第二十三話「メガネの魔族」
エルトーン、と呼ばれている街。
カレア、メーデル、カルト、そしてリエルアが現在いる街のことだ。
街の人々は突然それぞれの家に籠り、勝負がつくのを待っていた。
勝負というのは、魔族とのである。
「…カレア。大丈夫か」
「…なんとか、ね」
メーデルが息切れをしながらカレアに問いかける。
カレアはそれに杖を握りしめたまま応える。
リエルアとカルトも二人の前に立って、それぞれの獲物を構えていた。
リエルアが額に汗をうかばせながら、愚痴を漏らす。
「………強んよー、こいつ」
「ありがとね、かわい子ちゃん」
冒険者四人の目の前には、にっこりと笑うメガネの魔族。
名前はライラ。水の魔術を扱う女の魔族だった。
ライラは左手を前に突き出し、口を開く。
魔術を使う気だ。
カレアは魔力を感知し、叫ぶ。
それと同時にライラは詠唱をした。
「来るぞ!」
「水弓」
名前の通り、水の弓の魔術だ。
ライラの周りから、四つの弓が出現する。
そして放たれる。
「とうっ」
無音で放たれた水の弓矢は真っ直ぐと四人の冒険者たちに襲いかかる。
メーデルの悲鳴。
「まずっ」
「水の塊!」
カレアが3人の前に出て、水の盾を出現させる。
大きい。
ライラは思わず感心したような声を上げる。
「へぇ」
「3人とも!後ろに下がって!」
カレアは自身の杖に魔力を込めて、水を氷の盾に変換する。
エーリとの戦いと同じ要領だ。
四つの弓矢は盾に着弾し、爆ぜる。
この魔術の面倒なところ。
それは三つある。
一つ目はそれは魔術を当てて消すことや、斬撃で消えたりはしないところ。
そして二つ目は水の矢が着弾したらそこに氷の棘が全方向にたくさん生えるところだ。
生身の人間が食らったら一撃でノックアウトしてしまう威力。
攻撃喰らうわけにはいかない。
「………っ!」
ガキン!
大きな音と共に、氷の盾にたくさんの氷の棘が突き刺さる。
だが、カレアたちの方向には攻撃が届かなかった。
助かった。
すごい衝撃だ。ビリビリと杖越しに伝わってくる。
少しでも魔力の供給を少なくしていたら、きっと破られていた。
カレアは思わず、安堵のため息をつく。
「…っ耐えた!」
「それはどうかなー」
しかし、ライラはやけにゆったりとした声色で、カレアに近寄る。
それに違和感を持ったのはカルト。
自身の盾を掲げ、前に走ろうとする。
その様子を見ていたリエルアは叫ぶ。
「カルト!?」
名前を呼ばれたカルトは振り返らずに、後ろの三人に叫んだ。
「危ない!みんな!下がれ…」
「水弓」
カルトの忠告より先に、ライラの詠唱が入る。
メガネをつけた魔族の周りから再び4本の水の矢が放たれる。
少し遅れたが、この魔術の面倒なところ。
三つ目は、
「さっきのは君らを一箇所に集めるための罠だよ」
「くっそが」
矢はカレアの展開した氷の盾を避けて、それぞれ左右に2本ずつ飛んでいった。
悪態をつき、水の矢を受け止めるために盾を構えるカルト。
しかし、着弾の直前にその矢先を方向転換させた。
「…はぁ!?」
「魔術師は面倒だからね。先に潰そう」
4つの矢全てがカレアに方向を変える。
三つ目は、この矢はいつでも方向を変えられるところだ。
どんなに精密でありえない動きでも、魔力の軌道に沿って動く矢はその通りに動く。
「避けろ!カレア!」
「無理無理無理!!!」
慌てて杖を離して、氷の盾を解除するカレア。
カレアの後ろにいたメーデルが慌ててカレアの背中を足で蹴る。
「ぅあがっ!」
ガキン!
と、音を立ててカレアの頭上で氷の棘が爆ぜた。
間に合った!
カレアの体が氷で串刺しになる前に、回避させることに成功した。
「おー、よく回避したね」
顔を地面に突っ伏したカレアにパチパチと拍手を送るライラ。
「……もうちょっと優しくできなかった?メーデル」
「…悪気はないからさ」
顔が地面に埋まり、声がこもっているカレアにメーデルが返答する。
「痛つぅ…」
足元は硬い土。
カレアは自身の鼻血を「治癒」で回復させる。
そしてそのまま、カレアは杖を持ち直し、ライラに向けて構えた。
「……やるかぁ」
「すごい、光の魔術だ。人間も自己治癒できるんだね」
ライラはずっとニコニコしながらこちらを向いている。
不気味ぃー。
「………」
いける。
前より、勝機が見える。
こいつ、ライラは明らかにエーリよりも弱い。
近接戦闘に対抗する術がないからだ。
エーリは自身の剣術も磨いているからいくらメーデルでもすぐ殺せない。
だけど、弓は近づかれたらお終いだ。
メーデルとリエルアが同時に攻めたら、きっと勝てるだろう。
「メーデル!リエルア!行け行け行け!!」
「了解了解了解!!!」
「わかったわかったわかった!!!」
カレアの呼びかけにメーデルとリエルアが走り出す。
目標はもちろんライラにだ。
「水弓」
ライラが詠唱。
だが間に合わない。
「ぅおらぁっ!!!」
「痛っ!」
ズドンという大きな切断音と共に、ライラの左腕と右腕が弾け飛ぶ。
水の弓は消滅して、ライラが悲鳴を上げる。
魔族との戦いにおいて、初めから殺しにいくよりも魔術の発動手段を無くしていったほうがより建設的だ。
両腕がなくなったら、次は頭だ。
頭を切り落とす。
「……っ」
メーデルとリエルアはそれぞれの獲物をを再び構え、ライラの首に標準を向けて、振り落とす。
「水弓」
「えっ」
ライラの詠唱。
それと同時にライラの首周りに下向きの弓が二つ配置される。
ガキン!
メーデルとリエルアの手に伝わる感触は、それを首と認識していない。
硬い。
「っぶねぇー」
「っくそ…」
ライラの安堵の息に、リエルアが悪態をつく。
メーデルたちの剣の先には、性質を硬くした水の弓があった。
鉄のような硬さ。
咄嗟に詠唱し、盾を作り出したのだ。
そして、
「下がれ!二人とも!」
「え」
後ろからカレアの叫び声。
「惜しかったのにな」
盾として作り出した二つの弓は下に向いている。
メーデルとリエルアはライラの半径一メートル以内にいる。
水の矢着弾後の、氷の棘の射程範囲内だ。
無音で地面に向けて、矢が放たれる。
「…やばっ!」
リエルアとメーデルが慌てて後ろに仰反る。
ガキン!
それと同時に地面に着弾した水の矢は、全方向に氷の棘を咲かせる。
「い゛っ!!」
リエルアはギリギリで回避したが、メーデルのローブを氷の棘が貫通した。
「強いねー、君たちも」
ライラは氷の棘に両足を乗せながら、メーデルとリエルアを賞賛する。
魔族の足元の棘が上に伸び、ライラはみるみる上空へ飛び上がっていった。
その高さは8メートルにも達していた。
「おい!魔族!このローブ最近買ったばかりなんだけど!!」
「メーデル、シャラップ」
ライラに対し、ブーイングをするメーデルをカレアが制止する。
そのまま、カレアはメガネの魔族に尋ねる。
「教えろ。アレリアはどこにいる」
「……教えたら、死んでくれる?」
カレアは杖を構え、ライラに向ける。
魔力を込める。
そして、不敵に笑った。
「まさか」
「ふふ、知ってた」




