため息をつく。そして近付いてきた生徒たちに向き直り、「用は何だ」と問いかける。


「先生この後講義ないですよね。出来たら演習場で俺たちに魔法と剣術教えてほしいんです」


「来週野外実習なんですけど、あんまり自信なくて」


「だから教えてください。お願いします」


「面倒くせえ」


「「せんせえ~、お願いします~!!」」


「だから俺はこれからシキと過ご」


「いいじゃないか。教えてやれば」


「シキぃ?」


「オレもちゃんとお前も教師っぷりを見てみたい。きっとかっこいいんだろうな」


「よし。お前ら昼飯食い終わったら演習場に集合だ」


「「はいっ」」


 お手軽だと思われても、ゼロはシキにかっこいいと思われていたいのだ。むしろそのまま惚れてくれればそのまま天国にいけるとゼロは思う。それほどまでにゼロはシキを気に入り、惚れ込んでいた。


 だがこのときゼロは知らなかった。


 周囲の生徒たちがこの会話を聞いて午後に授業のない生徒たちが演習場に詰め掛けてくることを。そこで一種のライバルが出来ることを。












 ゼロが隣で大きなため息をついていることに、シキは苦笑する。


「なんでこうなった」


「人気者だな、ゼロ。相棒としてオレも鼻が高い」


 二人の目の前には十数人の生徒たちが剣や杖を持って集まっていた。


「なら相棒からのお願いだ。剣術はお前が見ろ」


「はあ!?」


「協力したらこの学院長からせしめたパティ酒やる」


「乗った!」


 リュイに劣らず酒豪なシキは、めったに呑めない高級酒を思い描いてぺろりと唇を舐める。


「エロっ……」


「ん?」


「何でもねえ」


 ゼロは一つ息を吐いてから、上空に向けて一発放つ。その音で、一気に騒いでいた生徒達は沈黙した。もう少し煩かったら誰かの足元に発砲されていたなとシキは思う。


「今日の訓練は、魔法は俺で剣術はこいつが担当する」


 ゼロの言葉に剣術目当てだと思われる生徒たちがブーイングを起こす。シキは近くに落ちていた小石を空へと放っち、無造作に刀を抜いて振り下ろす。すると小石は綺麗に真っ二つに割れていた。


「さすがだな、シキ。お見事」


 喉を鳴らして笑うゼロに、シキも笑みを浮かべる。


「さてお前ら、どうする?」


 笑みを浮かべたまま、剣術志望の生徒たちに問いかけるゼロ。生徒達は一斉にシキの前に立ち、「お願いします!」と叫びながら頭を下げた。無論シキとて鬼ではなく、出来る限りのことを教えていく。


 基本的に刀を使うサムライであるシキと、騎士を目指す生徒たちでは型自体が違うので、シキが教えるのは簡単な理論とフォームを見て力の入れ方を教えるくらいだ。


「もう少し左足に力を入れて腰を落とせ」


「はい……あ、楽になった」


「そうか。だが、その剣は君に合っていないんじゃないか? 重いだろう」


「それはわかってるんですけど、これは兄が入学祝にくれたもので、どうしても使いたいんです」


「ふむ……なら全体的に筋力をつけるのがいいだろうな。筋肉がつけば腕が落ちてくることもないと思うぞ」


「素振りなら毎日やってます」


「素振りはしばらくやめて、基礎的な筋トレを繰り返したほうがいい」


「筋トレ、ですか?」


「ああ。腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワットが妥当なところか」


「……結構きついですね」


「最初は少ない回数でいいんだ。徐々に回数を増やしていけば。でも来週が実習だから時間がないな……」


「やっぱり剣を変えなきゃダメですか?」


「仕方ない。裏技を使おう」


「裏技?」


 シキはその場に生徒を置いてゼロの元に向かう。ゼロといくつか会話をし、また元の場所に戻ってくる。


「これで当日はなんとかなるはずだ。ただ……」


「ただ?」


「後日若干筋肉痛で動けないかもな……」


「はあ……まあ、それくらいなら」


 その後もいくつかのことを教えて、次の生徒に移る。何人か教えたあと休憩を取っていると、視界にゼロが指導している姿が目に入ってきた。


「うーん……指導してる姿もイケメンだな。腹が立つ」


 詠唱がうまくいかない生徒に、詠唱に魔力を乗せる方法を教えたり、魔法の発動がうまくいかない生徒に精霊との付き合い方を教えたりとなかなか様になっている。経営学を学んでいることから、人の動かし方や観察眼に優れているとは思っていたが、それが指導という形に表れていることに軽く驚いた。だが、初心者だったシキにアルカディアオンラインでの過ごし方や戦闘を教え面倒を見てくれたのが彼だったことを思い出し納得する。


 (ゼロはなんだかんだ言って優しいからな。面倒見のいい兄貴分って感じだ。年下だけど)


 常に前へ前へと引っ張り、躓きそうになったら足を止めて待っていてくれている彼にシキは何度も助けられてきた。


 (改めて今度御礼でもするか)


 そんなことを考えながら、刀を持って再び生徒たちに向き直り指導を始めた。数時間後にはすっかり日も暮れ、生徒達は帰宅ないしは帰寮の時間となってしまう。


「今日はここまで。帰ったらゆっくり休めよ」


『ありがとうございました!』


 ぼろぼろの風体であったが、生徒達はどこか満足したような顔で演習場から去っていく。


「ゼロ先生、シキさん。今日は本当にありがとうございました!」


「すごく勉強になりました!」


「そうか」


「じゃあ来週の実習、総合でA取れよ。俺がここまでやったんだ。じゃないと……わかってるよな?」


「「は、はい……!」」


「ゼロ、いたいけな学生を虐めるな。この馬鹿の言うことは放っておいて、あまり気負わずいつもどおりいけ。自然体が一番」


「「はいっ!」」


 元気よく答える二人を見送った後、シキたちも定宿に帰る支度をする。


 後日、生徒二人が涙目で総合成績B+という結果を持ち込み、ゼロによる恐怖のお仕置きこと、学院内で最も恐れられる生活指導教師の鬘疑惑を調査せよが下されるのだった。





次回から新展開予定。


ちなみにキャラのビジュアルというか、髪型なんかは私の好きな某アイドルさんイメージ。とはいいつつも、彼らはひょいひょい髪型が変わるのでお気に入りを定めるのが大変……(笑)

不動の一位は共演した某ドラマの二人です。わかる人はわかります。

むしろ分かった方、お友達になってください。



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