EP 2
激アツ演出!『CR異世界王道トラックでドン!』
「あのぅ……パチンコって、なんですか?」
箱入り姫であるリアナの純粋無垢な問いかけに、ずぶ濡れだったフェンリルの動きがピタリと止まった。
気怠げだった銀色の瞳に、突如として『パチンカス特有のギラついた光』が宿る。
「……マジか。お嬢ちゃん、パチンコを知らねぇのか?」
「はい。本で読んだこともなくて……。美味しいお料理の名前ですか?」
首を傾げるリアナを見て、フェンリルは濡れた髪を掻き上げるのも忘れ、身を乗り出した。
「いいか、よく聞け! パチンコってのはなぁ、銀色の玉を弾いて己の運命を切り開く、魂のぶつかり合いだ! 今、ルナミス帝国の歓楽街で一番アツい台……それが『CR異世界王道トラックでドン!』なんだよ!!」
「と、とらっく……?」
聞き馴染みのない単語に目をパチパチさせるリアナをよそに、ヒモニート神の熱弁はもはや誰にも止められない領域に入っていた。
「液晶画面の中でよ、冴えない村人Aが道を歩いてるんだよ! すると突然、飛び出した猫に向かって、暴走した巨大な『魔導トラック』が突っ込んでくる! そこで画面に赤い文字で【あぶない!】ってカットインが入るんだ!」
フェンリルは身振り手振りを交え、完全に脳内に溢れ出しているエンドルフィン(脳汁)を垂れ流しながら語り続ける。
「そこで村人Aが猫を突き飛ばして、代わりにトラックにドーン! と撥ねられる! 画面が暗転して……次の瞬間! 『ピキピキピキィィィィン!!』ってけたたましい確定音と共に、七色のレインボーフラッシュが盤面を覆い尽くす!!」
「ひっ……!? は、撥ねられちゃったんですか!? 大怪我ですよ、早く陽薬草を貼らないと——」
「違う違う! そこで女神が出てきて、チート能力を貰って異世界に転生するんだよ! これで『確変(確率変動)』突入、あとは右打ちしてるだけで銀色の玉がドバドバ出てきて、エルフも獣人も女騎士も全員俺の嫁状態! 脳が溶けるほどウハウハなんだよ!! 分かるかこのロマンが!!」
「…………」
リアナは、真顔になった。
世間知らずの箱入り姫の脳内で、フェンリルの言葉が懸命に翻訳処理されている。
「えっと……つまり。トラックという鉄の塊に轢かれて命を落とすと、光って、銀色の玉がたくさん出てきて、女の人がたくさん集まってくる……? それは、ルチアナ様への……過酷な宗教儀式、ですか?」
「違うわよこの馬鹿犬ゥゥゥゥッ!!!」
ドゴォォォォン!!!
リアナが盛大な勘違い(ある意味的を射ているが)に行き着いた瞬間、フェンリルの顔面に、紅蓮の炎を纏ったフレアのドロップキックが完璧な角度で炸裂した。
「ぐはぁッ!?」
「あぁっ! お客様が壁にめり込みました!」
「リアナ! 今の駄犬の戯言は1ミリも覚えなくていいから! 脳から消去しなさい! あんたの純真無垢な心に、地球のパチンコ用語なんていう産廃をインストールしてんじゃないわよ!!」
炎の不死鳥が、文字通り烈火のごとく怒り狂っている。
さらに、カウンターの奥からは、アルマーニのスーツを着たヤクザ邪神が、チャカ(トカレフ)の撃鉄をカチンと下ろして凄んできた。
「オイ駄犬。これ以上ウチの純真なお嬢に変な単語を吹き込むなら、パチンコ玉の代わりにテメェの脳髄で台の釘を調整してやろうか。あァ?」
「ご、ごふっ……痛ぇ……。なんで俺、神様なのにヤクザと過労鳥にボコられてんだ……?」
壁のヒビからズルズルと崩れ落ちたフェンリルは、涙目で頭を押さえた。
「自業自得よ! 大体あんた、ゲームばっかりして女の家追い出された挙句、借金しに来たんでしょうが!」
フレアはズカズカとフェンリルに歩み寄ると、自身の財布(※ルチアナの横流し品を売って稼いだヘソクリが入っている)から、一枚の紙幣を乱暴に抜き出した。
「ほら! 5千円!! これだけ貸してあげるから、さっさとその『トラックでドン!』でも何でも打って、スッテンテンになってきなさい!」
「ご……5千円!? 姉ちゃん、頼むよ、今のパチンコは5千円じゃ甘デジでも遊べねぇんだよ! せめて諭吉(1万円)を——」
「うるさい!! 1秒でも早くウチのリアナの視界から消えないと、ガチで消し炭にするわよ!!」
両手に特大の炎玉を作り出したフレアを見て、フェンリルはついに命の危機を悟った。
「わ、分かった! 分かったから撃つな! ちくしょう、仕方ねぇ……今日は『羽根物』で地道に増やすか……」
神話の時代に世界を震え上がらせた狼王は、シワシワの5千円札をぎゅっと握りしめ、逃げるようにヤクザ事務所の重い鉄扉を開けた。
「あっ、お客様! 外はまだ雨ですから、風邪ひかないでくださいねー!」
リアナが呑気に手を振る中、フェンリルはルナミス帝国の歓楽街を目指して、トボトボと歩き出すのだった。
この後、彼がパチンコ代を稼ぐために「オークの軍勢」相手に無双し、結局全てをパチンコ台に飲まれて「もやし炒め」に泣くことになるとは、まだ誰も知らない。




