第二十八話「不穏な不安」
「…骨だ。人間の」
「ほんとだ」
エルトーンを旅出てからはや3日。
アレリアたち一行は大きな岩に横たわる人の骸骨を見つけた。
頭と下半身に鎧をつけている。
「…動いたりしない?」
「やめろリエルア、怖くなってきた」
カレアとリエルアがやけにビビっている様子。
他の三人の後ろに隠れて、何故か戦闘体制をとる。
「………おぉ」
対してアレリアは人の骸骨を初めて見るので興味津々で眺めていた。
あれ、何か変だ。
アレリアは自身の身体を触り、骨の位置を確認する。
そして、胸の下あたりをさする。
それを不審に思ったのか、メーデルが恐る恐るアレリアに尋ねる。
「………アレリア?」
「…おぉ…!」
やっぱりだ。
肋骨に欠けてるところがある。
左のところがえぐれてる。
多分誰かからの攻撃。
きっと、魔族の魔術だ。
魔族がこの領地を支配しようとした時にこの衛兵だか冒険者だか知らないがこの骸骨の持ち主が抵抗して、やられたのだろう。
なるほど、こんな形になっているのか。
良い勉強になった。
「…大丈夫?アレリア。何かに取り憑かれてたりする?」
「…ん?何の話だ?」
「いや、何もないなら良いんだけど…」
もう一回、メーデルが尋ねるがアレリアは何を言っているかさっぱりわからないようだ。
まぁ、何にもないならそれが1番だ。
「何でこんなとこに骸骨が?」
「魔族にやられたんじゃない?一人で戦ったとは思えないから、多分あちらこちらに同じなのが転がってるよ」
「ひぇー、考えたくもない」
そんな話し合いをして、冒険者たちは再び歩き始める。
結局、その後に骸骨は見なかった。
あり得ないと思いたいが、単身で飛び込んだやつなのかもしれない。
とんだバカか、最強の冒険者とかだったのかもしれない。
「魔族ってさ、何で人間を殺すの?」
「街の人間は殺してないだろ」
「いや、何で対等な関係を選ばなかったのかなって」
メーデルの質問に、カレアがうーん、どうなる。
「そりゃ、魔族が強いからじゃない?優位に立つと人間も支配したがるってもんだよ」
「じゃあ何で100年前に急に支配し始めたんだ?」
「リーダーみたいな魔族が現れたんじゃない?それこそ、エニルトみたいな」
「あー、ありえるね」
魔族については、事前に情報を持っているアレリアにもわからないことは多い。
そもそも魔族に上下関係なんて、あることも知らなかった。
アレリアが魔族を殺す運命のように、魔族たちも人間を支配する運命があるのではないか。
謎はたくさんある。
不意に、カルトがカレアたちに尋ねる。
「カレアたちは、何で「英雄」を志願したんだ?」
「え?あぁ…成り行きってやつだよ。俺もメーデルも、魔族に恨みがあってね」
「では、アレリアは?」
「…アレリアは………」
質問攻めを受けたカレアは困ったようにこちらを見てくる。
そういえば、何でカレアたちについてきたかを言ってなかった。
どうしよう。
素直に魔族を殺せという情報が脳内にあったというのか。
いや、それはバカだ。
ここまで隠し通してきたのに、ここで急に話すのは流石に変なやつだと思われる。
ここは、どう誤魔化すか。
「…親が魔族に殺されたんだ」
「直接?」
「直接」
「俺とメーデルも同じ」
よかった。
奇跡的に話が噛み合ったようだ。
ひとまずは安心。
………いやまて。
あの流れで自分の正体について話すべきだった。
いや、でもどうなんだ?
もっと落ち着ける場所で話したらよかったのか?
わからない。
アレリアには、こういう状況を経験したことがない。
故に対処法もわからない。
言っていいのか。
変なやつだと思われないか。
嫌われないか。
そんなことを考えてしまう。
「…じゃあ、カルトたちはどうしてなの?」
「俺は、死んだうちのリーダーについて行っただけだ。理由はない」
「リエルアは?」
「私は、北の方におばあちゃんの実家があって。安否確認しにきたんだ」
みんな、それぞれと理由がある。
いいことだ。
「すまんな。俺はあまり活躍できていない。うちは元々竜とかの巨大な魔獣の討伐をしてたんだ。盾役は魔獣との戦闘には向いてるが、魔族相手だとどうも弱い」
「いや、助かってるよ。「水弓」の魔族との戦いの時は特に」
「なら良いんだがな」
そんなこんなで冒険者一行はさらに五日間かけて、ようやくエニルトの領地の端っこに辿り着いた。
辺りはすっかり夜だ。
「よーぉし、今日はここで野宿にしよう」
「わかった。そろそろ魔獣に出会うかもしれないから警戒はしておこう」
「了解。腕が鈍ったかもな」
カレアの警告に返事をし、両腕をぶん回すメーデル。
「ご冗談を」
とリエルアが小言を挟む。
アレリアの魔術で焚き火に火を起こし、みんなはそろそろ休もうと、それぞれ寝る準備をしていた。
「じゃ、今日の見張りはメーデルってことで」
「えぇー、アレリアじゃないの?」
「パス」
メーデルがアレリアに愚痴を吐くが、当の本人は一言で受け流す。
みんな、何の危険もない旅を終えて警戒を解いていた。
油断をしていた。
故に、不意を突かれた。
「創剣」
「………っ!」
最初に気がついたのはメーデル。
詠唱が聞こえた方向へ目を向ける。
それと同時に、暗闇の中から両手剣がこちらに向かってきた。
速い。
「ぅおらっ!」
掛け声と共に屈み、両手剣を叩き切るメーデル。
目にも止まらぬ一閃。
空気を切ったような、鋭い音が響いた。
そしてそのまま、メーデルは後ろに向かって叫んだ。
「敵だ!」
「…はぁっ!?」
あわててみんながそれぞれの得物を構え、メーデルの視線の先に目を向ける。
「見たことある魔術だ。多分……」
「久しぶりだな」
どこからか、声がする。
「エニルト様は北側の竜の監視を疎かにしている。ここがギリギリ交戦を感知されない位置だ」
………上か?
「ここまで待つのに、長い時間がかかった。全てはライラの敵討ちと、私たちの覚悟を決める時間となった」
「…誰だ!」
誰かは知っている。
この声。
この気迫。
覚えがある。
「ディレン!!」
上を向くと、月明かりに照らされたシルエットの人影。魔族。
「岩壁」の魔族、ディレンだ。
「……ほらな、エーリ。案外、早かっただろ」




