EP 7
お代は「御縁(五円)」で!
ヤクザ事務所(料理屋)のド真ん中。
先ほどまで回鍋肉を涙ながらにかき込んでいた薄汚れた美少女が、どこからともなく取り出した『ボロボロのみかん箱』の上にスチャッ! と立ち上がった。
「お、お代の代わりに、私の歌を聴いてください! ミュージック、スタートですぅ!」
リーザが指を鳴らすと、彼女の手作りのフリフリ衣装(カッパの下に着ている)に仕込まれた安物の魔導具から、シャカシャカと音割れしたチープなイントロが流れ始めた。
曲名は、ルナミス帝国の地下アイドル界隈で(悪い意味で)伝説となっている彼女のオリジナル曲。
「いきます! 『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』」
リーザはみかん箱の上で、キレの悪いステップを踏みながら歌い出した。
『♪あ〜あ〜 わたしはキュートな人魚姫〜!
でもお財布の中身はマイナスだぞ〜!(イェイ!)
今日の晩御飯は パンの耳〜! 明日の朝ごはんは 公園の草〜!
だから恵んで お願い恵んで! あなたの小銭で 命が繋がる〜!♪』
「「「…………」」」
あまりにも悲惨すぎる歌詞に、ヤクザ(邪神デュアダロス)とチャラ男(狼王フェンリル)と過労女神が、全員揃ってスッと真顔になった。
歌唱力自体は(仮にも人魚なので)無駄に高いのが、逆に哀愁を誘ってエグい。
「さぁ! ここでコールの時間です! みなさん、ご一緒に!」
リーザは両手をメガホンのように口元に当て、目を血走らせながら叫んだ。
「五円! 五円! 御縁! 御縁! ハイッ!!」
「…………」
「…………」
「…………」
神話の時代から世界を統べる三柱の神々は、完全に言葉を失っていた。
「五円」というリアルすぎる少額紙幣(硬貨)の要求。もはやアイドルのライブではなく、ただの高度な乞食行為である。
デュアダロスは頭痛を堪えるように眉間を揉み、フレアは「お母様……娘さんは立派な物乞いに育ちました……」と天を仰いで涙を流した。
しかし、この凍りついた空間の中で、たった一人だけ目をキラキラさせている人物がいた。
「わぁぁっ! すごい! アイドルさんなんですね!」
パチパチパチパチッ!
エプロン姿のリアナが、厨房のカウンターから身を乗り出し、満面の笑みで無邪気な拍手を送っていたのだ。
「とっても上手です! 『五円、五円!』って、なんだか御縁がありそうで素敵な歌詞ですね!」
箱入り姫の圧倒的な純粋さ(天然)が、底辺アイドルの乞食ソングを「縁起の良い歌」へと見事に脳内変換していた。
「ああっ……! わかる人にはわかるんです! ありがとうございます、お嬢様!」
リアナの純粋な拍手に、リーザの『承認欲求』と『アイドル魂』が完全にバグった方向に限界突破した。




