表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『うっかり邪神(ヤクザ)を舎弟にした箱入り姫の極道スローライフ〜絶品ご飯で神様たちを餌付けして城下町の事務所で暮らします〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/27

EP 9

過労女神、居座る〜箱入り姫の完璧な二重生活〜

新築の匂いが漂う『料理屋・深淵しんえん』の真新しいキッチンに、パチパチという軽快な油の音が響き渡っていた。

「お嬢! アッシが油の温度を見やしょうか? 地獄の業火で、一瞬にしてカラッと——」

「ダメです、デュアダロスさん! お店ごと消し飛んじゃいますから、大人しく座っていてくださいね」

「へ、へいっ! 出すぎた真似をしやした!」

エプロン姿のリアナがピシャリとたしなめると、アルマーニのスーツを着た極道邪神はシュンと首を縮め、大人しくカウンター席に座り直した。

リアナが作っているのは、ポポロ国の庶民に愛される『太陽芋のホクホク揚げ』。

魔法のポーチから取り出した新鮮な太陽芋を大きめにカットし、絶妙な温度の油でじっくりと二度揚げしていく。

表面はカリッと、中はホクホク。そこに『米麦草』の粉から作った焼き立てのフワフワパンを添えれば、立派な事務所開きのお祝いメニューだ。

「はい、お待たせしました! 揚げたてですから、火傷に気をつけてくださいね」

山盛りのホクホク揚げとパンがテーブルに置かれると、デュアダロスとフレアの目が同時にカッと見開かれた。

「サクッ……ホフッ、ハフッ! ……う、美味ぇぇぇ!! 芋の甘味が脳髄にガツンと来やがる! 娑婆の芋は最高じゃあ!!」

「んん~~っ! なにこれ、パンがフワッフワ! 芋も甘くて美味しい! ちょっと、デュアダロス! あんた独り占めしないでよ!」

「あァ!? アッシはお嬢の一番の舎弟じゃぞ過労鳥! 半分はアッシのモンじゃ!」

「やかましいわね引きこもりヤクザ! 私なんか何百年もワンオペで——」

「こら。喧嘩しながら食べると、美味しくなくなっちゃいますよ? メッ、です」

「「……へい(すいません)」」

リアナが一睨み(※本人は優しく微笑んでいるつもりだが、背後に服従の輪のプレッシャーがチラつく)すると、神話最強の二柱はピタリと喧嘩を止め、仲良く太陽芋を頬張り始めた。

その光景を満足げに見つめながら、リアナはふと時計の役割を果たす魔導具に目をやった。

「あ……もうこんな時間。そろそろ離宮に戻らないと、メイド長さんが心配して探しに来ちゃいます」

リアナは少し寂しそうにエプロンを外した。

いくら服従の輪を持つチート姫とはいえ、彼女の表向きの身分は「ポポロ国の第一王女」であり、病弱(という建前)で隔離されている箱入り娘なのだ。無断外泊など言語道断である。

その言葉を聞いて、フレアがビールの入ったジョッキをドンッとテーブルに置いた。

「……ねえ、リアナ。あんた、明日もここに来るの?」

「はい! もちろん抜け出して来ます! だって、ここは私たちの秘密基地ですから。明日は『ハニーかぼちゃ』のシチューを作りたいなって思ってます」

「シチュー……!」

フレアの脳裏に、トロトロに煮込まれた甘いかぼちゃと、リアナの手作り料理の数々がフラッシュバックする。

そして、自分が帰るべき天界の殺風景な執務室と、山積みにされた魔物討伐の書類、ルチアナからの理不尽なお遣いリストを思い浮かべ……フレアは、強く拳を握りしめた。

「……私、もう帰らない」

「えっ?」

「私、もう天界(仕事)になんか戻りたくない……! ねえリアナ、あんた面白いし、何よりご飯が最高に美味しいから、一緒にいたげる! だから私にも毎日ご飯作って!!」

神話の時代から世界を支えてきた調停者(不死鳥)が、ついに完全なる職務放棄と、リアナへの寄生(居座り)を宣言した瞬間だった。

「本当ですか!? フレアさんがお友達になってくれるんですか!?」

リアナはパァァッと顔を輝かせ、フレアの手を両手で包み込んだ。

ずっと離宮で一人ぼっちだったリアナにとって、「お友達」という言葉は魔法のように魅力的だったのだ。

「ちっ、調子のいい過労鳥め……。まぁいいでしょう。お嬢、日中アッシらはこの事務所で、情報収集と食材の買い出し(という名のシノギ)をしておきやす。お嬢は夜、こっそり城を抜け出してきてくだせぇ」

デュアダロスがニヤリと笑い、トカレフの入った胸元をポンと叩く。

「大丈夫ですぜ。アッシの『空間接続』の魔法を使えば、お嬢の離宮の部屋のクローゼットと、この事務所の扉を直通に繋ぐことなんざ造作もありやせん」

「わぁ! それなら誰にもバレずに通えますね! デュアダロスさん、凄いです!」

「へへっ、お嬢のためなら次元の一つや二つ、いつでも歪めてみせやすよ!」

かくして、役者は揃った。

昼はポポロ国離宮で大人しく過ごす、世間知らずの『箱入り姫』。

そして夜は、城下町の路地裏にある料理屋(ヤクザ事務所)で、極道邪神と過労女神を従えてフライパンを振るう『深淵組のお嬢』。

リアナの、完璧で波乱万丈な「二重生活」が、今ここに幕を開けたのである——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ