第十二話「ただの殺意」
「光線」
「んしっ!」
カレアの光線と同時に戦士リエルアが建物の影から飛び出す。
その後ろを、剣士メーデルと盾役カルトが追う。
カレアの光線の向きは、「火葬」のヴィアルム。
ヴィアルムの魔術は近距離専門だ。
遠距離から素早く、正確な一撃を加えられる「光線」は炎の魔族にとって非常に厄介なものだ。
「ぅおっ!」
「ヴィアルム?大丈夫?」
遠くから撃たれた光線を眼前ギリギリで避けるヴィアルム。
フェリオンが慌ててそちらを向く。
ヴィアルムは光線のでた方向を向き、こちらに向かってくる冒険者を視認する。
1、2、3…5人だ。
その中にはあの、人間じゃない魔術師もいる。
よかった。
さっきのフェリオンの大きい竜巻に巻き込まれて死んだかと思っていた。
「…休む暇はなさそうだな」
「だね」
フェリオンは右手を再び構える。
さっきの王宮魔術師との戦いで左腕に穴が空いているので、回復するまでの間は右手だけだ。
ヴィアルムは傷こそないが、あまり大事になる前に帰りたい気持ちでいっぱいだった。
もうかなりの大事だというのに。
「火葬」
「光線」
遠くからのカレアの光線。
ヴィアルムは詠唱を中断して、体をのけぞる。
脇腹に擦り傷がついた。
危ない。もう少し避けていなかったら腹に直撃していた。
ヴィアルムが叫ぶ。
「っぶな!」
「光線」
「ちょっ」
再び、カレアの光線。
「光線」
「ぃいっ!!」
次は耳を掠める。
これが、カレアの「火葬」を封じる作戦だった。
遠くから、カレアの「光線」で魔族の詠唱を妨害する。
ヴィアルムの魔術は近距離専門なので、反撃はできない。
そしてその間にメーデルとカルトがヴィアルムの側に駆け寄る。
やはり、近接職は足が早い。
片手剣だけのメーデルはともかく、なんで盾役のカルトはあんな大きい盾を持ちながら進めるんだ?
半径三メートル。
「火葬」の射程範囲内だ。
ヴィアルムは両腕を伸ばし、詠唱しようと口を開く。
「死ににきたか」
このままだと2人は焼け死ぬ。
しかし、人間の方が早かった。
「ふんっ!」
メーデルの一閃。
速い。
「あ゛っ!」
ヴィアルムが断末魔を上げる。
片方の腕はメーデルに斬られ、
もう片方は盾役が持っていた短刀を二の腕にブッ刺され、魔力の供給が途切れた。
魔力は両腕を介し、手のひらから放出される。
両手から魔力を出せなくなったヴィアルムは今、魔術を使えない。
魔術を使えない魔族は、ただの人間に等しい。
「痛っつあ!」
「光線」
さらにそこでカレアが追い打ちをかける。
ヴィアルムは目を見張り、次の瞬間安堵した。
よかった。
狙いが外れた。
首の横にそれた光線は遥か後ろの城壁に衝突し、魔力を霧散させる。
「|死ね」
いつの間にか目の前に移動してたメーデルとカルト。
メーデルがその剣を振り上げる。
ヴィアルムの首元に剣が迫った。
いける。
ヴィアルムの腕はまだ回復していない。
こいつを、殺せる。
最後に、ヴィアルムの目を見るカレア。
その白い目には絶望はない。諦めもない。
ただ、殺意だった。
「火葬」
詠唱。
…詠唱?
メーデルの剣がスカる。
おかしい、手応えがない。
勢い余ってバランスを崩すメーデルに、ヴィアルムは笑いかける。
「残念」
「は?」
メーデルは自身の剣先をみる。
「……!」
なかった。
剣先がなかったのだ。
しかも、刃先が赤い。
熱を帯びている。
これは炎魔術だ。
「……クソが」
「火葬」
慌てて自身のローブを前に掲げ、メーデルは自身が燃えるのを防いだ。
ローブは音を立てて燃え出し、脱ぎ捨て地面に叩きつける。
しくった。
人間と魔族を同じ枠組みで見るんじゃなかった。
当然、魔術が両手からしか発動しないなんて思うんじゃなかった。
メーデルの剣は溶けたのだ。
超高温の「火葬」で、メーデルの剣がヴィアルムの首元に到達するまでに溶け切ったのだ。
…そうか。
メーデル、カルトが、やたらヴィアルムと目があった理由はあった。
目だ。
視線で魔術を発動している。
原理も、どういう発想かも全くわからない。
人間には到底できないことだ。
白い、ヴィアルムの視線を感じる。
くる。「火葬」だ。
燃える。熱を感じる。
きっと俺は今から焼け死ぬのだろう。
俺が死んだら、誰が悲しむだろ。
カレア、アレリアは悲しむだろうな。
…親戚はどうせ無関心だろう。
そんな人生だったんだ。
あぁ、視界の横から何か迫る音がする。
これは走馬灯か。
「火葬」
「おぉぉぉぉ!!!」
叫び声。
カルトだ。
「間に合った!」
「え」
盾役、カルトが自身の大きな盾をヴィアルムの目の前に掲げた。
魔術の発動地点を手前に戻したのだ。
「火葬」は鉄製の大盾に命中し、あっという間に燃え広がり、溶ける。
なんて火力だ、人間の炎魔術では到底出せないような代物だ。
「下がるぞ!」
カルトはヴィアルムの腹に右足をつきだし、キックする。
「だがぁっ!」
ヴィアルムの身体は遠くまでぶっ飛ばされた。
元々、バランスが崩れていたのだ。
体幹が弱く、吹っ飛ばされるのも無理はない。
その間にメーデルとカルトは後ろに下がる。
「無事か、剣士」
「あぁ、サンキュ盾役」
メーデルは予備の短剣。
カルトも脇に刺してある短剣をもう一本取り出し、再び構えた。
「…短剣かぁ…」
「お互い、厳しいな」
自虐的にハッ、と笑い二人は魔族に目を向ける。
ーーー
「うらぁっ!」
「おぁっ」
一方、フェリオンと、リエルアとアレリアは。
接近するアレリアの攻撃をぎりぎりでかわし、両手を突き出すフェリオン。
詠唱。
「竜巻」
「水の槍」
「竜巻」が中断される。
フェリオンはその右の手首に水の槍が突き刺さり、悶絶する。
アレリアの詠唱だ。
「………」
杖を構えたまま、アレリアは前進する。
魔力はまだある。
まだ大丈夫だ。
アレリアは魔術師であるのにも関わらず、戦士と同じ最前線で戦う。
アレリアには、フェリオンは自分を殺すことができないと言う確信があった。
あの、炎魔術を扱うもう1人の魔族の言うことを聞かないなんてことはしないはずだ。
実際、フェリオンは魔術師が前線に立っているこの状況を非常にやりにくく思っていた。
フェリオンの魔術をかき消す竜巻が魔術師に通用するのは、魔術師とフェリオンの距離が十分にあることが前提となる。
「竜巻」の起動は、他の魔術と比べてかなり遅い。
アレリアが、詠唱したらすぐ即着する「光線」などの魔術を習得していたらすでにフェリオンは死んでいた。
非常に、非常にやりにくい。
しかも、フェリオンの近くを戦士が斧槍を構えて魔術を発動する機会を潰してくる。
「…くそッ」
フェリオンがうめきながら、足元に竜巻を発動させ、宙に浮かぶ。
「ぁぐっ!」
その風圧でリエルアの身体は少し飛ばされる。
アレリアは目を見開く。
こいつ、何を考えている?
自ら魔術の逃げ場を無くしたぞ。
アレリアは杖を構え、詠唱する。
「水の槍」
「竜巻」
フェリオンの首元に水の槍が突き刺さる前に、詠唱が終わった。
自身の高度を上げたことにより、フェリオンはアレリアの水の槍が伸びる前に詠唱できるようになる。
両腕を広げるフェリオン。
なんとなく、何をするか察したリエルアとアレリア。
二人とフェリオンの目線はヴィアルムに向く。
「メーデル、カレア!!」
「カルト!」
声をかける、だが遅い。
風圧をもろに受け、狼狽える冒険者一同。
「結局これかぁ」
フェリオンのため息が漏れる。
戦いを楽しむ予定を狂わされた。
もうこれは生きるための戦いだ。
何がなんでも勝たなくてはならない。
なら、これが手っ取り早い。
刹那、竜巻は先ほどのように大きく、膨れ上がった。
「あ、ぁぁぉあああああっ!!!」
自分の周りのレンガが剥がれ、竜巻に飲み込まれるのをみて、アレリアは後ろに向かって走り出す。
後ろを振り返る余裕はない。
振り返ったら、死ぬ。
ん?
いやまて。
俺のことを、魔族らは殺せないはず。
じゃあ竜巻で巻き込むのは、
俺以外、だ。
「くそがっ」
後ろを振り返るアレリア。
「………」
もう一度、目を大きく見開く。
その目の前の光景に思わず息を呑む。
でかい。
フェリオンを囲む竜巻は、自然災害というに相応しい代物だった。
「うあああああぁあ!」
メーデル、カレアたちの悲鳴が聞こえる。
目を凝らすと、竜巻の中をぐるぐる回っている人影がいくつか見える。
「カ、レア……ぁ」
言葉が漏れる。
口が空いたまま塞がらない。
これが、絶望というものだ。
どう抗っても、叶わない圧倒的な力。
俺は知っていた。




