EP 4
【服従の輪】の再臨(強制土下座)
「な……ッ!?」
アーサーの全身に、宇宙の重力が全て乗ったかのような凄まじい圧力がかかった。
抵抗。回避。防御。
帝国最強を誇る彼の卓越した魔力も、白銀の鎧も、そんなものは「最初から存在しない」かのように無視された。
ガシャアァァァァァァァァァァン!!!
「ぐ、はぁ……ッ!?」
アーサーの体は、自身の意志とは無関係に、勢いよく床に叩きつけられた。
それも、ただ倒れたのではない。
両膝を突き、両手を床に並べ、額を泥まみれのフロアに擦り付ける——完璧なまでの**『土下座』**の姿勢で、だ。
(な、なんだ……この力は!? 魔法ではない……世界の理そのものが、私に屈服を命じているというのか!?)
アーサーは必死に顔を上げようとするが、首の骨が軋むほどの不可視の力がそれを許さない。
そして、追い打ちをかけるような悲劇がアーサーを襲う。
(ぐ、あああああッ!? 床が……床が汚い! 私の白銀の胸当てが、この不浄な路地裏の泥に……不潔だ、死ぬほど不潔だぁぁぁぁ!!)
潔癖症の騎士にとって、この強制土下座は死よりも辛い凌辱だった。
「あーあ。お嬢、本気で怒らせちゃったね」
フェンリルがソファから降りて、アーサーの頭の横にしゃがみ込む。
「おい、帝国最強。お嬢の『服従の輪』にかかったら、宇宙がひっくり返っても逃げらんねぇぞ。大人しくしときな」
「お、おのれ……魔族め……汚らわしい手を離せ……ッ!」
アーサーは床を舐めるような格好のまま、泣きそうな声で罵倒する。
「……フレアさん、フェンリルさん」
リアナが包丁を置き、仁王立ちになって二人を呼んだ。
「はい、お嬢様!」
「おう、なんだ?」
「このお店のドアを壊した『悪い子』には……お仕置きが必要です!」
リアナはそう言うと、冷蔵庫から巨大な豚肉の塊を取り出し、それを「ドンッ!」とまな板に叩きつけた。
「これを食べて、自分がどれだけ酷いことをしたか、反省してもらいます!」
「……は?」
アーサーの目が点になる。
(お仕置き……? 豚肉……? 私を処刑するのではないのか!? どんな恐ろしい呪いの儀式を始めるというのだ!?)
「お、お嬢……そのお仕置きは、流石にこいつにはキツすぎるんじゃねぇか?」
デュアダロスが苦笑いしながら、フライパンを熱し始めるリアナを見つめる。
「いいえ! お腹がいっぱいになれば、きっと悪い心も消えちゃいます!……特大の、カツカレーですよ!」
アーサーの鼻腔を、不意に漂ってきた「飴色玉ねぎとラードの焦げる匂い」がくすぐった。
それが、彼のプライドと潔癖症を完膚なきまでに破壊する、終わりの始まりだった。




