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アルカディア・オンライン。
それは世界最大手ゲームメーカーが開発したオンラインゲームで、いわゆるVRMMORPGと呼ばれる存在。
基本的な王道の剣と魔法の世界で、このゲームでは様々な種族があり、獲得したスキル経験値を使って技能を極めて行く極々簡単なスキル制ゲーム。
しかし、このゲームの最大の魅力はプレイヤー一人一人に割り振られたストーリークエストだ。
プレイヤーのレベルが50、100と各50ずつあがっていくことに運営側からストーリークエストとして強制イベントが発生する。このイベントは一人でこなしたり、パーティでこなしたりと様々。そして、一定の確率で最悪特定条件というものが付加される場合がある。これはレベル300以上の者のストーリークエストで、ソロの場合は時間制限があったり、パーティの場合はダンジョン攻略で自分以外のプレイヤーのレベルは半分以下の者を連れて行くことなど、こちらも様々。
これらをこなすと運営側から参加者全員に報酬と、担当プレイヤーにレアアイテムが支給される。
そしてもう一つの特色として、ある一定のレベル以上の者に与えられる特権がある。とはいっても、その一定のレベルはゲーム上で設定されている最高レベルの1400。現在300万人を超えるプレイヤーの中でも10人ほどしかいない。
その10人にはマスターというクラス称号と、マスタークラス特定のクエストをクリアすることによってさらにレベルが100上げられること。一人しかなれない各種族の最強種へとステータスそのままに転生出来ること。【ホーム】と呼ばれる専用の拠点が与えられること。
ただ、転生クエストに関してはマスタークラスでさえ難易度が高く、なおかつ条件がソロプレイなため、現在は三人しか転生していない。
以上の特権が与えられる。特に最後の【ホーム】機能はプレイヤー垂涎の的だった。
アイテムボックスは収納数が上限50までと決められている。これでもかなりの収納数だが、武器・防具・道具そのすべてを含めて上限50なので、プレイヤーは50を超えた場合は捨てるか売るか、所属ギルドの倉庫にお金を払って専用スペースを作るしかない。ただし、その専用スペースも収納上限30まで。
これに対して、マスタープレイヤーの【ホーム】は違う。マスタープレイヤーの意志一つで、【ホーム】に収納してあるアイテムと入れ替えが可能。収納数も上限がなく無制限。
また、プレイヤーは怪我や状態異常により体力及び魔力の減少を回復するには、魔法もしくはアイテム使用。さらには宿屋に宿泊しての回復、教会で神官による【神の奇跡】と称され瞬時に体力を回復する。どちらもお金がかかり、特に後者は宿に泊る倍のお金がかかる。
マップ間の移動やダンジョン攻略時に宿屋も教会もないため、魔法とアイテムが必須になる。しかし、マスタープレイヤーは専用の指輪によりいかなり時でも【ホーム】への帰還が可能になる。【ホーム】は建物自体に【神の奇跡】と同等の効果があり、そこにマスタープレイヤーが帰還すると瞬時にマスタープレイヤーの体力と魔力は全回復する。
【ホーム】さえあれば、いかなる時でもアイテム収納・切り替えや体力回復に困ることはないのだ。だからこそ、数多のプレイヤー達はマスターになるまでやり込み続ける。
目を覚ますと薄汚れた茶色い天井が見えた。
「……なんで?」
上半身を起こし周囲を見回すと、小さなテーブルと椅子。立てかけられた姿見。
明らかに本来の自分がいる部屋ではなかった。
「おかしい。五時間以上行動しない場合は自動ログアウトの設定しておいたはずなのに……」
眉を顰め、自身のステータスを確認すると同時に、姿見に全身を映す。
「やっぱりシキ、か」
濃藍色の髪色に、転生者だけが持つ金色の瞳。
『シキ/Lv1500/種族・始祖竜/称号・マスター』
他にも体力値や魔力値、攻撃力や防御力などRPGの王道ステータスが脳内表示されているが割愛する。
「それにしても……なんか、いつもよりアバターの感触が生々しいというか……」
ぺたぺたと自分の体に触り、その手が股間に伸びた所で止まる。
「ん? んんっ?」
やけに肉感的な感触。
そっと下に目をやり、備え付けのトイレに駆け込みシキは声無き悲鳴をあげる。
数分後、ぐったりとした様子でベッドに座りこむシキの姿があった。
「ありえない……まさか、今流行りの異世界トリップとかいう奴? あれは女子高生の特権じゃないわけ?」
目の前にある姿見に再度目をやり、大きなため息をつく。
「シキってことは、ここはアルカディア・オンラインの世界で間違いはない。そんでもってアバターがシキだからここでの性別は男。いや、アレもあったから男で間違いはなし……なんでアバター男にしたんだ、自分」
シキの現在の性別は男。だが、現実世界でシキは黒羽四季という名の女性だったのだ。外見は彼、中身は彼女。複雑ではあるが、それでもゲーム内ではうまくやっていた。むしろ、男として振舞っている方が時々楽だと思うくらいには。
「……悩んでも仕方ない。今まで通りプレイすればいいだけだよね」
現状確認とばかりに、手持ちのアイテムや装備、スキルなども確認する。
「ほとんど変更点はなし。【ホーム】のほうも健在、と。こうして見ると、マスタークラスって本気でチートだな。けど、マップがないのは痛いな」
現在位置の確認をしようとマップを取り出そうとするが、どこを探してもマップは見つからなかった。【ホーム】にも存在していない。
「仕方ない。ギルドにでも寄って買うか」
ボックスに仕舞っておいた装備を取り出し着替える。
シキの現在の職業はサムライ。武器は刀、防具は籠手、ブーツ、陣羽織風コート、インナー、ズボンと和洋折衷。
はっきりいえば、防具は防具とはいえない。鎧などが一切ないのだから。
だが、装備のレベルとしては竜族装備の中でも最強レベル。シキが始祖竜に転生を果たした時に運営側から与えられた装備で、マスタークラスと始祖竜しか装備出来ない代物。
月白色の刀身をした刀。
紺青色の陣羽織風コート。
黒に刀と同じ月白色のラインの入った籠手。
インナー・ズボン・ブーツは全て黒。
防具指定されている衣装の全てが、鎧と言っても過言ではないほどの防御力を誇っている。
元々シキはサムライ職の中でもスピードに特化したタイプだったので、下手に鎧があるよりもこの程度の方が動きやすくて好きだった。
着替え終えて部屋の扉を開けると廊下があり、奥には下へ向かう階段とさらに上に上がる階段がある。
「よくある宿屋の光景~」
下に降りるといくつかのテーブルが立ち並んでいる。酒場や食堂と宿を兼任している所は多く、シキがいるところもそれに当たる。
「すいません」
「はいはーい」
恰幅のいい女性がシキの呼び声に応える。
「朝食をお願いしたんですが。それと、この周辺のマップがあれば一つ」
「朝食はいいけど、マップは王都内であればあるけど、街の外ともなるとギルドに行かないとねぇ」
「わかりました、ありがとうございます」
「いいってことよ。飲み物はどうする?」
「紅茶でお願いします」
「あいよ」
数分後にはほくほくと湯気の出たスープに、野菜と肉を挟んだベーグルサンド。デザートのジャムつきヨーグルトに紅茶が出てくる。
ベーグルサンドを口に含むと、肉が柔らかいせいか口の中で程よく溶けていくかのようで、シキの舌を満足させた。
「うまっ」
「ははっ、そう言ってくれるとうれしいねえ。兄さんは冒険者かい?」
「ええ、まあ。しばらく家に閉じこもってたんで、久々に外に出ようと思って。あ、ちなみにこの街何て言うんですか?」
「そんなことも知らないで来たのかい? ここは帝都・ヴァラスキャルヴだよ」
(ヴァラスキャルヴ? ってか、帝都のどこの帝都?)
「帝都って、ここどっかの帝国なんですか?」
「重症だねぇ……ここはアスガルズ帝国。アスガルズ帝国の名前くらいは知ってるだろ?」
「ア、アスガルス帝国!? え、ちょ、アスガルズって王国じゃ……」
「何言ってんだい。ここが王国だったのは500年前までだよ。あんた、もしかして長命種かい?」
「……一応竜族です」
「ああ、それなら仕方ないかもしれないねぇ。どうやら兄さんが閉じこもっていた時間は結構長かったみたいだ」
「そう、みたいです」
その後は女将に様々なことを聞きながら、シキはこれからのことを考えるべく取った部屋へと戻っていった。
新作始めました。
一度は書いてみたかったTSでBL。
メインキャラが一通り出てきたら人物紹介つけます。