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『うっかり邪神(ヤクザ)を舎弟にした箱入り姫の極道スローライフ〜絶品ご飯で神様たちを餌付けして城下町の事務所で暮らします〜』  作者: 月神世一


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EP 7

いざ、地上の城下町へ

「こんな暗い地下でご飯を食べるのは体に悪いです。一緒に地上に出て、明るいところでご飯を食べましょう!」

リアナのその無自覚で天然な提案に、ヤクザ事務所の空気が一瞬だけ止まった。

「……え? 地上に出るって、あんた……こいつ、世界を滅ぼしかけた邪神よ!? 封印解いちゃっていいの!?」

フレアが素でツッコミを入れるが、リアナはきょとんとした顔で首を傾げる。

「でも、お腹いっぱいで幸せそうに泣いてる人が、世界を滅ぼすとは思えませんよ?」

「うっ……それは、そうかもしれないけど……」

「お嬢ッ!!」

突如、デュアダロスがアルマーニのスーツの膝を払い、バサァッ!と勢いよく立ち上がった。

そして、リアナの前に恭しく跪き、その手を取ろうとする(が、服従の輪がピリッと警告を発したため、慌てて数センチ手前で止めた)。

「わしは……いや、アッシは感動しやした! この何百年もの間、湿気た地下で燻っていたアッシを、娑婆の光の下へ連れ出してくれると……! さすがはお嬢! 一生ついていきやすぜ!!」

完全に『極道映画の忠義に厚い若頭』のスイッチが入ってしまっていた。

もはや彼にとってリアナは、自分を封印した憎き神々の関係者などではなく、極上の「娑婆の飯」を食わせてくれた絶対的な『お嬢』なのだ。

「ふふっ、じゃあ行きましょうか! 人参さんも、大人しくついてきてくださいね」

リアナは空になったお弁当箱をエプロンのポケットにしまい、大人しくなった人参マンドラを抱きかかえて、ルンルン気分で奈落の階段を上り始めた。

その後ろを、「お嬢! 足元お気をつけなすって!」「ほら、そこ段差あるわよ」と、邪神と過労女神が過保護に付き従う。

ダンジョン内のモンスターたちは、この『絶対服従のチート姫・極道邪神・キレ気味の不死鳥』という大陸最凶のパーティーが放つヤバすぎる覇気を感じ取り、壁のシミと同化して震え上がっていた。

***

階段を上りきり、裏山の茂みを抜けると、そこは眩しい太陽が照りつける地上の世界だった。

「ん~~っ! やっぱり外の空気は美味しいですね!」

リアナが大きく背伸びをする。

デュアダロスは伊達メガネを押し上げ、眩しそうに目を細めながら、大きく息を吸い込んだ。

「へへっ……娑婆の空気は、やっぱり格別ですぜ。お嬢、これからどちらへ?」

「えっと……」

リアナはハッとして、自身の住まいである王城の『離宮』を振り返った。

いくらなんでも、立派なスーツを着たヤクザ(邪神)と、絶世の美女(女神)を自分の部屋に連れ込むわけにはいかない。メイド長に見つかったら卒倒してしまうだろう。

「私のお部屋はちょっと狭いですし……内緒で抜け出してきたので、人を呼べないんです。城下町の方に行ってみましょうか」

リアナはエプロンを外し、念のため顔を隠すためのフード付きマントをすっぽりと被った。(※デュアダロスの頭の上の『服従の輪』も、リアナが「目立ちますから」と念じると見えなくなった)。

三人が向かったのは、三大国の国境が交わるポポロ国の城下町。

ゴルド商会の馬車が行き交い、様々な種族の商人や冒険者で賑わう、大陸一のグレーゾーンにして活気あふれる宿場町だ。

「わぁ……! 本で読んだ通り、人がいっぱいです! あ、あそこで売ってるの『トライバードの串焼き』ですね!」

初めて見る街の喧騒に、リアナは目をキラキラさせてキョロキョロと見回す。

そんな彼女の背後で、デュアダロスは胸元にトカレフを忍ばせ、鋭い眼光で周囲の通行人を威嚇していた。

「チッ、どいつもこいつもお嬢をジロジロ見やがって……。おいオッサン、どこに目ぇつけて歩いとんじゃ。アァ!?」

「ひぃぃっ! す、すんません!!」

ただ道を歩いているだけの商人たちが、本職(?)のインテリヤクザの覇気にチビりそうになって道を空けていく。モーセの十戒のごとく、リアナの行く先だけが綺麗に割れていくのだ。

「ちょっとデュアダロス、あんたが一番目立ってどうすんのよ。リアナがゆっくり街を見られないでしょ」

フレアが呆れたようにため息をつきながら、デュアダロスの頭を小突いた。

「なんだとコラ、過労鳥! アッシはお嬢の弾除けとして——」

「あっ、お二人とも! 見てください!」

リアナの声に、二柱の神がピタリと喧嘩を止めて振り返る。

リアナが指差していたのは、城下町のメインストリートから一本外れた路地裏にある、ボロボロの空き店舗だった。

元は酒場だったのか、看板は外れかけ、窓ガラスは汚れ、扉は傾いている。

「……随分と、ボロい小屋ですな」

デュアダロスが眉をひそめるが、リアナは違った。

「ここに大きなキッチンを置いて、綺麗なテーブルを並べたら……きっと、素敵なお店になりますよ。誰にも内緒で、みんなでご飯が食べられる秘密基地みたいで」

リアナは、ぽつりと呟いた。

離宮でずっと一人でご飯を食べていた彼女にとって、「誰かと一緒に食卓を囲める場所」は、何よりも魅力的に映ったのだ。

「ここで、みんなでご飯が食べられたらいいのに……」

その、お嬢の無邪気でささやかな願いを聞いた瞬間。

デュアダロスの中で、極道の血(?)と邪神の神気が、ドゴォォォォン!!と音を立てて沸騰した。

「——お嬢。少し、下がっていてくだせぇ」

伊達メガネの奥の瞳をギラリと光らせたデュアダロスが、ボロボロの空き店舗の前へと歩み出る。

そして、おもむろに右手の指を高く掲げたのだった。

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