第二十九話「かつてのメリアリード」
「光線!」
「岩壁」
岩の柱で上空にいるディレン目掛け、カレアが詠唱をする。
対してディレンは人差し指から盾の岩壁を伸ばしてやり過ごす。
そして、岩の盾を消しディレンはその手を顎にかける。
「見たことがあるな。その魔術は」
その魔術とは光線のことだろう。
カレアは杖を上に構え、地面の草むらを踏みしめ、再び詠唱をしようとする。
「光線」
「創剣」
また、どこからか詠唱が聞こえた。
エーリのだ。
それに反応したのはカルト。
その視線を、森林の中の暗闇に向ける。
「危ない、カレア」
再び、暗闇から飛んできた両手剣を自身の大盾で受け止める。
カンッという、乾いた音があたりに響く。
岩でできた両手剣が、止まった。
「ナイス、カルト」
キンッ
そしてそれをリエルアが叩き切った。
魔力が霧散し、両手剣が消える。
だが、攻撃はこれで終わりではない。
「…っマジかマジか」
「リエルア、行くぞ」
カルトとリエルア。
二人の目の前に新たに三本の両手剣が剣先をこちらに向けて飛んできた。
速い。
「……っと」
地面を蹴り上げる音。
リエルアは斧槍を自在に操り、すぐさま二本の剣を叩き切る。
カルトも自身に向かってくる両手剣の下に潜り込み、大盾を下から叩きつけて叩き割る。
あの、「創剣」を使うエーリは今回遠距離攻撃に特化するつもりだ。
確かに、その方がアレリアたちもやりにくい。
ならば、距離を詰めるだけ。
リエルアが前に走りながら後ろを向いて、メーデルに話しかける。
「メーデル!私とカルト、もう一人の魔族のとこに行く!」
「…わかった!死ぬな!」
少し躊躇いながら、メーデルは返事をする。
それににっこり笑いながら後ろに手を向けて、上に親指を立てるリエルア。
もちろん、のサインだ。
「任せとけ!」
リエルアの後ろにカルトがつき、二人は共にエーリの魔術がくる方向に向かって走って行った。
ディレン討伐班はアレリア、メーデル、カレア。
そしてエーリ討伐班はリエルアとカルト。
ディレンに相対するのは、かつてのメリアリードだった。
「降りてこい、卑怯者」
「悪いな、声が小さくて聞こえない」
メーデルが岩柱の上に立つディレンにヤジを飛ばすが、軽く受け流された。
「んだあいつ」
メーデルがキレながら剣を前に構える。
それと同時に、アレリアとカレアも構える。
アレリアは、改めてディレンの目を見る。
…強いな。
魔力量とか、魔術の練度。
体格や、精神力、そして情熱。
全てにおいて、アレリアは目の前の魔族に負けていた。
アレリア一人では、まぁ勝てないだろう。
その様子を下目に、ディレンは右手を額に伸ばし髪をかきあげる。
そして、三人に睨む。
静寂。
この場にいる全員が敵に集中して、動く瞬間を見極めていた。
「………」
不意に、口を開くディレン。
「なぜ、あの街が残っているのか知ってるか」
「………いや」
ディレンの問いかけに、一言で返答するメーデル。
あの街、多分一週間ほど前にライラを殺したあの街だろう。
たしか、エルトーンという名前。
「…全ては、エニルト様の機嫌だ。エニルト様が人間を好きだから、我々は街を破壊できない」
「………」
人間が好き、か。
たくさん人間を殺しておいて、よくそんなことが言えるな、エニルトは。
「私はあの方が嫌いだった。そしてそこはかとなく、大切な方だ。敬愛し、尊敬し、崇拝すべき存在。それが私達のエニルト様だ」
「………」
岩の柱に、ディレンがしゃがみ込む。
その両手を柱に向ける。
「……………故に、破壊する」
「構えろ!くる………」
メーデルが叫ぶが、遅い。
「岩壁」
三人の周りの地面が隆起する。
これはまずい。
地面から岩の棘が生えてくるパターンだ。
逃げなければ、街でのカルトとリエルアと同じ、串刺し状態になってしまう。
慌てて、背後に飛び下がる三人。
次の瞬間、地面が割れてその下から岩の棘が十本ほど飛び出してきた。
2メートルをゆうに越す長さの岩の棘はその勢いのままより上に伸びていく。
「……っぶなぁ」
「よく避けたな」
ディレンの居る地点よりさらに上に伸びた岩の棘。
それらは空中で弧を描き、方向転換をした。
その方向はもちろん、アレリアたちだ。
「…………わお」
「岩壁」
ディレンは魔力を岩の棘の中に強く込め、一気に解放。
すると、岩の棘は今までより早いスピードでアレリアたちに向かっていった。
まずい。
メーデルはまだしも、カレアとアレリアはこの速さに対処することが出来ない。
「………くそっ」
メーデルは剣を構え、背後にいる二人に耳打ちをする。
「二人とも、後ろに隠れといてね」
「わかった」
刹那、メーデルの眼前に岩の棘の先端が迫る。
このままでは、メーデルの頭は貫通し、死に至る。
だがメーデルの手の動きの方が早かった。
ザン!
剣を振り上げるのも同時に、棘を一本叩き切る。
切断された箇所より先の方は、寄生する場所を失い魔力が霧散する。
「………」
そして振り下げると、近くに迫る二本の岩壁を横に切り刻む。
あと、七本。
岩の棘は空中で軌道を変え、三人の真上に棘の先端が向いた。
メーデルがうまく対処出来ない上方向から襲う気だ。
狙いは、魔術師二人組。
メーデルは一瞬目を見開くが、すぐに前に向き直した。
あくまでも、メーデルの目標はディレンの殺害。
アレリア達を見捨てたわけではない。
これは信頼だ。
「二人とも、任せられるか」
「あたり前田のクラッカー」
「………は?」
メーデルの問いかけに、カレアが応える。
その言葉の組み合わせを拒絶するように、カレアの横にいるアレリアが低い声を出した。
何言ってんだこいつ。
謎に頷いたメーデルは、ディレン目掛けて走り出していった。
「水の塊」
カレアは水の塊を広げて二人を覆う盾を形成した。
岩の棘は空中に事前に描いた軌跡を変更出来ないという欠点がある。
つまり、根本を狙えば一網打尽にできるわけだ。
アレリアの杖の先には、さっきまで三人がいた岩の棘の密集地帯だ。
そこに飛礫を放ち、爆発させれば根こそぎ岩の棘は消えうせる。
アレリアは杖を構え、詠唱をする。
「飛礫」
「ぐっ!」
だが、上空からの岩の棘の方が早かった。
水の盾を氷の盾にする間もなく、棘の先端がカレアとアレリアの真上に突き刺さる。
「カレア!?」
「大丈夫、魔術の維持に集中しろ」
しかしカレアの魔術師としての才覚の方が上だった。
水を氷に状態変化させるより早く、水を魔力で硬質化する。
ガン、と音を立てて、岩の棘の先端にヒビが入る。
水に激突したとは思えない音だ。
水を氷に変換するのと、水の性質を変えるのはどちらも行き着く先は同じ水属性魔術から成った盾。
しかし、魔力の消費量が違う。
氷に変換するのは、一度状態変化させてしまえばいい話だ。
水の塊を維持するのと同じ量の魔力を込めればいいだけ。
だが水の性質を変えるとなると、話が変わってくる。
水の塊を維持する魔力プラス、水を硬質化させる魔力分を常に送り続けなくてはいけない。
魔力効率が悪いという話だ。
ボン!
「命中!」
アレリアの放った飛礫が、岩の棘の根本を爆破する。
叫ぶアレリア。
「ナイス!」
水の盾を突き刺していた岩の棘も、寄生先がなくなり霧散する。
カレアも、水の盾を解除しながら叫ぶ。
アレリアの残り魔力は、9.5割ほど。
飛礫は意外と魔力を消費する。
今の状態だと、「見えない魔術」を2回放てるかどうかと言ったライン。
そして、カレアも同じぐらいだ。
光線と、水の盾。
魔力の回復する効率は悪く、魔力カラッカラの状態で一晩寝ても次の朝には半分回復してかどうかと言ったラインだ。
魔力の回復を待って潜伏をするのは基本的に悪手。
つまり、今は攻めるのみだ。
「……魔族が憎いのか」
「当たり前だろ、故郷を返せ」
ディレンは未だ、岩の柱の上。
メーデルがその姿を捉え、走る。
「その魔族は私ではないだろう」
ディレンが、右手を横に振る。
メーデルの近くの地面が、囲むような形で割れる。
岩壁だ。
避けろ。
ジャンプだ。
「っと!」
咄嗟に飛び上がる。
危ない。
メーデルが飛び上がってすぐに、岩の棘が交差し、メーデルがさっきまでいたところに突き刺さる。
「お前は、故郷が人間に滅ぼされたら人間を皆殺しにするのか?」
ディレンが言葉を続ける。
「…っ魔族を殺すのが、人間の目標だからだ」
「目標?お前の意思ではないのか?」
メーデルが着地をしながら返答をするが、すぐさまメーデルに質問をされる。
ここまで理論的に語る魔族は初めてだ。
正直、魔族領に入るまで魔族への認識は人型の魔獣程度にしか思っていなかった。
だけど、それは違う。
どちらかというと、魔族は人間に近しい存在だ。
故に、殺しあうのだ。
「岩壁」
「いや」
走るメーデルの進行方向に岩の棘が生えてくる。
だがそんなもの、メーデルの足止めにもならない。
剣を振り上げる。
地面を踏み締める。
振り落とす。
「俺の意思だ」
向かってくる棘を切り刻み、走るメーデル。
一本、二本、三本。
まだまだ攻撃は止まない。
何度斬っても、岩の棘は地面から生えてくる。
メーデルの目線はぶれない。
ディレンに対する殺意で、視線が溢れていた。
四本、五本、六本、七本。
「……すごいな」
「だろ」
メーデルはいつの間にか、ディレンの目の前にいた。
ディレンの乗っている岩の柱を切り落とし、地面に着地させる。
「……っ!」
「悪いな」
メーデルが剣を振り上げるのを見たディレンは慌てて、メーデルの死角から岩の棘を生やす。
いくらメーデルでも、見えない位置からの攻撃は予知できない。
1番油断している今こそ好機。
ゆっくりと、静かに岩の棘がメーデルの背中に近づいていく。
「油断は……」
「光線」
詠唱。
メーデルの後ろのカレアからのだ。
杖の先から伸びた光の束は岩の棘の先端を貫通する。
何て技量だ。
あの細い光線で、岩の棘の小さな先端を撃ち抜いた。
他人の魔力が干渉した魔術は、性質を変えることが難しくなる。
それがたとえ、人間と魔族だとしてもだ。
メーデルの目線はぶれない。
後ろに引き下がろうとするディレンを逃さない。
剣を、振り上げる。
「俺たちの意志だ」




