第四話「vs竜」
カレアは大きく深呼吸をして、問う。
「…竜ですか」
「はい、竜ですね」
「………竜ですか」
「はい」
カレアが固まり、依頼人の前でフリーズする。
その日、泊まった村に依頼されたことだった。
近くで竜が出現したらしい。
あの、翼が生えていて爬虫類みたいな見た目のアイツだ。
この世界の竜は魔族と同じで一つの属性の魔術を操ることが出来る者もいるという。
そういった竜たちは魔竜と言われるらしい。
「……………」
「カレア、生きてるか」
「……ギリ」
青い顔をするカレアの顔の前でアレリアが手をブンブン振りながら安否確認をする。
カレアのうめく声が微かに聞こえる。
今回アレリアたちが依頼されたのが「岩鱗竜」の討伐だ。
名前からわかるように土魔術を使う。
大体、魔竜は群れを成さない。
魔術で味方に被害があることを恐れて単独で行動するのだ。
今回は1匹のみの討伐だが、運が悪ければ実は群れでした〜ってパターンがあるかもしれない。
その時はもうどうしようもない。
袋叩きだ。
「……わかりました、受けましょう」
「ありがとうございます!依頼料は20000ヘルトです!頑張ってください!」
「……頑張ります」
過呼吸のカレアを抱えながらメーデルとアレリアは依頼主の家の外に出た。
しばらくして、カレアの意識が戻る。
「はっ!」
「メーデル、カレアが起きた」
「おー、生きてた生きてた」
辺りを見渡し、また少しフリーズすると、嫌な記憶を思い出したように再び顔を青くした。
「……竜か….」
「うん、ほら討伐しにいくよ」
「いや、待とう。ちょっと待とう」
嫌がるカレアを引きずる2人を制止して、カレアは話し始める。
「竜はとても賢い魔獣なんだよ!まだ小さい魔獣を倒して日銭を稼いでる俺らが戦っていい相手じゃないんだよ!?」
過去一でカレアが焦っている。
元のキャラが崩壊していた。
「今回討伐する魔竜は、魔竜の中でも強い部類の岩鱗竜なんだよ。俺らが敵う筈がない!」
「…メーデル。こいつはなんでこんなに嫌がっているんだ?」
「昔魔術学校で竜の怖さを叩き込まれたらしい。トラウマってやつだね」
「はぁ」
どうやら、カレアにも怖いものはあったらしい。
何故か、少し得意げな気分になるアレリア。
「まぁ、依頼された場所まではまだ長いんだから、そこにいくまでに追いついてもらおう」
「了解。いくぞ、カレア」
「……えぇ?」
3人は竜に向かう道を歩いた。
歩いていくうちにいつのまにかカレアの顔色は良くなり、いつの間にか元通りになった。
「勝てそうか?」
「無理」
いや、まだダメそうだ。
問題だったら、アレリアにもある。
竜が相手になると、深い傷を負ってしまうかもしれない。
いや、もしかしたら死んでしまうかもしれない。
致命傷を負ったときは自己治癒をするのか。
詳しいことは何一つわかっていないが、詰まるところ傷を負わなければいいのだ。
それが、俺が純粋な人間ではないとバレない唯一の方法だ。
人知れず決意を固めるアレリアだった。
そして、依頼のあった場所に着いた。
3人は近くの岩陰に体を隠して様子を伺う。
岩の奥には、二階建ての建物同じサイズの岩鱗竜がいた。
とにかく、でかい。
「……竜は群れじゃない」
「じゃあ、勝てるよな?カレア」
メーデルがイタズラっぽい顔で軽くカレアを小突く。
ため息をついたカレア。
「まぁ、行けるんじゃない」
「よっしゃ、先制攻撃はカレアの魔術で。俺が前線で戦うからアレリアは後方からとりあえず魔術撃ちまくって」
「了解」
時はきた。
竜は、三人が近づいてから急に起き始めて、その辺りをうろうろしている。
こちらに来たら、動き始めよう。
「3」
カレアがカウントダウンを開始する。
左手で3を作って右手で杖を構える。
「2」
誰かの深呼吸が聞こえる。
自分のかもしれない。
「1」
行ける、俺ならもう「見えない魔術」に頼らなくても十分活躍できる実力がある。
深手を負わない慎重さもある。
カレアが杖を持って岩陰から飛び出す。
同時に詠唱をする。
「光線」
光魔術の詠唱。
それが合図となり、メーデルとアレリアも岩陰から飛び出す。
カレアの放った光線は黒く、土色の鱗に弾き飛ばされた。
「マジか」
カレアが軽くうめいて、体勢を整えて杖を構えようとする。
しかし、岩鱗竜の追撃の方が早い。
「グルフルル…」
魔力を感じる。
土魔術の魔力だ。
竜の鱗から伸びた岩は、曲がり、くねり、あっという間にカレアの身体にまで届く距離に伸びる。
「え」
「カレア!」
刹那、カレアの身体は奥に吹っ飛ばされ、地面に勢いよく転がる。
咄嗟に水魔術で盾を作り、致命傷を回避する。さすがだ。
カレアの杖が地面に落ちる音。
ザザザと、地面に擦れる音が聞こえた。
カレアに気を取られているのも束の間。
「アレリア構えろ!」
「ん」
我に帰るアレリア。
大丈夫。カレアはあの程度でやられるやつじゃない。
メーデルは神速で竜との間合いを詰め、剣を振りかざす。
アレリアとそれと同時に詠唱する。
「水の槍」
メーデルの剣が竜の右脚を切り落とす。
なるほど、こいつは魔術の耐性が強いけど物理には弱いタイプだ。
宙に舞う竜の右脚を見ながらアレリアは思う。
おそらく、鱗がない首元や、腹、頭には魔術でのダメージが入る筈。
アレリアの水の槍が、両手から伸びて竜の鱗で覆われていない首元、そしてその右目に突き刺さる。
「グアアアァァアァァァァァァ!!!!!」
竜の咆哮。
その瞬間、岩鱗竜の全身の鱗が伸びる。
強大な魔力。
近くにいるのはメーデルだ。
まずい、標的はあいつだ。
水の槍を解除。
アレリアは必死に叫ぶ。
「逃げろ!メーデル!」
しかし、その岩の鱗はメーデルを素通りし、
弧を描いてアレリアに一直線に向かう。
「は」
なんで、メーデルを素通りしたのか。
なんで、俺を狙うのか。
なんで、俺は「あれ」を詠唱することを躊躇ったのか。
走馬灯のように問いが流れ出す。
まずい、
攻撃を喰らう。
傷を負ってしまう。
バレてしまう。
いや、それどころではない。
死んでしまうかも。
目の前に岩の鱗が迫る。
俺は死ぬのだろうか。
それとも、
「風の渦!」
詠唱。
刹那、アレリアの身体は横にぶっ飛ばされ、地面に転がる。
「あ゛っ!」
後方で岩の鱗が地面に突き刺さる音がする。
なんだ?
誰だ?
「カレア!」
カレアが俺に風魔術を当てて、攻撃をかわしてくれたんだ。
「大丈夫か!」
「もちろん」
急いでアレリアは立ち上がり、カレアは地面に転がる杖を拾い、アレリアの隣で構える。
魔力は…、よしまだある。
カレアがつぶやく声が聞こえた。
「いけるか?」
「……任せろ」




