第八話「迷惑な」
「ダメだよフェリオン、道端の人に話しかけないで。目立っちゃう」
「はーい、ごめん」
「よろしい」
盲人を装った魔族二人が目を瞑り、杖を手にしながら会話をする。
フェリオンが言葉を続ける。
「でもさ、あの人間の雰囲気とか魔力とか。明らかに他の人間とは違うやつだった」
「まぁ、俺らと違う種族っぽかったしな。目が黒いし」
「よくわからんね、人間って」
「だね」
不意に、フェリオンは何か考えるように、片手を顎に当て、上を向いて悩んでいるポーズをした。
そして、ヴィアルムに問いかけた。
「てか私の名前リオンっていった?」
咄嗟に名前をリオンにしたことを思い出そうとしたらしい。
「うん、人間の時のお前はリオンって呼ぶようにしている」
「なんで?誰も魔族の名前なんて知らないでしょ」
「魔族の名前って、代々受け継がれていくものでしょ。だから古臭い名前が多いんだよ。まぁ、そんなこと誰も気に留めないだろうけど、念の為の保険」
「へー」
急な長文にフェリオンは耳をシャットダウンしてしまっていた。
「…まぁ、わかったわかった」
「本当か?」
「あと、妹はヤダ。私姉がいい。ヴィアルムが弟ね」
「馬鹿、俺の方が100年も長生きだよ。俺が兄に決まってる」
「そんなぁ」
そんな中身のない話を続ける二人。
種族は違っても、人間とそこまで性格に違いはないらしい。
「じゃ、どうする?これから何したい?南に冒険しにいく?」
「ごめん、ヴィアルム。その予定だったんだけど」
「ん?」
フェリオンが顔の前に両手を突き出し、合わせて謝る。
「明日、魔族討伐の冒険者が出る日って聞いて。戦ってみたくなっちゃった」
「………」
少しの間のあと、ヴィアルムの呆れた声がフェリオンの耳元で放たれる。
「はぁ?ここまで人間で通してきたのに?」
「うん、やっぱり私魔族なんだ。戦いの方が、冒険よりも性に合ってる」
ケロッとしながらそんなことを言うフェリオンに、ヴィアルムはしばらく口を開けたままぽかーんとした。
思わず瞼が開きそうになってしまいそうだった。
「…お前って本当に自由なやつだな」
「褒め言葉かな?」
「まぁ…、そんな感じ」
二人はそんなこんなを話し合いながら、人混みを抜ける。
ーー
そして運命の日。
英雄任命式が行われる日だ。
思わず、アレリアとメーデルがぼやく。
「…多いな」
「だね」
王都前の広場に集まる冒険者は、おおよそ20人ほど。
5つのパーティが揃うなかで唯一三人チームのメリアリード。
メンバーは、
剣士メーデル。
魔術師アレリア。
魔術師兼回復役のカレア。
以上だ。
少ない。
魔族と戦うにはあまりにも戦力が足りない。
そもそも、メリアリードの三人とも魔族と戦ったことはないのだ。
魔族は少なくとも舐めてかかる相手ではない。
周りから見ても、うちのパーティは異質に見えるだろう。
任命式が行われるのが18時。
それまではただひたすらに待ち続けるしかない。
「すごいね、そっちのパーティ。三人だけ」
「…悪いか」
「いいや?賞賛してる」
隣にいたパーティの、アレリアと同い年くらいの女の戦士が話しかけてきた。
アレリアは、不貞腐ながら対応する。
何気に、メーデルとカレア以外に人間と話したことはあまりない。
これもいい経験になるだろう。
口下手なのも治るかもしれない。
今度はアレリアから尋ねてみる。
「そっちは五人か?多いな」
「でしょ、あげないよ」
「要らん」
戦士は自慢げに話を続ける。
こいつ、あれだ。
メーデルと同じタイプの人間だ。
妙にいつも機嫌がいい、あまり見かけないタイプの人種だ。
俺の真逆ともいえる。
「君、名前は?」
「魔術師アレリア。男だぞ」
「あぁ、最初見た時、女かと思ったよ。私は戦士リエルア。よろしく」
「…男か?」
「女だよ」
戦士のリエルアは、わはは、と笑って、それを最後に手を振って別れた。
その後ろ姿を眺めるアレリア。
アレリアが女に見える理由。
それは、長くて真っ直ぐな髪と、整った顔。
そして、まつ毛の長さと白い肌。
どれをとっても男らしさはない。
遠目から見たら本当に女に見えるのだ。この男は。
酒場で酔っ払いに絡まれたのも一度や二度じゃない。
髪は切ってもすぐに再生してしまうので髪型は変えられない。てか、再生されるとこを見られたら一巻の終わりだから、きれない。
なぜか、髪も身体の一部として治るらしい。
「はーぁ、戦士ほしいー」
「やめろ」
アレリアの後ろから手を伸ばすカレア。
アレリアの肩の上にあるカレアの肘を押し除け、二人はため息をつく。
本当に、なんで三人なんだ。
ーーー
「ここにいる冒険者は、みな自らの命を捧げ我ら臣民に尽くそうとするもの」
目の前には、国王様。
アレリア含む英雄となる冒険者たちは膝をつき、国王の話を聞いていた。
いかにも、胡散臭いような話。
こういうのを長々と聞く経験のないアレリアは開始早々、イライラする。
任命式は広場で行われた。
「其方らを、『英雄』と任命しよう」
後ろの、オーディエンスからは拍手喝采。
口笛を聞こえる。
「………」
「いついかなる時も、英雄としての使命を忘れる事のなく」
アレリアはじっと地面を眺めながら話が終わるのを待っていた。
「魔族の領土を奪い返し、最北にある巨万の富を得ることを心より願っている」
顔は上げることはできないが、もし顔を上げて国王の顔を見てみたらきっとほくそ笑んでいるだろう。
そう思わせる何かが、国王の声に宿っていた。
直感的に、国王が嫌いになるアレリアだった。
ーーー
広場を後にした英雄たち一向。
何故か、アレリアたちメリアリードを先頭にして王都の北門へ凱旋を始める。
辺りはすっかり暗くなっていた。
先頭のアレリアは隣のカレアに話しかける。
「人、少ないな」
「そりゃ、もう12回目くらいの派遣だからね。希望なんてないと思ってるんだよ、みんな」
大通りにいる観衆の数がまばらだ。
広場にいた野次馬の数と到底合わない。圧倒的に後者が多い。
国王の差し金のオーディエンスも、少なくなさそうだ。
「………」
最近、アレリアは気づいたことがある。
今まで、アレリアの周りに圧倒的邪悪と感じるやつは現れたことはない。
魔獣とか、襲ってくる野党も悪意はあるが生きる為には仕方ないことだった。
自然の流れっていう感じだ。
その価値観は王都に来て変わった。
王都には、裕福な奴がいた。
他人を見下して、自分の方が上だと思っている奴がいた。
酒場はそう言ったやつの溜まり場だった。
あの時、あの任命式で、初めて真正面から人間の悪意を受けた。
あれは、人間でいう圧倒的邪悪に該当するのだろう。
人間は比較をする生き物。
アレリアの人間への考え方がまた変わった。
「どうした?アレリア。緊張した?」
「いや、どうでもいいことを考えてた」
「そうかい」
軽く笑うカレア。
メーデルに関しては後ろのパーティのやつと談笑している。
相変わらず、冒険者というのは自由なやつらだ。
カレアが言った通り、すこし緊張していたのかもしれない。
もう少し、気を抜いていこう。
まだ死ぬわけじゃないんだ。
俺が死ぬのかどうかは知らないが。
「ん?前に誰かいる」
「え?」
カレアが指を立てる。
その先を見つめるアレリア。
…人影だ。
誰かいる。
迷惑なやつだ。
ん?
まて?
あの気配。
知っている。
あの盲人のやつだ。
「…見たことある奴だ」
アレリアがボソリと呟く。
白い髪の女の盲人だった。
目を瞑ったまま、こちらに話しかけてくる。
「……こんにちは、冒険者たち」
「貴様、何をしている!」
アレリアの横から声がする。
衛兵だ。
全身に鎧を纏った、この短い凱旋の護衛だ。
アレリアの傍についていた衛兵が飛び出して、彼女を拘束しようとする。
剣を掲げて、その盲人の目の前に掲げて牽制をする。
「え?」
「なんで止まってんだ?」
「前のやつに聞けよ」
凱旋が大通りのど真ん中で立ち止まり、後ろの列は混乱していた。
近寄る衛兵に、ため息をつく盲人。
「道を開けてもらおうか」
衛兵の言葉を無視する盲人。
「………」
彼女は右手を上に突き上げて、一言。
「竜巻」
詠唱。
魔術師か?こいつ。
アレリアとカレアは一歩、下がる。
「あ」
次の瞬間、目の前の衛兵は消えた。
「え?」
「こんにちは、初めまして冒険者たち。私はフェリオンって言うの」
グシャ
盲人、フェリオンの後ろに、先ほどまで衛兵だった肉塊と鉄の塊が落下する。
死んだ。
その瞬間、周りのオーディエンスが叫び、慌てて、正気を失ったかのように発狂した。
「きゃあああああああああ」
「………」
ありえない。
あれは風魔術か?
いや違う。魔力を感じなかった。
アレリアの知っている風魔術は、こんな威力は出ない。
明らかに、これは人間の魔術じゃない。
じゃあ誰だ。この盲人は。
待てよ、盲人?そして、この変な気配。
アレリアの目線が、盲人の瞼に向く。
彼女はにっこり笑い、一言。
「私は魔族」
目を開く。
そこには、何もなかった。
その目の真ん中は、真っ白だった。
どこまでも白目。
目を見開くアレリア。
奇妙。
奇怪。
それしか思えない。
見れば見るほど人間とはかけ離れた何かに見える。
これが魔族か。
あの、盲人が。
「………アレリア」
「……ぁ」
カレアは本能的に杖を構える。
アレリアはあまりの奇妙さに、杖を構えるのが遅れた。
「………」
フェリオンの視線が辺りを彷徨う。
ここにいるみんな、私たちを殺す為に来た連中。
そう思うとワクワクが止まらない。
そして、泳ぐ目がアレリアに止まる。
こいつは昨日あったやつだ。
あぁ、この変な、人間じゃない気配。
覚えている。
魔族フェリオンがアレリアに微笑みかける。
「あぁ、あなたは初めましてじゃないか」
「……魔族」




