第十五話「醜い死に様」
「………」
一方、フェリオンは3人の冒険者から逃げて、南門へ飛んでいった。
足元に風を生み出し、風圧で足場を作る。
その繰り返しだ。
地面を歩くよりも、より早く、より安全に逃げることができる。
フェリオンは目を見開き、ポツリと呟く。
「………ヴィアルム、死んじゃった」
あいつの、ヴィアルムの強大な魔力が突然消え去った。
フェリオンは友達をまた一人失った。
全部、自分自身のせいだというのに、この魔族はそんなことを微塵も考えない。
根本的に、こいつは存在してはいけない生き物だ。
再び前を向く。
南に向かえば向かうほど、人の数が増えていく。
「いたぞ!魔族だ!」
前方から声がする。
同じような鎧をした人間がたくさん。
衛兵だ。
そいつらと目を合わせるフェリオン。
ふっと笑い、詠唱する。
「竜巻」
「ぅがああぁぁぁぁあっ」
発動地点は地面。
衛兵や辺りの群衆が竜巻に巻き込まれて宙を舞う。
あるものは恐怖し、あるものは逃げ惑い、あるものは絶望する。
南門が見えてきた。
もうすぐ、私は南に冒険に旅立てる!
あぁ…、なんて素晴らしい。
フェリオンは思わず、空中で両手を広げ、喜びを表現する。
「んふふふふ……」
やはり、魔族はこうであるべきだ。
恐怖と絶望の象徴。
人間を虐げるために生まれた存在!
美しく、残虐に頂点に立つもの!
それこそが、
それこそが、
「魔族!」
叫び声。群衆の誰かのだ。
そして…
「ぅくはっ…っ!」
痛み。
フェリオンの口から血が溢れる。
なぜ?
魔術対策をして、身体の周りに小さい竜巻を纏わせていた。
「…なっ…んで」
痛みを感じた、自分の腹を見るフェリオン。
「…ッ」
赤く、血で塗りたくられた剥き出しの刀身がそこにあった。
剣。
フェリオンは衛兵の一人が投げた剣に刺されたのだ。
空中から、剣を放って。
どうする?
反撃するか?
いや、それより前に逃げる方が生存率は高くなる。
なら、早く逃げないと……
「っがはぁ…っ」
もう一本、剣が刺さる。
痛い。
口から血が溢れ、風の制御が一瞬出来なくなった。
一瞬。
それだけだった。
しかし、空中でバランスを崩したなら、もう飛ぶことは叶わない。
「………ぁ」
フェリオンは空中での風の制御を失い、地面に向かって自由落下をしていった。
そんな、南門まであと少しなのに。
あと少し手を伸ばせば届く距離なのに。
そんな。
「っぐあっ」
落下による痛み。
身体の中でグシャリと言う音がする。
そして。
「死ねっ!魔族!」
「あっぐっあぁっ」
もうここから生き残る術はない。
新たな剣を背中に刺される。
身体の再生が間に合わない。
また一本、もう一本。
「死ねっ死ねっ死ねっ!」
「がっあがっうっぐあっ」
もう一本。
悲鳴を上げることさえできない。
ただ、痛い。
たとえ魔族といえど、痛覚からは逃れられない。
血が全身から溢れ出す。
もう一本。
また一本。
「消えろっ、消えろっ!」
「ぐぁっくぅっがあっ………っ………」
遂には声も上げられずに、再生が追いつけずに痛覚にまみれるだけとなった。
「……………っ………ぐ」
フェリオンは周りにいた、冒険者と衛兵に滅多刺しにされながら命を落とした。
その亡骸は、20本ほどの剣に突き刺された血の滴る肉塊のようだった。
魔族というにはあまりにも醜い死に様だった。
ーーー
「おい、アレリア。起きろ」
「……ん」
目が覚めると、目の前にはカレアとメーデルの顔。
…何してたんだっけ。
一瞬、脳内がフリーズしてアレリアはぼーっとする。
「……魔族!」
そう言ってがばっと立ち上がるアレリア。
そうだ、思い出した。
俺はさっきまで魔族と戦って、勝ったんだ。
「見えない魔術」を撃って勝ったんだ。
辺りを見渡すと、辺りは建物の建材でできた瓦礫で溢れて、王都というにはあまりにも見窄らしい風景だった。
そして、目線をカレアとメーデルに向ける。
カレアはメーデルの肩を抱えて、支えている様子だ。
「…勝ったのか?」
「うん、風の魔族は南で冒険者に殺された。
もう一人の炎の魔族は行方不明」
「…なるほど、よかった」
炎の魔族は、アレリアが見えない魔術で殺した。
アレリアはよく見ていなかったが、おそらく死体を残さないほどの威力で殺したのだろう。
だからカレアも炎の魔族が行方不明だと思ったのだ。
元々瀕死だったのもあって対して抵抗もされずに殺されてくれたのが幸いだった。
カレアがこちらに手を差し伸べる。
「ほら、教会に行こう。そこでゆっくりと休もう」
「わかった」
「立ち上がれる?」
「怪我はない」
よいしょ、と一人で立ち上がるアレリア。
「…俺の杖は?」
「見つけといたよ」
「…ありがと」
「おう」
教会には、一緒に戦ったリエルアとカルトもいた。
戦いから離れて、衛兵に助けを要請した冒険者も一人生きていたそう。
宮廷魔術師が助けに来てくれたのは、その冒険者のお陰なので、アレリアたち5人の命を助けたのはそいつだと言ってもおかしくない。
6人。
英雄と評された冒険者は20人いた。
それが6人にまで減った。
やはり魔族というのは恐ろしい。
結果的に2体とも殺せたのがせめてもの救いだ。
「では、また食事の時間になったらここに来るので。それまで安静にしててください」
「ありがとう」
「いいえ」
王都の教会の神父が病室を使ってアレリアを看病してくれていた。
薄いベットに埋もれ、アレリアはしばらくの間安静に過ごすことにした。
「…今、暇かな?」
隣のベットから、声が聞こえる。
その方向を向くアレリア。
「あぁ、ちょうど退屈してた」
「そっか、ならちょっと話そう」
戦士リエルアだった。




