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第六節 造形の限界、西方探索の相談

閑話「カラフェシリーズ」エピソード6 本編 ep.114

 王都リヴェルナの空は、秋の終わりを告げるように曇天に覆われていた。セトリアナ大河の水面は夏の輝きとは異なる穏やかさを湛えていた。


 静かに流れる水の上を多くの船が行き交い、冬へ向かう季節の空気に包まれ、遡上する船たちの軌跡が微かに光を反射して煌めいていた。


 アルフォンスは、前回ティーカップを造形したが『瘴気核に似てる』と言われたことで〈造形〉の制御に力を入れていた。


 想像で造形することの限界を感じ、対象物を見ながら集中して造形することにした。アルフォンスは、いつものガゼボで真剣な顔でティーカップを見つめていた。


 アルフォンスは錬成陣の上に、そっとガラスの原料を一掴み乗せる。その時すら、ティーカップを見つめ続けていた。


 魔力を流すと錬成陣に淡い光が走り、ガラスの原料が形を変えていく。溶けたようになり混ざり合い、少しずつ青味が強くなりながら形を整えていった。


 アルフォンスは深く息を吐いた。


「ふぅ、まばたきしなかったせいで目が痛い……。でも、これなら言わせられるかもしれない。『ティーカップ作ったのね』とリュミィに」


 リュミエールが驚きながら、そんな事を口にする想像に口角が上がるアルフォンス。外から見れば、紛うことなき危ない人そのものである。


 その時、ガゼボの入り口にリュミエールが立っていた。


「今日は早いのですね。部屋をノックしても返事がないと思えば、まさか早朝から錬成していたとは思いませんでしたわ」


 アルフォンスは、そっとティーカップを台の上に置きながら言った。


「おはよう、リュミィ。だいぶ寒くなったけど、体調は大丈夫?」


「おはよう、アル。大丈夫よ、枕元に防寒魔道具を縫い付けたおかげで暖かくて出るのが大変でしたわ」


 アルフォンスは目を見開いた。


「それ、よく思いついたね。その発想はなかったよ。僕も頼んでおこうかな」


 リュミエールはテーブルの上を指差す。


「そのテーブルの上にあるのは……ティーカップですか?」


 アルフォンスは口角を上げてうなずく。


「実物を見ながら〈造形〉をすると、確かに雰囲気的にはそれっぽく仕上がりますね。()()()()()()ので、持つのが大変そうな気がしますけど」


 アルフォンスはガックリ肩を落として、「取っ手は裏側か……」と力なく呟いた。


 アルフォンスは気分を変えるため、〈()()〉に関して考えることにした。そもそも、土魔法の〈粉砕〉は土木工事で岩などを取り除くために作られた。


 そのため、術者を守るため前方に破片を飛ばす術式が含まれている。


 前回の失敗は、この吹き飛ばす術式が関わっていると考えられる。かなり広範囲にガラス片が飛び散ったことからも、対策は必須と言える。


 これに関しては対策ができると考えている。魔法陣を解析することで対象となる箇所を特定し、改変することで特定の術式を無効にできるからである。


 アルフォンスは腕を組み、難しい顔をした。


「問題は、改変してもそれが正しいかどうかは、起動してみるしかない点か。改変に失敗、もしくは改悪している場合は、起動そのものがとても危ないからなぁ」


 リュミエールは心配そうにアルフォンスを見つめる。


「先ず、守ることを考えたほうが良いでしょう。飛び散るガラス片は脅威ですが、飛び散らなければ危険は高くありません。風か土の〈防壁〉で守れば、安全性は高まりますよね」


「視界を確保することを考えると風魔法一択なんだけど、防御力は土魔法の方が高くて、風魔法の〈防壁〉の防御力が今ひとつ高くないのが問題かな。とはいえ、案は出たのだから、風魔法の〈防壁〉をベースとした魔法陣を作ってみよう」


 基本的に、自身が仕える魔法は起動時に魔法陣が頭の中に浮かぶ。そのため、魔法陣を書き起こすことは可能ではある。


 しかし、浮かぶのは短時間で記憶するのはなかなかに難しい。加えて、そもそも魔法陣を描き慣れていないと、とても無理といえる。


 アルフォンスは、リュミエールと談笑しながら〈防壁〉の魔法陣を書き上げ、展開した錬成陣に〈防壁〉魔法陣を組み入れていく。


 ここでアルフォンスは根本的なミスをしていた。そもそも、普通に考えて〈防壁〉の錬成陣は()()()()()()()()? という根本的な部分である。


 アルフォンスも当初は〈防壁〉の魔法陣を魔道具の陣図に組み込み、魔道具として完成させる予定であった。


 ところが、リュミエールと談笑しているうちに思考が逸れ、錬成陣に入れ込むという初歩的なミスを行っていた。


「さて、〈防壁〉を組み込んだ錬成陣が完成したから試してみるね」


 錬成陣にガラスの原料を入れ、念の為リュミエールには離れてもらい魔力を流す。錬成陣が仄かに光り始めると、錬成陣を中心に〈風の防壁〉が展開された。


 アルフォンスは思わず「えっ、なんで風の防壁が出てくるの?」と声を上げた。


 リュミエールは展開された風の壁を見ながら首をかしげる。


「それは、想定外の結果なんですの?」


「想定?……あっ、そもそも間違えてた。〈防壁〉の魔法陣は陣図に入れて魔道具にしようと思ってたのに、錬成陣に入れて起動しちゃった……危な過ぎる」


 リュミエールは、くすりと笑った。


「休憩が必要ですわね。でも、結果的に危険はなさそうですし、ちょっとだけ確認しておきませんか?」


「確かに。でも、何を確認するか考えてなかったからどうするかな。危なくないなら後でも大丈夫とも言えるから、止めてお茶にしようか」


 お茶の準備をしていると、本館から執事がこちらに向かい歩いてくる。声を掛けると、リュミエールに会いたいとリサリア子爵令嬢が訪問してきたと伝えられた。


「あら? 約束はしてませんし、何か急ぎの用かもしてませんね。アル、ここに呼んでもいいかしら?」


「ん? 問題ないよ。やってる事自体が単なる探究心の遊びみたいなものだし、急ぎでもないからね」


 リュミエールは一瞬『遊びで王都は騒がしくなってますけどね』と思いながらも、別に困らないので気にしないことにした。


 執事にここに案内するよう指示し、リサリア子爵令嬢の席を用意させる。


 本館の方から執事に案内され、こちらに向かって歩いてくるリサリア子爵令嬢が見えた。アルフォンスは『顔色、雰囲気とも平常って感じだな』と感じながら席を立ち、リサリア子爵令嬢を迎え入れる。


 リサリア子爵令嬢は、優雅に一礼した。


「先触れのない訪問を受け入れて頂けて大変嬉しく思いますわ。リュミ、今日は突然すみません」


「ふふ、問題ありませんわ。アル曰く『遊んでるだけ』ですから」


 リサリア子爵令嬢はガゼボを見回して「遊んでるだけですか?」と、若干の疑問を感じつい質問をしてしまった。


「そうですね、錬成陣を考えたり実践してるのは探求ではありますが、遊んでるようなものとも言えますので」


 リサリア子爵令嬢は『錬金術の探求が遊びと言われてもねぇ』と、心の中で思ったが顔には出さずに、用意されていた席に座る。


「実は、西方探索関連で少し問題が発生してまして、リュミに相談しようと思い訪問させて頂きました」


「わたしで相談の役に立つようなことなのかしら?」


「わたくしよりも魔法に関しての造詣は深いですし、リュミエール以上に造詣が深い人を知らないため頼らせて頂きたく思いまして。実は、魔法の発動が上手くいかない場所があり、そこより先の探索が頓挫していますの」


 リュミエールは顎に手を当てて尋ねる。


「魔法が上手く発動しないのですか? それとも、発動した魔法が意図したよりも制御が難しかったり、場合によっては霧散してしまうとか」


「魔法の発動に悪い方で影響が出るそうです。上手く魔力が伝わらないと言うか、制御から外れるような感覚とは聞いてますが、正直わたくしには分かりません」


 リュミエールは目を瞑り考えを深めていくが、思い当たることがなくアルフォンスに顔を向けた。アルフォンスは優しい目を向けてリュミエールに助言する。


「リュミエールも、魔法の発動に引っ掛かりを感じたことあるはずだよ」


 リュミエールは再び考え、アルフォンスのいう引っ掛かりを思い出す。


「そうですわね。魔法の発動を阻害された感覚を覚えた事がありましたわ。公爵領の異変で、瘴気核の周囲に存在した瘴気の中では阻害されている感覚がありました。ゴリ押しで発動してましたわね」


 リサリア子爵令嬢は首をかしげた。


「瘴気ですか? 聞いた記憶はあるのですが……あまり覚えてませんわ」


 リュミエールはアルフォンスをチラリと見ると、アルフォンスはうなずく。


「瘴気とは、『そこにあると存在は感知できるが目に見えないもの』というもので、『瘴気の理の中では魔物が許容される』と――」


 ますます困惑の顔になるリサリア子爵令嬢は小首を傾げる。


「簡単に言うと、『理が違う魔力』ではないか――それが賢者セレスタンさんとわたしたちが得ている結論ですわ」


 リサリア子爵令嬢は軽く溜息をついた。


「やっぱり分かりませんわ。賢者のセレスタン様の見解であれば、今、この時の最適な解というのは理解できるのですが。――つまり、対策は今のところないと?」


 リュミエールはアルフォンスに顔を向けて「お願い」と微笑みながら押し付けてきた。


「そうだね、今はたぶん対処できないと考えて問題ないかな。西方探索として、その事象は致命的なの?」


「いいえ、探索地域に穴は空きますが問題はありません。ただ、王家へ報告するときにどうするか? そこが悩みどろころなっていますわ」


 アルフォンスは静かにティーカップを手に取った。


「王家の報告には、そのまま書いて提出して問題ないと思います。セレスタンさんは定期的に陛下に報告を入れてますから、関連性は王家側でも調べてもらえるでしょう」


 リサリア子爵令嬢は不安そうだった。


「それで大丈夫なのでしょうか? グリード子爵家はかなり重視して調査を重点的に進めようという話が出てきています。ノルド家としては、支援を主にしているので止めるだけの権限はありませんの」


「止める必要はないでしょう。魔法が阻害されている以上は、魔道士を戦力として数えるのが難しくなります。それでも無理押しするならば、被害は想定内と考えて問題ありません。そこまでリサリア嬢が考えるのは考えすぎです」


「わたしもそう思いますわ。リサリアが考えるべきなのは、状況が悪化した時の退避に関する計画の策定でしょうね」


 リサリア子爵令嬢は納得しにくい顔をしたが、『確かにどうしようもないわ』と思考を切り替える。


「つまりは、当面は今のままで危機管理の指針を決め、準備をしておくということね。それであれば、わたくしの守備範囲ですから直ぐにでも着手できます。そちらの準備を進めようと思いますわ」


 リサリア子爵令嬢は席を立ち、「今日は相談に乗ってもらってありがとう」とお礼を言い、公爵邸タウンハウスから帰路についた。


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