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 片手で食材の入った紙袋を抱え、メモを見ながら買い忘れがないかチェックしていく。


「最後にワイン……この状態でワイン、は無理だ。ワイン十本て無理だろう。どう考えたって運べない」


 一つため息をついてシキはメモをポケットに突っ込み、改めて紙袋を抱え直した。


 本日のシキのお仕事。


 リュイの希望のいう名の命令によるお買いもの。


「たまにリュイは女王様になるからな……」


 元々エルフ族はあまり表に出てくることは少ないのだが、その特性から薬草系採取にはもってこいの種族。マスタークラスのリュイともなれば、森に入った時点で探さずとも精霊達のほうから自己主張する上に、薬草が穢れていても彼女の持つスキルで元の状態に戻し、なおかつ効能を上げることも可能。ゲーム内でエルフ族だけが持っていたスキルで、高レベルになればなるほど効果は上がる。


 そのこともあり、リュイは低ランクの薬草系採取の依頼を出す人から個別指名が来るほど人気になっていた。


 そしてゼロも今ギルドで話題に上っていた。魔法に対する深い造詣と、錬金術や調合師としての腕前を買われ、国立の魔法学院に特別講師として招かれたのだ。魔族は基本的には魔法に関してはかなりの知識を有している。それに加え、ゼロは興味本位からとはいえスキル【錬金】と【調合】をMAXレベルまで上げた。おかげで彼に作れぬ薬はないと言えるほど。


 ゼロとリュイが組めば薬作りに関しては天下無敵なのである。


「よくよく考えると、オレ実用的なスキルがあまりないな」


 シキもスキル【錬金】と【調合】を持っているが、精々ハイポーションを作るのが限度で、ゼロのように楽々と万能薬やエリクサーを作るなどと芸当は出来ない。二つのスキルを最高位にまで極めたからこそエリクサーを作ることが出来る。


 魔法薬の中でもエリクサーは精製率が低く、なおかつ【錬金】【調合】の二つのスキルを一定以上のレベルまであげないと精製出来ない。


「どうせなら全部平均じゃなくてどれか一つでも極めればよかった……平均万歳、じゃないな……」


 大きくため息をつく。


 今さら自分のプレイ状況を後悔しても仕方ないのだが。


「一度、【ホーム】行って戦闘以外のスキル極めたほうがいいんじゃないか……?」


 シキは三人の中ではわかりやすく言えば前衛で特攻隊長。そのサポートをゼロがして、後衛のリュイが二人のサポートをするといった戦闘パターンが定番だった。よって、シキのスキルはほとんどが戦闘に特化している。


 武具スキルの中のスキル【万能】を極めているために、専用武器でない限りは全て使用可能。ただし命中率があまり高くないために弓や銃といった飛び道具は苦手。


 補助スキルを使えば一発で城壁も崩れるほどのパワー。本性を取った竜でも一本背負い出来るほどのチート。


 風竜出身でスピードに特化しているため、常人には動きを捉えることは不可能に近い。


 純然たる戦闘力だけを考えれば、マスタークラスのプレイヤーの中では最強を誇るのがシキだった。


 ただし、そんなシキにも苦手な分野があり、それが魔法だった。


 風属性の魔法に関しては最高位まで極めているものの、それ以外の属性の魔法に関してはレベルに相対する平均値。魔力値は高いのにそれを属性に振り分けすることをあまりしなかったのだ、シキは。


「はあ……今さらながらにマスターまで行けたのってゼロとリュイがいたからな気がするな……やはり、一度あいつらから離れるべきか……?」









 いかにも不機嫌です、といった空気を撒き散らしながらゼロは学院の廊下を歩いていた。


「うぜえ……」


 その呟きを近くで聞いた男子生徒数人がびくっ、と肩を揺らす。同時に彼らの後方から砂埃が立つほど猛スピードで走ってくる集団があった。


「先生!」


「ゼロ先生!」


「ゼロ様!」


 口々にゼロの名前を呼ぶ数人の生徒と教師たち。毎日決まって彼らはゼロのフリータイムを狙って追いかけてくる。


『一度でいいから見せてください、その【古代遺物】を!!』


 すべては彼の持つ武器を見たいがために。


 国立魔法学院古代研究会。


 今となっては失われてしまった古代の叡智を追及する会で、わりと学院の中では会員数の多いサークルだった。ゼロが講師として赴任し、なおかつ彼が五百年前から生きていることを知った会員達はゼロに詰めよって当時の事を知りたがった。そして、この時代に置いては【失われた技術】で製造されている彼の愛用の武器を提示することを要求したのだ。当然見ず知らずの者に見せる気もなく、ましてや彼らに見せてはそのまま奪われて解体されかねない。


「断るっつんてんだろ! いい加減しつけえんだよ! いい加減にしねえとボコボコにすんぞ!?」


「一人占めするなんてずるいです、先生!」


「古代の叡智は皆が知るべきです!」


 毎日毎日授業が終わると付き纏ってくる連中にいい加減ゼロは辟易していた。元々気が短く、喧嘩っ早い気のあるゼロはこの時完全に堪忍袋の緒が切れていた。


「……わかった。てめえらの誰か一人でも立っていられたら見せてやる」


「え?」


「それはどういう……」


「今から訓練場で戦うに決まってんだろ。てめえら全員叩きのめしてやるから楽しみにしてろ」


「わかりました!」


「望むところです!」


「先生こそやられないでくださいねっ」


「いやあ、ゼロ先生のお手並み拝見と行きましょうか」


 会員達は意気揚々と訓練場へと向かい、ゼロも同じように訓練場へと足を向ける。


 彼らが去った後で、残された生徒の一人がぽつりと零した。


「……ゼロ先生、この間の演習で踵落とし一発でブラックベア倒したんだよな」


 生徒達がざわめくが、


「ウルフ二十頭を五分もしないで全滅させたらしいよ」


 完全に廊下は沈黙で包まれた。そしてその場にいた全員が、訓練場の方に視線を向けて合掌。






バランスって大事だよね。


主人公はシキだけど、たまには仲間たちにもスポットライト浴びせてみようと思います。

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