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無知のアレリア  作者: せきち
第二章「竜王編」
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第二十一話「邂逅」

「エニルト様は、古代魔族という数少ない魔族の末裔だ。故に、私たち現代魔族には扱えない魔術を使うことができる」

「……その、エニルトは」

「様、な」


首元に剣を突きつけられるアレリア。


再びエーリとアレリアは竜に乗り、今度はエニルト、詰まるところエーリ達の上司に会いに行くところだ。


すでにこの状況を楽観視し始めていたアレリアは特に怖がる様子もないまま、話を続けようとしている。

アレリアの髪が風でたなびく。


「エニルト様は、どんな魔術を使うんだ?」


エーリは人差し指を上に向けて、諭すようにゆっくりと発音する。

ドヤ顔もしてた。


竜を操る魔術(ラエリ・トール)だ」

「操る?」


アレリアが疑問の声を上げる。

魔術は、人間は五つの、魔族は四つの属性を操るものだ。


炎、水、風、そして土。

それ以外に魔術の種類はないはずだ。


竜を操るとなると、どういったものなのか、どの属性の魔術なのか見当もつかない。


「?」の顔をしているアレリアに、エーリが言葉を続ける。


「言っただろう、エニルト様は古代魔術、私たちの魔術の原型を扱うんだ。少なくとも、つい最近魔術を会得した人間共には到底及ばない境地にいる」

「…その原型には、属性とかの概念はないのか」

「ない。そして原理はわからない」


エーリ、こいつの言う現代魔族には想像もつかない境地にそのエニルトってやつはいるのか。


竜を操る魔術…。


だからエニルトは「竜王」って呼ばれてたんだ。

だから今アレリアは竜に乗りながら移動出来てるんだ。


「………」


何となく、アレリアの中で目つきの悪い、顎に髭を蓄えたイケオジを想像する。

きっとエニルトはこう言う感じのやつだろう。


そんなこんなで、アレリアとエーリはしばらく進んだ先にある要塞に辿り着いた。


四方が山脈に囲まれ、竜に乗っていなければ誰も辿り着けないような場所に、その要塞はあった。



キエルア要塞。


魔族がこの領土を占領する前、北の国々は一触即発みたいな状態だった。


とある国が対他国の軍の補給地点として誰にも悟られずに、安全に防御に徹することができるような要塞を作ろうとしたのが始まり。


それからは交通の便の悪さから緊急時以外ほとんど使用されずにいて、今に至ると言うわけだ。



「………っ」


アレリアが目を見開き、息を呑む。


先ほどの建物と同じように石造りのこの要塞にはアレリアが上空で視認出来るものだけでも、30体はいた。


しかも魔力を感じる。

アレリアたちが王都に向かう道で出会った岩鱗竜と同じレベルの、魔竜が30体。

もしアレリアたち一行が魔族に会わずにここまで来れても、全滅だっただろう。


というか、英雄の称号を持つ冒険者は大体ここで殺されている気がする。

ここのボス、エニルトが未だ健在なのがその証拠だ。


英雄はその称号に見合った精神力と実力を併せ持つもののことだ。


道中の魔族相手に逃げ出すなんて真似はしないだろう。

というか逃げられないだろう。


「さぁ、降りろ。お前の処罰は今ここで決まる。おそらく、死ぬけどな」

「………」


二人(一人と一体)の乗る竜が要塞の入り口の前に着地する。

降りるエーリとアレリア。


入り口にまで続く道の側には、魔竜がずらりと並んでいた。


「………」


一歩前に歩くごとに感じる、むせかえるほどの殺意。

視線。

そして魔力。


今にも逃げ出してしまいたい。



あぁ、そうだ。

俺は、アレリアは今ここで死ぬ可能性があるのだ。

というか、魔族に拘束されている時点ですでに死はほぼ確約されている。


「見えない魔術」を発動する準備はいつでもできている。

きっと、エニルトに勝つためには不意打ちしかないだろう。


アレリアを拘束しながら前を歩くエーリは、不意に話しかけてきた。


「お前、竜からも警戒されてんだな。その気迫」

「……気迫?」

「自覚はないのか?お前には人間にはない危険な気迫がある。人間にはわからないほどには微弱だがな」


気迫。

つまるところ、オーラだ。


アレリアは知らないうちに周りに警戒させるオーラを出しているらしい。

人間にはわからないらしいが、竜や魔族には通じる。


魔族たちがアレリアを人間じゃないと見抜いてたり、魔竜が誰よりも先にアレリアを襲ってきたのは、それが原因か。



コツコツ、と足音を鳴らしながら石の階段を進むアレリアとエーリ。


目の前には大きな門。

進む。


「…………」

「やぁ、いらっしゃい」


門を抜けて、すぐだった。

目を見開くアレリア。


近くに来るまで、気が付かなかった。


目の前には、180センチくらいの身長の男。

それを見た瞬間、アレリアは敗北を確信する。



魔族は、この世界から拒まれている存在だ。


そう、アレリアの記憶にはあった。

今それが何故かを理解した。


邪悪とも、恐怖心からくるものとも違う。


強い。

それに尽きる。


不意打ちなんて狡い手は通用しない。


ただ真っ直ぐに、気迫がアレリアの全身を貫通する。

アレリアは何も言えずに、その場に立ち尽くした。


その間に、アレリアの隣にいるエーリが前に出て、跪いて敬礼をする。


「エニルト様、突然の来訪、申し訳ございません。処罰を何なりと」

「いや、いい。エルトーンに戻って、守っていろ」

「……はっ」


エーリはアレリアの拘束を解いて、後ろを向いて歩き出した。


目の前の魔族は改めて、こちらを凝視してくる。


こいつが、「竜王」エニルト。

こいつが古代魔族。


アレリアはゆっくりと唾を飲み込む。

そいつはこちらを見つめて口を開いた。


「さて、おそらく君は人間じゃないって理由で呼び出されたのだろう」

「…多分」

「そう警戒しなくてもいい。元々、君を殺す気はないんだから」


綺麗な声だ。

顔からして、20代後半の顔をしている。

前髪がセンター分けで後ろの髪は結んで、さらさらしていた。


この油断したら卒倒してしまいそうな気迫を除いたら、ただの青年に見えなくもない。


「来い、立ち話は嫌いでね。奥の会議室に行こう」

「…わかった」


エニルトは後ろを向き、長い石造りの廊下を歩き出す。

無意識にアレリアはそれに続いて歩いた。


…意外と話の通じるやつだ。

この、エニルトって魔族。


エーリからの話を聞くに、もっと暴君みたいなもんかと思っていた。


ここで死ぬことはないのかもしれない。

いや、油断は禁物だ。


油断したところを竜を操ってアレリアの首ごと、ばーーーーん!!!っていかれるかもしれない。

いつでも、「見えない魔術」を使う準備はしたほうがいい。


「…仲間の冒険者はいるか?」

「…あぁ」


最近解消されてきた口下手がここにきて再発した。

圧倒的な相手を前にすると、応対すらままならない。


「当てて見せよう。メーデル、カレア、カルト、リエルアの四人だろ?」

「………っ」


刹那、危険を察知したアレリアは後ろに飛び下がって、右手を前に突き出す。


恐怖を覚えた。


こいつ、何でその事を。

誰にも、エーリにも仲間のことは言った覚えはない。


気絶していた時に、記憶でも盗られたのか?

そんな芸当ができるなんて聞いてない。


みんなに被害を加えるなら、いくら格上でも立ち向かう。


「…あー。警戒させるつもりはなかったんだ。ただ、自慢したくて」

「…自慢?」


こちらに視線を戻し、エニルトは片手を振った。

そして、再び前を向いて歩き出す。


「俺の魔術のことは聞いてるだろ?エーリに」

「…あぁ、竜を操るものらしいな」

「強いだろ」

「あぁ、強すぎる」


戦闘体制から戻ったアレリアは先ほどより少し距離をとって歩き出す。


警戒は解けない。

わからない。


こいつが、どういった魔族なのか。

敵対しているのか。


こいつの気まぐれで生かされているだけなのか。


何もわからない。


「俺は、遠隔で竜の聞いていること、見ているものをすぐ知ることができる」

「…盗み聞きか」

「うん、君がエーリと戦闘している時からずっと」


なるほど、竜と感覚を共有しているのか。

元々無敵だった魔術が、さらに強くなってどうする。

アレリアは不貞腐れた声で、呟いた。


「犯罪だぞ」

「暇なんでね。そんくらいは許してくれ」


軽く笑うエニルト。

こいつ、今まであった魔族で一番話が通じる。

エーリも同じだが、ある程度長生きをしている魔族は、人間らしくなるのか?


「ここだ、会議室は」

「………」


そこにはデカい机を挟む形で、二つの大きなソファがあった。


…広い。

100年前辺りには人間たちが使っていたのだろうか。



エニルトは上座、アレリアは下座に座った。

さて、とエニルトが話を切り出す。


「君、アレリアは自分のことをどこまで知っているのかな?」

「………」


古代魔族「竜王」エニルト。

アレリアは魔族領で最も人間を殺した魔族に遭遇した。

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