表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無知のアレリア  作者: せきち
第二章「竜王編」
21/32

第二十話「誘拐犯」

「……自然治癒は出来ていそうだな」


竜の背中。

遥か上空で気絶したアレリアの腹を見つめる。魔族エーリ。


槍で貫いた傷が明らかに消えている。

これで、こいつがただの人間という線が完全に消えた。


風がアレリアの長い髪を靡かせる。

目を瞑った姿だけ見ると、アレリアはただの女だ。


その様子に、思わず鼻で笑うエーリ。

そしてその目線を下にある街に向ける。


「…まずは兄上のところに行かなくては」


ーーー


治癒(ラ・レイ)

「…ありがと、カレア」

「うん」


メーデルの貫かれたみぞおちをカレアが治癒する。


「はぁ、ごめん。俺が魔族の首を刎ねてたら」

「いや、俺らにも過失はあった」


謝罪するメーデルをカレアが咎める。


そして四人は竜が飛び去っていった、街の方に目を向ける。


カルトがみんなに問う。


「…なんでアレリアが攫われたんだ?」


数秒の間の後、メーデルが恐る恐る返事をする。


「…そりゃ、魔族だから…、人体実験とか」

「人体実験!?」


リエルアが悲鳴を上げる。


「早く助けに行かないと」

「ここから歩いたら、六時間はかかるよ」

「じゃあ走るぞ!」


四人は街に向かって走り始めていた。


ーーー



「………っ」


目が覚めた。


ぼやける視界。

辺りを見渡す。


どこだここ…。


いや、そんな事はいい。

みんなは、メーデルたちは何処にいるんだ?

みんなは無事なのか?


ぼやけていた視界が晴れていく。


…ここは大きな建物だ。

石で作られた、城のようなものだろうか。


それと同時に、目の前にいる人影を視認する。


アレリアは掠れる声で、精一杯の威圧をする。


「……誰だ」

「気が付いたか」


声は前ではなく、後から聞こえた。

アレリアは慌てて後ろに振り向く。


「お前…」

「久しぶり、だな」


「創剣」のエーリだった。

少年のような容姿と声に一瞬、魔族ということを忘れてしまった。


目を大きく見開き、「見えない魔術」を放とうと口を開き身体を持ち上げるアレリア。


しかし、腕が動かない。

脚もだ。


「…っがぁ!」

「あぁ、拘束されてるからな、攻撃はできない」


立ちあがろうとした勢いのまま顔から石でできた床に激突し、アレリアは悲鳴をあげる。


冷たい地面に、アレリアの鼻血が滲む。


「………!」


エーリは倒れて悶絶するアレリアをよそに話を続ける。


「俺の魔術で作った鎖だ。魔力をかき消す効果がある」

「……くそっ」

「魔術は使えないぞ」


「見えない魔術」は魔力を消費する。

詰まるところ、魔術判定だ。


アレリア最大の攻撃が今、潰えた。

今、戦って勝つという手段が消えた。


「………」


アレリアは、ひとまず背後にいるエーリに話を聞くことにした。


「…何がしたい」

「その判断をするのは俺ではない」


何かを思い出したように、アレリアはその通りに顔を前に向ける。


そこには、先ほど目が覚めた時に見た人影。

溢れる気迫でわかる。

こいつも魔族だ。


この魔族領というところは魔族が多い。

本当に、ここに人間なんているのだろうか。


こいつが、「竜王」なのか?


「…誰だ」

「え、私?ただの居候だよ」


メガネをかけた、建物の端っこにあるソファに座る女の魔族。

急に話しかけられて、びっくりしたように言葉を返した。


ただただ、ぼーっとしてただけのようだ。


「………?」


アレリアはゆっくりと再び背後のエーリに視線を移す。

その顔には「?」が浮かんでいた。


エーリはようやく状況を理解したようにゆっくりと頷いた。


「あぁ、こいつではない。その、決めるのは」

「…じゃあ誰?」

「もともと、ここにいる兄上に聞こうとしたんだけどな。今はいないし…」


エーリが顎に手を当てて、うーんと悩んだ顔をする。


兄上?

そいつも魔族なのだろうか。


まぁ、そりゃ魔族か。

魔族の親戚はみな魔族だ。


てか魔族って家族いるんだ。

アレリアの元々の情報の中にも、それは入っていなかった。


いや、こんなこと考えている場合ではない。



状況を整理しよう。


アレリアは多分今、目指していた街にある城のような、何かの建物に幽閉されている。


そしてこれから、アレリアが殺されるのかどうかが決まるのだろう。


連れ去られた理由はきっと「火葬」の魔族と同じだ。

アレリアがどういった生き物なのか、興味を持ったということだろう。


「よし、決めた」


エーリが何かを決断したように顔を上げて、呟く。

アレリアはエーリに顔を向ける。


「『エニルト』様のところに向かおう。今回は緊急の事態だから、許してくださるはずだ」

「…つまり?」

「ついてこい」


エーリはアレリアの手首を拘束している鎖を持ち上げ、こちらに来るように催促する。


「いや」


だが、アレリアは従わない。


「断る。メーデルたち、仲間達の安全がわからないと、俺はここから動かな……」

「何か、勘違いをしているようだな」


突然、アレリアの眼前には何処からともなく飛んできたエーリの創剣が突き立てられた。


風圧で、アレリアの眼球が冷える。

冷えた汗が額を垂れる。


「………っ」

「お前は、魔族領(ここ)だと無力なんだ。何もできない、何もしないまま死んでいく」


エーリは無表情のまま、話を続ける。


「お前の仲間もだ」


二人を眺めているメガネの魔族は両手を口の前に出して、わーお、といった表情をしていた。

なんだあいつ。


思い出したように、エーリは視線を上げてあのメガネのやつに向ける。


「ライラ、ここに冒険者が来たら相手をしろ」

「え、私か。わかった」


ライラと呼ばれたメガネの魔族は戸惑いながらも頷き、ソファから立ち上がる。

そして、アレリアたちを通り過ぎて、この建物の入り口に仁王立ちした。


「おっけ、ここは任せとけ」

「……わかった。任せた」


少し呆れたような顔をするエーリ。

アレリアを立ち上がらせて、建物の奥に向かう。


「………」


長い廊下が続く。

エーリとエーリに拘束されているアレリアは静かにそこを渡る。


エーリが突然、ポツリと尋ねてきた。


「お前は、自分が人間ではないと自覚しているのか?」

「……………あぁ」


同じ、ポツリとアレリアが返事をする。


答えたくはなかった。

自分の口で、自分が人間じゃないと認めたくなかった。


人間だと言わない、思わないことでメーデルたちと仲間になれたという感覚が鮮明になるんだ。


そして、必死に目を逸らしていた現実がまた、牙を剥いてくる。

自分は誰か。

何のために、誰が生んだ。


…何のために、か。

おそらくそれは魔族の殲滅だ。

脳内に存在していた記憶は魔族関連のものだけだった。


この「見えない魔術」も魔族を殺すために与えられた魔術だ。


与えた。

つまり俺を生んだのは少なくとも、人間や魔族ではない。

もっと上の上位存在みたいなものだ。


誰だ、

それは誰なんだ?


誰、という括りで話していいのか?

考えるたび、心が締め付けられる感覚。


苦しい。

苦しい。


なら、

考えなきゃいい。






ぷつり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ