EP 6
娑婆の飯は、美味すぎる
ヤクザ事務所のローテーブルに置かれた、二つの丼。
飴色に輝く分厚い肉椎茸のステーキが、湯気とともに極上の香りを放っている。
「「…………」」
神話の時代から生きる二柱の神は、完全に言葉を失っていた。
デュアダロスは震える手で割り箸を割り、フレアも無言でスプーンを握りしめている。
「さぁ、冷めないうちにどうぞ!」
リアナに促され、デュアダロスは肉椎茸のステーキとご飯を一緒にかき込み、大きく口を開けて放り込んだ。
サクッ、ジュワァァァァァ……ッ。
「——ッ!!?」
デュアダロスの伊達メガネの奥で、瞳孔が限界まで見開かれた。
肉厚な椎茸を噛みちぎった瞬間、閉じ込められていた旨味の塊(肉汁)が、醤油ベースの甘辛いソースと共に口内を暴力的に蹂躙したのだ。
さらに、ツンと鼻を抜けるワサビの爽やかな辛味が、濃厚なステーキの脂を見事に中和し、シャケの塩気と海苔の風味が完璧なハーモニーを奏でている。
「う……、美味ぇ……」
ポロリ。
極道邪神の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「美味ぇ……美味ぇんじゃあ……ッ!! なんなんじゃこの美味さは!! わしが何百年も薄暗い地下でチマチマ食ってきたモンは、一体なんじゃったんじゃあああ!!」
インテリヤクザの面影など完全に消え失せ、デュアダロスは丼を抱え込みながら号泣し、猛然と飯をかき込み始めた。
「娑婆の飯は……娑婆の飯は美味ぇんじゃあああ!!」と叫びながら、顔をグシャグシャにして泣きながら食べる姿は、もはや哀愁すら漂っている。
「うぅぅ……美味しい……! コンビニ弁当のご飯が、こんなに美味しくなるなんて……っ! 私、もうルチアナの持ってくる冷たいお弁当なんて食べられないわよぉ……!」
隣では、絶世の美女であるはずの不死鳥フレアも、完全に涙腺を崩壊させながら丼を空にしていた。
過労とストレスで荒みきっていた彼女の心と体に、手作りの温かいご飯が、文字通り『命の炎』を灯していく。
「ふふっ、お粗末様でした。たくさん食べてくださいね」
リアナは、神々が泣きながらご飯をかき込む姿を、まるで孫を見守るおばあちゃんのような穏やかな笑顔で見つめていた。
ものの数分で、二つの丼は綺麗に空っぽになった。
「ごちそうさまでした……。お嬢、わしは……わしは、アンタに一生ついていくけぇ」
「私も……リアナのご飯なしじゃ、もう生きていけない体になっちゃったわ……」
『服従の輪』などなくても、二柱の神は完全にリアナの『胃袋の支配(胃袋テロ)』に屈服していた。
「喜んでいただけて何よりです!」
リアナは空になった器を重ねながら、ふと、地下の冷たいコンクリートの壁を見回した。
「でも、やっぱりこんな暗い地下でご飯を食べるのは、体に悪いです。気分も塞ぎ込んじゃいますし」
「……お嬢?」
「デュアダロスさんも、いつまでもここに引きこもってちゃダメですよ。一緒に地上に出て、明るいところでご飯を食べましょう!」
リアナのその天然で無自覚な一言が、停滞していたアナステシア世界の歴史(と神々のニート生活)を大きく動かすことになるのだった。




