EP 9
クズ神ともやし、そしてスパチャアイドル
ヤクザ事務所(料理屋)のカウンターに、湯気を立てる山盛りの『ニンニク背脂・極上もやし炒め』と、日本昔話のような大盛りご飯が、フェンリルとリーザの前にドンッと置かれた。
「「…………」」
神話の時代から生きる狼王と、深海の純真な人魚姫は、完全に言葉を失っていた。
安いもやしのはずなのに、豚の脂とニンニク醤油の匂いが、まるで高級な肉料理のような、いや、それ以上に食欲をそそるジャンクな香りを放っている。
「さぁ、温かいうちにどうぞ!」
リアナに促され、フェンリルは割り箸を震える手で割り、もやし炒めとご飯を一気にかき込んだ。
シャキッ、ジュワァァァァァ……ッ。
「——ッ!!?」
フェンリルの銀色の瞳が、限界まで見開かれた。
強火で一気に炒められたもやしのシャキシャキとした食感。そこに絡みつく、豚の背脂の濃厚な旨味と、ガツンと来るニンニク醤油のパンチ力。
それは、彼が今まで女の家で食べてきた洒落た手料理とは次元が違う、暴力的なまでの『美味さ』だった。
「美味ぇ……なんだこれ、美味すぎる……っ!」
ポロリ。
全ツッパして負けた虚無感と、リアナの料理の温かさに、フェンリルの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「美味ぇ……美味ぇんじゃあ……ッ!! 俺は、俺はなんで10万もトラックに注ぎ込んじまったんだ……っ! このもやし炒めが、何千皿も食えたのにぃぃぃ!!」
バトルジャンキーの狼王が、安いもやし炒めを前に、男泣きに泣きながら飯をかき込む。
「もやし最高じゃあ!!」と叫びながら、顔をグシャグシャにして泣きながら食べる姿は、もはや哀愁すら漂っている。
「……あ、あの。私も、いただいてもいいですか?」
リーザがおそるおそるスプーンを持ち、もやし炒めを一口、口に運んだ。
「……ッ!!?」
人魚姫の瞳が、宝石のように輝いた。
「美味しい……っ! 本物のお野菜の味がします! パンの耳じゃない、温かいご飯です……っ!」
リーザもまた、あまりの美味さに涙腺を崩壊させながら、大盛りご飯をもやし炒めで流し込んだ。
三日ぶりのまともな食事。リアナの料理の優しさが、ド底辺地下アイドルの荒みきった心と体に、命の炎を灯していく。
「ふふっ、お粗末様でした。おかわりもありますからね」
リアナは、二人が泣きながらご飯をかき込む姿を、穏やかな笑顔で見つめていた。
ものの数分で、山盛りのもやし炒めと大盛りご飯は綺麗に空っぽになった。
「ごちそうさまでした……。ねーちゃん、いや、お嬢……!」
フェンリルは、空になった丼をカウンターに置き、リアナの前に恭しく跪いた。
頭の上の『服従の輪』などなくても、彼は完全にリアナの『胃袋の支配』に屈服していた。
「アッシは……このフェンリル、一生お嬢のもやし炒めと笑顔を守る弾除け(用心棒)として、骨の髄まで尽くしやすぜぇぇ!! もうパチンコなんかどうでもいい!! 毎日このメシが食えるなら、俺はお嬢の犬になるッ!!」
「あ、私も! 私もここで、アイドル活動の合間に働かせてください! パンの耳じゃなくて、この美味しいご飯が食べたいです! 服従でも何でもしますからぁ!!」
極道邪神、過労女神に続き、最強のヒモ狼と、ド底辺地下アイドル人魚姫まで、リアナの『胃袋テロ』に完全敗北し、店に居座る(餌付けされる)ことになった瞬間だった。
「ふふっ、賑やかになって嬉しいです! それじゃあ明日から、みんなで一緒に頑張りましょうね!」
リアナの呑気な一言で、ポポロ国の路地裏のヤクザ事務所に、大陸最強の武力(邪神・女神・狼王)と、究極のサバイバル地下アイドルが集結してしまうという、前代未聞の事態が確定した。
こうして、リアナの『極道スローライフ』は、さらにカオスに、さらに美味しく、波乱万丈に幕を開けたのである——。




