第35話 同盟の杯
夜が更ける頃。
俺は提案した。
「リグ、お前の村で話がしたい」
一拍の沈黙。
そして――
『来い!』
短く、迷いのない返事だった。
案内されたのは、村の中心。
かやぶきの大きな建物だった。
外からでも分かる。
ここが“核”だ。
中に入ると、火が焚かれている。
人の気配。
そして――匂い。
シリカが小さく呟く。
『……これ、何の匂いですか?』
リグが笑う。
『飲め』
木の器を渡された。
白く濁った液体。
少し泡立っている。
俺は一口飲む。
「……酒か」
リグが頷く。
『穀物だ。腐らせた』
「発酵だな」
味は――悪くない。
むしろ旨い。
少し甘い。
そして、軽く弾ける。
炭酸だ。
シリカが恐る恐る飲む。
『……あ、これ……』
驚いた顔をする。
ユキは匂いだけ嗅いで顔をしかめた。
『変な水』
シロガネは興味なさそうだ。
リグが腕を絡めてくる。
『乾杯だ』
「おう」
木の器が軽くぶつかる。
音が小さく響く。
リグは一気に飲み干す。
そして――
顔が一瞬で赤くなる。
『……強いな』
「お前が弱い」
その横で、アグニはすでに崩れていた。
『もうダメだ……』
「早すぎるだろ」
俺は普通に飲む。
むしろ、いける。
がぶがぶいける。
リグがそれを見て、目を見開く。
『お前……』
そして笑った。
『強い!』
その一言で、空気が変わる。
さっきまでの“緊張”が消えた。
ただの“場”になる。
しばらく飲む。
火が揺れる。
人の声が混ざる。
その中で、俺は本題を出した。
「ここにいるより、うちの近くに来た方がいい」
リグが眉を動かす。
「白き谷の隣だ」
「安全だし、連携も取れる」
沈黙。
普通なら考える話だ。
だが――
『いいだろう!』
即答だった。
俺は少し笑う。
「即決だな」
リグは肩をすくめる。
『理由はある』
少しだけ真面目な顔になる。
『ここは弱い』
シリカが顔を上げる。
『弱い……?』
『女と子が多い』
短く言う。
『野犬や獣にやられる』
『毎年、十は減る』
空気が少し重くなる。
ユキが小さく言う。
『嫌な話』
シロガネも低く唸る。
『弱い場所』
リグが俺を見る。
『お前』
『あの数の統領か?』
「ああ」
短く答える。
それで十分だった。
リグは一度頷く。
そして――
『従おう』
その言葉に、シリカが驚く。
だがリグはすぐに続けた。
『ただし』
目が鋭くなる。
『従属ではない』
火が揺れる。
『友だ』
『同盟だ』
その言葉は重かった。
だが――
俺は頷く。
「いいだろう」
それで決まった。
翌日。
雪原が動く。
リグの村が動く。
人が。
荷が。
生活が。
そのまま移動する。
裂牙族がそれを見守る。
敵ではない。
だが、まだ完全な仲間でもない。
その距離感。
それがちょうどいい。
白き谷の隣。
新しい場所に、村ができる。
リグの村。
同盟の村。
システムが静かに表示する。
【新規集落:接続完了】
分類:同盟拠点
状態:独立維持
連携率:高
都市レベル:26% → 34%
ユキが小さく言う。
『近くなった』
シロガネも。
『強いの増えた』
シリカは少し安心した顔をしている。
『こライナら……守れますね』
クロベがぽつりと呟く。
『あー……いいですね』
「何がだ」
『“従属じゃない統合”です』
少しだけ笑う。
『長く続きますよ、こういうの』
俺は新しくできた村を見る。
煙が上がる。
声がある。
生活がある。
それが――
白き谷と繋がった。
これは侵略じゃない。
吸収でもない。
“結び”だ。
そしてそれは――
確実に、強かった。




