第十四話「不意打ち」
カレアの体力はもう残りわずか。
魔力量もあと「光線」を10回打てるかどうかといったレベルだ。
一方、ヴィアルム。
魔族の魔力は底なしだが、体力はカレアと同等、いやそれ以上にまですり減っていた。
外傷は治せても、身体の疲れは取れない。
酸素の供給も間に合っていない。
お互いに、一手でも読み違えば死ぬ可能性がある。
「………」
「………」
カレアは杖を構える。
ヴィアルムは右手を前に掲げる。
カレアはゆっくりと身体を前に進ませる。
ヴィアルムの「火葬」の射程距離内まで、あと2m。
「………」
1m。
「火葬」
「圧風」
ヴィアルムの詠唱が終わる前に、カレアは杖を持ちながら詠唱した。
「圧風」。
この魔術の射程距離は「火葬」と同じ半径3メートル。
魔術の内容を簡単に表すと、弱体化した「見えない魔術」だ。
使う魔力量は大きく、今のカレアが使ったら魔力切れになるが、相手の肉体を信じられないほどの風圧で削り取る技だ。
不意打ちや、最後の一撃で使われることが多い。
「………」
「…なるほどね」
血を吐くヴィアルム。
その目線の先には自身の抉り取られた右半身があった。
元々そこにあったはずの肉塊はヴィアルムの背後に転がっていた。
そして、目線をカレアに向ける。
青白く、冷や汗の塗れた肌。
今にも倒れそうな状況で、声を振り絞る。
「…はぁ、なんで死なないんだよ」
そう言い残し、カレアはその場に倒れた。
ーーー
その少し前、フェリオンは。
「はぁ…もう疲れたなぁ」
辺りの瓦礫を竜巻で持ち上げ、他の冒険者の死体を探していた。
自分で戦いたいと言いだしといて、もう弱音を吐いているフェリオン。
こいつ、人間で言うところのダメ人間ってやつだ。
典型的な自己中タイプだ。
「………」
瓦礫をどかす。
「………」
瓦礫をどかす。
「………」
…おかしい。
こんなに死体が見つからないことあるか?
こんなに、あんな派手にぶつかって、明らかに他の冒険者の着陸地点はここだった。
「……」
「お前、何人殺した?」
声。
冒険者だ。
生きていたのか。
どこだ?
どこにいる?
フェリオンは辺りを見渡し、声のありかを探す。
「…誰だ」
「今までに、何人殺したか、と聞いているんだ」
「……」
フェリオンは両腕を上に掲げる。
「竜巻」を起こして周りのもの全てを消し飛ばそうと思っているのだろう。
「竜巻」
「無視するなよ、傷つくだろ」
フェリオンの両腕が跳ね飛ばされる。
「は」
目を大きく見開くフェリオン。
腕の断面から溢れ出る血でフェリオンの目の前の景色は染まっていた。
地面に両腕が落ちる音がする。
「…痛ッ!なんで生きて…っ!」
「ん?あぁ、カレアに治してもらったんだよ。あいつ、すごいよな」
後ろを振り向くフェリオン。
すると、そこには血の滲む服を着て、抜き身の短剣を構えるメーデルがいた。
フェリオンの方を剣先で向けて、口を開く。
「前にもいるよ」
足音。
もう一度後ろを振り向く。
そこには、戦士リエルアと盾役カルトがいた。
近接相手が苦手なフェリオン相手に、至近距離で3人の近接職。
フェリオンの頭に浮かんだ言葉は、敗色濃厚だった。
リエルアが斧槍を突き出しながら、言う。
「観念しろ、償え、死ね」
「………」
フェリオンは不意に上を見上げ、一言。
「…………逃げるか」
「は?」
次の瞬間、フェリオンの腕は光速で再生して、魔力を込める。
「二人とも!腕を…」
「竜巻」
上空に浮かぶフェリオン。
その風圧で3人は横にぶっ飛ぶ。
その様子を見て、フェリオンはため息をつく。
「…あーあ、終わっちゃった」
「…待て」
後ろから、短剣が飛んできた。
脇腹に深く突き刺さる。
「お前を逃したら、仲間に顔向け出来ねぇんだよ」
カルトだ。
顔も向けずに、フェリオンは短剣を抜き、遠くに投げる。
そして下を向き、もう一度ため息をつく。
「悪いけど、もうばいばいだよ」
「……待て、待てぇ!!」
竜巻でさらに上空に飛び上がるフェリオン。
声を振り絞り、再び叫ぶ。
「ヴィアルムーーー!!!!撤退だーーー!!!!」
そう言って、フェリオンは先に南門へ向けて飛び出していった。
ーーー
「ヴィアルムーーー!!!!撤退だーーー!!!!」
フェリオンだ。
撤退だと。
あいつも、フェリオンも返り討ちにあったらしい。
「くっそが…」
やはり、フェリオンについていくべきじゃなかった。
こんなに死にかけなのはこれで二度めだ。
もう二度とこんな思いをしないと決めたはずなのに。
「くっそ…」
カレアから受けたダメージですでに歩くのも困難な状況。
身体の再生も、疲弊のせいでかなり遅れている。
このままじゃ、俺も死ぬ。
「………」
走らなくては。
足を必死に動かす。
「はっはっはっはっ…」
息切れを起こしていた。
こんなに全力で走ったのは久しぶりだ。
体力も少なくなっている。
右半身がないから、重心を合わせるのも大変だ。
今少しでも立ち止まったら、俺は倒れてしまう。
動かせ、足を動かせ。
生きたいんだろ。
走れよ。
走れよ。
「走れってぇ……」
視界が歪む。
身体が倒れてしまった。
瓦礫を背中の支えにしないと、今でも倒れてしまいそうだった。
もう、身体は動かない。
再生を待つ間もなく、俺は死ぬだろう。
ざっざっざっ
足音。
誰だ?
あの、俺を瀕死にした魔術師は魔力切れで気絶した。
フェリオンを追い詰めた剣士たちか?
それとも、盾役か?
俺を殺そうと、迫ってくるのは誰だ?
「………」
「……お前か」
瀕死のヴィアルムの前には同じく瀕死のアレリアがいた。
ーーー
危ない、自分に治癒能力がなければとっくに死んでいた。
あの、「見えない魔術」、魔力をごっそり持っていく。
体力もすでになくなっていた。
杖を探す暇はなかった。
この魔族への殺意、それしかなかった。
傷口は消えたものの、ヴィアルムと同じく疲労は消えない。
油断したら倒れてしまいそうだった。
アレリアは虚な目でヴィアルムに問う。
「…魔術を撃たないのか」
「お前こそ、早く撃ってみろ」
両者とも、腕を構える。
息が荒い。
お互いに、瀕死だ。
「……お前は、なんなんだ?どこから生まれた?」
ヴィアルムは問う。
顔の表情を変えないまま、アレリアは返答をする。
「…それを知ってたら、こんなに苦しんでない」
「……そうか、…そうか」
アレリアは最後の魔力を込める。
「……」
「見えない魔術」
次の瞬間、ヴィアルムの体を全て残さず地面もろとも全てを抉り取った。
音はない。
勝った気もしない。
呆然と、アレリアはただその場に立ち尽くした。
視界が歪む。
死んだ。
火葬のヴィアルムは、今、死んだ。
「………討伐、か」
そう言い残し、アレリアもカレアと同じように地面に倒れた。




