表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『うっかり邪神(ヤクザ)を舎弟にした箱入り姫の極道スローライフ〜絶品ご飯で神様たちを餌付けして城下町の事務所で暮らします〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/25

EP 2

階段の途中で、限界社畜とすれ違う

ポポロ国の地下深くに広がる、かつて神々が封印を施したとされる最終ダンジョン。

本来ならば、踏み入れた瞬間に瘴気で気を失うほどの恐ろしい場所である。

しかし、リアナはフリルのエプロンを揺らしながら、まるでピクニックにでも行くような足取りで石段を下りていた。

「あっ、壁際に生えてるのはただの光る苔ですね。残念。お目当ての『肉椎茸』はもっと奥でしょうか?」

右手に包丁、左手には先ほど廊下で捕獲した『人参マンドラ』(観念したのか大人しくなっている)をぶら下げ、鼻歌交じりに進んでいく。

彼女が生まれ持つ規格外の魔力と【服従の輪】の絶対的な覇気のせいで、ダンジョン内に巣食う凶悪なモンスターたちは「ヤバい奴が来た」と本能で察知し、スライム一匹すら姿を見せずに逃げ散っていた。

そんな無人の階段をしばらく下っていると、ふわり、と奇妙な匂いが漂ってきた。

(あれ? この匂い……お酒? それに、お魚を焼いたような……?)

リアナが不思議に思って角を曲がった、その時だ。

「……はぁ。なんで私ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないのよ……」

階段の踊り場で、死んだ魚のような目をした絶世の美女が、重いため息をついていた。

燃えるような真紅の髪に、誰もが振り返るほどの抜群のプロポーション。

しかし、その美しい顔には色濃くクマが刻まれており、肩はズーンと重く沈んでいる。

彼女こそ、神話の時代から世界を見守る三調停者の一角——『不死鳥フレア』である。

「デュークのオッサンは呑気にラーメンの湯切りしてるし、フェンリルはチャンネーと海でウェーイだし……。私だって、エステとか行きたいのに……ッ! 誰がこんな、薄暗い地下の慰問なんか……!」

ギリッと歯を食いしばるフレアの右手には、アナステシア世界には存在しないはずの白い『ビニール袋』が握られていた。

中から透けて見えるのは、地球のコンビニで売られている『シャケ弁当』と『ワンカップ酒』である。ルチアナ女神が裏ルートで仕入れた横流し品だ。

「あのぅ……大丈夫ですか?」

「ひゃあっ!?」

突然背後から声をかけられ、フレアはビクゥッ!と肩を震わせて振り返った。

まさか、こんな最終ダンジョンの奥深くに人がいるわけがない。いるとすれば、余程の歴戦の勇者か、狂気を孕んだ魔導士か——。

「……えっ? に、人間? しかもエプロン姿の女の子?」

「はい。ポポロ国のリアナと申します。キノコ狩りに来ました」

「キノコ狩り!? ここ、世界を滅ぼす邪神の封印指定ダンジョンよ!? なんで包丁一本でハイキング気分なのよ!」

限界社畜のフレアは、常識外れなリアナの姿に思わず素のツッコミを入れてしまった。

しかし、リアナはそんなフレアの剣幕よりも、彼女の目の下のクマと、どこかフラフラとした足元が気になっていた。

ギュルルルル……。

不意に、フレアのお腹から情けない音が鳴り響く。

過労とストレスで、神様なのに完全にエネルギー切れを起こしていたのだ。

「あ……違うのよ。これはその、最近忙しくてご飯を食べる暇もなくて……」

顔を真っ赤にして弁解する美しい神様を見て、リアナはふわりと優しく微笑んだ。

「お疲れなんですね。よろしければ、これ、どうぞ」

リアナはエプロンのポケットから、小さな包みを取り出してフレアに差し出した。

中に入っていたのは、こんがりと焼き色のついた分厚いクッキー。

「これは……?」

「私がさっき焼いた『太陽芋のホクホク・バタークッキー』です。甘いものを食べると、少し疲れが取れますよ」

「手作り……クッキー……?」

フレアは震える手でそれを受け取り、おそるおそる口に運んだ。

サクッ。

口の中で、太陽芋の優しい甘さと、濃厚なバターの香りがふんわりと解けていく。

それは、何百年もの間、出来合いのコンビニ弁当や栄養ゼリーだけで激務を乗り切ってきた不死鳥の五臓六腑に、暴力的なまでの『癒やし』として染み渡った。

「…………っ」

ボロボロ、ボロボロ。

フレアの大きな瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

「えっ!? あ、あの、お口に合いませんでしたか!?」

「違うの……違うのよぉ……! 手作りのお菓子なんて、何百年ぶりに食べたか……っ! 美味しい、すっごく美味しいわ……っ!!」

世界最強の不死鳥が、クッキーを両手で握りしめながら子供のように号泣し始めた。

リアナは慌てて背中をさすりながら、「よしよし、たくさん食べていいですからね」と、すっかりお母さんのような顔になっていた。

ひとしきり泣いて落ち着いたフレアは、目元を拭いながらリアナを見た。

「……ありがとう、リアナ。私、フレアっていうの。あんた、すっごくいい子ね」

「ふふ、お粗末様でした。フレアさんは、この地下に何かご用があったんですか?」

「ええ……最下層で引きこもってる、めんどくさいヤクザ……じゃなくて、知り合いにこの弁当を届けに行かなきゃいけないの。リアナはキノコ狩りだっけ?」

「はい! 美味しい『肉椎茸』を探しているんです!」

「そう。じゃあ、最下層まで一緒に行きましょ。私が護衛してあげるわ」

「本当ですか? ありがとうございます、心強いです!」

こうして、本来出会うはずのなかった「限界社畜の過労女神」と「包丁を持った箱入り姫」は、奇妙な連帯感を抱きながら、極道邪神が待つ最下層へと足を踏み入れていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ