第二十二話「自分探し」
「…人間がいる」
ちょうど、アレリアがキエルア要塞に到着した頃。
カレアたち四人はアレリアを探しに街にまで辿り着いた。
「………何でだ」
メーデルはそこで、呆然としていた。
目の前には、人々が道を渡り、街が栄え、南側と変わらない生活を過ごしていた。
人間が住んでいる。
北側でも、魔族領でも人間は暮らしていたのだ。
ずっと、魔族領には魔族しかいない恐ろしいところなのだと教えられてきた。
何故、人間が住んでいるんだ?
何故、生かされているんだ?
メーデルは辺りを見渡す。
そして、本来の目的を思い出した。
「……アレリアは、どこだ?」
他の3人も我に帰ったように辺りを見渡す。
探すんだ。
魔族に連れ去られたアレリアを。
「…探そう」
ここまでずっと走ってきて、汗まみれのカレアは再び走り出し、街の大通りをひたすらに進んでいった。
リエルア、カルトもそれに続く。
周りの人々はまるで関心のないようにカレアたちに目を向けない。
「アレリア!アレリア!」
「どこだ!!」
「返事しろー!!」
もしかしたら、こういう冒険者がたくさん殺されて、ここの人間たちはもう諦めているのかもしれない。
望みなど、救いなどないと。
「アレリアー!!」
冒険者が殺される。
なら、アレリアも…。
「どこだー!!!」
いや、そんなわけがない。
じゃあ何で連れ去ったかって話になる。
やはり、人体実験みたいなことをするのだろうか。
魔族に散々拷問されて、それから死ぬのかもしれない。
そのようなことは阻止しなければ。
「アレリアー!!!!」
「あぁ、私その子知ってるよ」
メーデルの叫びに、誰かが反応する。
四人が、その声の方向に目を向ける。
「………お前」
街の最奥には、大きな石造りの教会があった。
そこの入り口に佇む、何か。
女だ。
目を見開き、メーデルが叫ぶ。
「構えろ、敵だ」
「四人、か。あの子の仲間かな」
カレアは咄嗟に杖を向けた。
メガネをつけたその女の目は、魔族の目をしていた。
ニタニタ笑うその魔族は、左手の人差し指をこちらに向ける。
「…魔族だ」
「悪いけど、死んでもらおうか」
ーーー
「…なるほどね。自分の出自は知らないんだ。そして自身の傷は回復されるんだね」
「……あぁ」
「君みたいなやつに会ったことあるんだよ、一回」
アレリアの目の前には、「竜王」エニルト。
「…何でこんなことを話すんだ」
「君のことをもっと知りたいんだ」
ソファに座りながら、エニルトはニコリと笑い、頷く。
「…多分、君人間には使えない魔術使えるでしょ」
「…………っ」
「見えない魔術」、だ。
アレリアの額に、冷たい汗が流れる。
くそっ。
すでにバレていた。
最悪、エニルトと戦闘する時に、唯一勝機のある「見えない魔術」での不意打ちをしようとしていたが、それは無理そうだ。
どこでだ?
魔族領に入ってから、アレリアは一度も「見えない魔術」を使ってない。
たとえ竜と感覚を共有していても見えるはずがない。
…いや、もしかして魔族領以外にいる竜も操れるのか?
「あぁ、警戒はしないでくれ。さっきも言ったろ、君と同じ出自のやつと話したことがあるんだ」
「…同じ出自?」
「うん」
エニルトは膝を組んで、話を続ける。
「そいつは戦士だったよ。人間には使えない魔術を使えるのに。変だろ?」
「……あぁ」
さっきから、あぁ、という返事しかできてない。
相槌を打つだけで精一杯だ。
もし無駄なことを話してこいつの逆鱗に触れたら、それが死ぬ時だ。
さて、とエニルトが前置きを挟み、本題を切り出す。
「…まず、結論から言おう。君は不死身だ」
「…不死身?」
「あぁ」
不死身?
何を言っているんだこいつは。
古代魔族ってのは頭がイカれてるのか?
「君は軽い傷を治せるだけの能力だと思っているのかもしれないけど、これはもっと恐ろしいものだよ」
「………」
不死身?
本当に不死身なのか?
「正確に言えば、不老不死だね。君が生まれてからどのくらい経ってるかは知らないけど」
「……何故知ってる、そのことを。誰から聞いた」
絞り出すように、言葉を口に出す。
それだけでも息切れをしてしまう。
何という重圧だ。
何という気迫だ。
「これは俺の友人からの受け入り」
「………」
その、エニルトの友人がアレリアと同族のやつと仲間なのだろう。
話が急に進みすぎてる。
いまいち飲み込めなくなってきた。
「あと、君の出自の話だよね。それは俺も知らないんだ」
「知らない?」
軽く頷くエニルト。
「その友人が言うに、聞いたところで魔族には何の意味もないらしい」
「…そうか」
アレリアは顔を下に向ける。
まいった。
こいつの言っている内容が何にも理解できない。
俺が不死身なのも驚きだが、俺と同じ出自の者が存在するのはもっと驚きだ。
「……………」
「…………」
突然、二人とも沈黙する時間が訪れた。
気まずい…のか?これは。
自分自身から切り出す話題もない。
というか、話したくもない。
そしてエニルトは何を思ったのか、急に立ち上がる。
そして話を続ける。
「…少し、偉そうなことを言わせてもらうけどね」
「………」
エニルトはアレリアと目を合わせ、顔を綻ばせる。
「君は生まれてから二ヶ月弱で、魔族領に来れるほどの実力と精神力を持ち合わせている」
「…何が言いたい」
「実力は生まれながらのものだとしても、その精神力は自身で勝ち取ったものだ」
なんだ?こいつ。
急にアレリアを褒め出した。
情緒不安定なのか?
「……」
「安心しろ、君は強い。そして努力してる。賞賛すべき事だ」
…今理解した。
こいつ、エニルトには敵意がない。
アレリアを殺す気じゃない。
ただ単純に、アレリアに情報を与えてくれているだけだ。
そして、単純に裏表なく賞賛してくれているだけだ。
…じゃあ何のためにアレリアをここに呼んだんだ?
いや、アレリアを呼んだのはエーリか。
でも、アレリアたち二人を竜で要塞に向かわせたのはエニルトのはずだ。
「…何でここに俺を呼んだ?」
「同情だよ。君が死なないまま、生きながらえるのと同じで私もずっと死ねないから」
…そうか。
俺は死なないんだ。
死なないっていうことは、いくら前線に立って戦っても、問題ないということ。
何で死なないんだとか言い出したらキリがない。
一旦は無視しよう。
俺が勝手に敵だと認識していた古代魔族は、実はアレリアの味方だったのかもしれない。
こいつはアレリアの知る中で一番人間に近い魔族だ。
「俺はこれからどうなるんだ」
「殺す気はないよ。てか殺せないし」
「…どうなるんだ」
「仲間と合流しにエルトーンに戻るのが賢明だろう。俺の部下たちは大体人間が嫌いなんだ」
「…わかった」
アレリアは立ち上がり、会議室を後にしようと後ろを向く。
その姿をみて、慌てて制止するエニルト。
「待て、移動用の竜は出す。それに急いだ方がいい」
「………?」
顔だけ振り向くアレリア。
急いだほうがいい?
何のことだ?
続けて、エニルトは言葉を続ける。
「俺の部下と君の仲間が戦ってる。早く助けに行ったほうがいい」




