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無知のアレリア  作者: せきち
第二章「竜王編」
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第十八話「想像と創造」

アレリアは猪の魔獣に囲まれている状況で、至極冷静に右手を前に突き出す。


「グフゥ………」

「まずは一つ目」


案は三つある。

一つ目の混合魔術の案は水の槍をガソリンのような燃え広がる性質にして、炎の槍っぽくするといったものだ。


水の槍(ス・レイド)


水の槍を炎が囲み、三手に分かれて猪に突き刺さる。


「グラゥ……!」


声を出したまま、猪の魔獣三体は動かなくなった。

死んだ。

だが、これは炎の意味があまりない。

ほとんどの威力は水だ。


魔力の浪費だ。

第一案は切り捨て。


次は第二案。


「次は…」


右手からシャボン玉みたいなものを作り出す。

それは分裂して、2個、4個、8個と数が増えていった。


「これは…?」


メーデルは困惑と興味を混ぜたみたいな顔をして、カレアに問う。


「水の球の中に、炎が入ってる」

「炎?」


アレリアは右手の人差し指を突き上げ、そのシャボン玉を周りの魔獣に向けてばら撒く。


そして、


「爆はぁーつ」


爆ぜる。

シャボン玉が爆発して、内側の炎が魔獣の皮を燃え上がらせる。


炎の魔力をシャボン玉の中にたくさん込めて、魔力の制御をオフにした時に、中身が爆発するという仕組み。


「グゴォっ」


悲鳴を上げて、魔獣のいくつかが倒れる。

即死だった。


「うーん…」


これはまぁまぁに強い。

消費魔力は多いが、奇襲とかで使えるかもしれない。


そして本命、第3案。


アレリアは辺りを見渡し、残りの魔獣の数を確認する。


「残り2匹か…」

「グルフゥ…」


猪の魔獣は一緒に固まり、アレリアに威嚇する。


「じゃ、ばいばい」

「グルルルアアッ!」


猛る声をあげながら、こちらは突進してくる猪2匹。

それらにアレリアは右手をかざす。


飛礫(ス・リーク)


鋭い氷柱がアレリアの右手から現れる。


「グォ…っ!」


2匹の魔獣の脳天を貫いた氷柱の先端が爆ぜる。

魔獣の肉片が辺りに散らばる。

数秒の間の後、アレリアがボソリと呟いた。


「まぁ、いいか」


この中でだったら、一番使い勝手がいい。


水の槍を氷に変えて威力を上げ、シャボン玉のやつの要領で先端を爆発させた。


消費魔力も水の槍とトントン。

まだまだ改良の余地ありだが、ひとまず混合魔術を作るのはこれでやめにしていいだろう。

歓声を上げながら、アレリアに近づくメーデル。


「ナイス、アレリアー!!」

「ひとまず、完成したぞ。カレア」

「うん。いい発想してるじゃん」


そんなこんなで、アレリアの作った新しい魔術「飛礫(ス・リーク)」が出来上がったそうな。


ーーー


魔族領に入って3日。


「ここら辺から、魔族の支配下にある街に近くなってくる。一旦はその街を目指していくから、気を緩めないでね」

「おう」


カレアの呼びかけに、みんなが返事をする。

でっけー林を抜けた5人は、再び草原に出ていた。


遠くに見える低めの山の麓にその街はあるらしいので、そこまで歩こうと思う。


この情報は、リエルアとアレリアが病室のベットでうずくまってた時にカレアが国立図書館にて調べていた100年前の地理の本にあったことだそう。

なので、今回の旅はカレアがひっそり模写した地図の正確さによって難易度が左右する。


「固まって動こう」

「わかった」


アレリアは返答し、自身の杖を構える。


魔族はアレリアが人間ではないと識別できるらしい。

ただ、わかることはそれだけでどこ出身とまでは知らない。

火葬の魔族がそのいい例だ。


そうでなかったら、わざわざ生け取りにしろとは言わない。



…まて、何か気配が。


「………?」

「どうした?アレリア」


周りを見渡すアレリアに不信感を抱き、カレアが質問をする。


「いや、なんか。気配を感じて」

「…そうか。魔族かもしれないから警戒しよう」


…気のせいか?

何か、魔族だか魔獣だか知らないが敵意のようなものを察知した。


再び辺りを見渡すが、何もない。

気のせいだ。


そう思おう。

そんな敵意に敏感になってたら、これからの道中でいつでも休憩ができなくなってしまう。


どうせこれから街で魔族と戦うんだ。

神経質になりすぎず、気合いを出していこう。



「人間じゃない…」



声がした。

途端、背筋が凍ったような感覚に襲われる。


「カレア、今声が」

「うん、聞こえた」


5人は辺りを見渡す。

だが、誰もいない。


アレリアの鼓動が速くなる。

何処からか、翼がはためく音もする。


…声がすると言うことは、魔獣じゃない。

それは、


「さて、誰だお前は」

「え」


上空から、声。

そして風を切る音。


アレリアが上を向くと、剣を下に向けて降ってくる人影。

声を上げる事はできない。出す間もない。


剣先の着地地点はアレリアの頭。

回避は、間に合わない。


あ、ダメだこれ。

死ぬ………


「ぅおらぁっ!!!!」


叫び声。

カルトが慌てて剣とアレリアの間に盾を滑り込ませる。


きんっと、火花が散る音を立てて、盾と剣はぶつかる。


重い。

圧力でカルトの足元には砂煙が生じる。


そのまま、双方数秒間硬直する。


「…ちっ」


舌打ちをして、その人影はアレリア達より10メートル後ろに飛び下がる。


「……」


カルトはゆっくりと盾をおろし、アレリアに目を向ける。


「大丈夫か、アレリア」

「…ありがとう、カルト」


アレリアは自身の安全を喜ぶ暇もなく、襲いかかってきた、その生き物に視線を移す。

背が低い。

まるで子供のようだ。


そして、目の中が白い。

魔族だ。


そいつは、アレリア達と目を合わせながら呟く。


「…まただ。また人間だ」

「………」


ため息をつき、右手の片手剣を横に持ち直す。


途端、その魔族の持っていた剣がボロボロと音を立てて崩れる。

その跡は何も残ってない。


そうか、魔術で作った剣だったのか。

アレリアは目を見開き、目の前の子供の魔族に目を向ける。


茶色の短髪を靡かせ、その少年の魔族はゆっくりと話し始める。


「お前らは、我らが竜王『エニルト』様の領地に入った」

「…は?」


思わずアレリアが素っ頓狂な声を上げる。


竜王?

将棋の話か?


てか、将棋ってなんだ?


いや、そんな事はいい。

こいつは「様」と言った。

この少年の魔族には上の階級の生物がいる。


魔族には上下関係が無いんだと勝手に思っていた。

あんな自由奔放な生き物に上も下もないと考えていたのだ。


その、竜王だが叡王だが棋聖だが知らないがそいつが魔族だとしたら、この少年よりも強い魔族が魔族領の奥にいることになる。


まいったな。

それは。


この少年の魔族は強い。

気迫だけで言ったら、王都で倒した二人の魔族の肩を並べている。


もしかしたら、魔族の中ではこれが最低基準なのかもしれない。

そんなこと、考えるだけでも恐ろしい。


話が逸れた。

とにかく、こいつを倒したとしてもそう簡単にことは終わらないと言うことだ。


「この『創剣』のエーリが相手をしよう」

「カレア、アレリア。下がっといて」


真面目モードのメーデルが剣を抜き、前に出る。

斧槍(リーフェ)を持つリエルアと大きな盾を持ったカルトも前に出る。


一歩、前に踏み出すエーリという名の魔族。

口を開く。


「お前達みたいなのをたくさん殺してきた。いくら殺してもまた湧いてくる。何がしたいんだお前らは」

「人の土地奪っといて、何を言う」


声変わり前の、リエルアよりも少し高い声のエーリは、感情のない話し方を続ける。


「いい加減、諦めろ」

「………っ」


メーデルが走り出す。

リエルアもそれと同時に姿を消して走り出す。


「はぁ…」


ため息をつくエーリ。

右手と左手を前に掲げる。


創剣(カレ・トリア)


詠唱。

すると、エーリの両手から槍が出てくる。


アレリアのように、水とかでできたものではない。

本物の槍だ。


「岩魔術か!」

「岩!?」


カレアの叫び声に、アレリアが思わず反応する。

岩魔術を使って、驚くほど精巧に槍を創り出しているというわけだ。


創剣なんて名前なのに、剣以外も作れるのか。


「槍?」


メーデルが走りながら、疑問を投げかける。

リエルアもメーデルの後ろを走りながらついていく。


二人とも早い。

とても肉眼じゃ追いきれない速度だ。


メーデルはエーリの左、リエルアは右に分かれる。

挟み撃ちを仕掛ける気だ。


周りの背の低い草が風圧で揺れる。


エーリは両手で二つの槍を掴み、リエルアとメーデル目掛けて左右に投擲する。


すごい動体視力と運動能力だ。

吸い込まれるように槍のてっぺんがメーデルの頭に突き刺さろうとしていた。


「甘い」


次の瞬間、槍はカンッという音を立て、地面に叩き落とされていた。

草原の中に突き刺さる槍。


速い。

ただひたすらに速かった。


おそらく、剣のみねで上から叩き落としたのだろう。


リエルアも同じ方法で回避した。


「いくぞ」


エーリを挟み撃ちしているメーデルとリエルアは踵を返し、剣を構える。


カレア、メーデルも杖を構えてどう回避しても追撃できる体制だ。


勝った。


メーデルが口元に笑みを浮かべながら、剣を振りかざす。

リエルアも斧槍(リーフェ)の斧の部分で振りかざした。


「ふぅん」


キンッ


金属音。

剣先が魔族に命中した感覚はしない。


メーデルが目を見開き、思わず呟く。


「…は?」

「惜しいね」


メーデルの剣とエーリの間には、もう一本の剣があった。

しかし、エーリはその剣を手に持っていない。


「………」


エーリの周りには、5本の剣が浮いていた。

そのうちの2本がメーデルとリエルアの一撃をいなしている。


「…剣が、浮いてる?」

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