第十話「火葬の魔族」
「なんか叫んだぞあの魔族!」
「なんて言ってた!?」
メーデルの叫びに、先ほど任命式前にアレリアと軽く会話をした戦士リエルアが返答する。
助けて。
あいつはそう言っていた。
さっきからずっと気になっていた。
アレリアとすれ違った盲人は二人いた。
片方は魔族。
ならもう片方も魔族と考えるのが普通だ。
もしかしたら、そいつに助けを求めたのだろうか。
「…….……ッ」
アレリアは辺りを見渡し、記憶の中のもう一人の盲人を探した。
辺りの人々は大体が避難していて、そこは王都というにはあまりにも乏しすぎる。
どんなやつだったっけ。
たしか、髪が黒くて、背が高い。
…いない、いない。
思い違いか?
俺の、考えすぎか?
いや、そんなはずが無い。
魔族が、ただの人間の盲人と一緒にいたなんて、信じられるわけがない。
さぁ、早く探さないと。
…ん?
カレアがこっちを向いている。
「アレリア!」
叫ぶ声。
なんだ?
何があったんだ?
少し遠いから顔がよく見えない。
なんて言っているかもよくわからない。
「え?」
「逃げろ、って言ってるよ」
声。
後ろからだ。
身体がゾワっと震える感覚。
硬直したまま、動かない。
これは、恐怖だ。
久しぶりに感じた。
振り返ることができない。
だが、感じることならできる。
こいつは、もう一人の魔族だ。
冷や汗が流れる。
アレリアは声を振り絞る。
「お前………ッ」
「人間じゃないだろ、お前。どこからきたやつだ」
低い、喉の奥が震えるような声。
ヴィアルム。
あの、竜巻を使っている魔族が呼んでいた名前。
こいつが魔族のヴィアルムか。
「……」
感じれなかった。
後ろに立たれるまで存在に気が付かなかった。
魔力が感じられない。
フェリオンの時もそうだった。
やっぱりそうだ。
魔族から魔力を感じることができない。
こいつらは、こいつらが使う魔術は、人間のとは根本的に違う。
魔族の魔術には本物の事象のような、自然そのもののような何かを感じる。
きっと人類は魔族を真似て魔術というものを作ったのだろう。
魔族の使うこれは魔術と呼んではいけないものだ。
それは、
「そいつも魔族だ!殺せ!」
誰かの声。
剣士の三人がこちらに向かってくるのが見えた。
それは、まるで…
「魔ぞ……!」
「火葬」
詠唱。
目の前の剣士三人が光ったと思ったら、一瞬にして燃えカスになった。
黒く、炭のような状態になり、その場に倒れる。
倒れる音はなかった。
死んだ。
この一瞬で。
焼け死んだ。
断末魔を上げる間もなく。
アレリアの喉の奥から一言だけこぼれ落ちる。
「…は」
「お前は生かす。出自を話すまではな」
火葬のヴィアルムがさっき、人を殺したその右手でアレリアの肩に手を置く。
声が、喉が機能しない。
「……………」
アレリアにはそれを振り落とす気力も、活力もなかった。
ただ、絶望していた。
今の一瞬で理解した。
こいつは、フェリオンよりも強い。
全ての技術において、俺はこいつに勝てない。
俺と人類は、この魔族一体に淘汰されるのだろう。
「アレリア!」
メーデルの声。
声の方向を向く。
こちらをみるメーデル。
そしてその向こうには全快した右腕を向けるフェリオン。
アレリアが叫ぶ。
「メーデル!!」
「竜巻」
フェリオンの詠唱。
メーデルの身体は竜巻により横に、大きく飛ばされた。
城壁にぶつかる音。
その音は、アレリアをさらに絶望させた。
フェリオンの視線がこっちを向く。
思わず、身構える。
竜巻の魔族は口を開く。
「ヴィアルム、きてくれたんだね」
「うん、渋々ね」
ヴィアルムはアレリアの背後から離れ、フェリオンの方にむけて歩き出す。
その背中を見届けるアレリア。
震える両手で杖を掴もうとする。
今だ。
こいつを殺せるのは今だけだ。
杖を。
いや、杖なんていらない。
詠唱するんだ。
見えない魔術、だ。
ただそう詠唱するだけで終わるんだ。
この魔族も、俺も。
右手を前に突き出す。
「あれ、大丈夫なの?殺さなくて」
遠くのフェリオンの視線がアレリアに向く。
冷たい、白い目。
「……っ」
さっと血の気が引く。
バレた。
まずい。
ダメだこれは。
死ぬ。
しかし、ヴィアルムはこちらに顔も向けずに、フェリオンと会話をする。
「あぁ、あいつの出自が気になって。あとで聞いてみるから殺すなよ」
「ふーん、ならいいか」
フェリオンは後ろに迫る冒険者たちを竜巻でぶっ飛ばしながら会話をする。
ヴィアルムが問う。
「…俺はあと、何をすればいい」
「うーん、そうだね………」
顎に手を当てて、考えるフェリオン。
二人の奥には、カレアがいた。
「光線」
「あっ」
詠唱。カレアだ。
それと同時に、城壁の近くで倒れていたメーデルが飛び出す。
方向は、アレリアだ。
速い。
一瞬でアレリアを回収して、そのまま奥に走り出す。
「アレリア!無事か!」
「メーデル!」
アレリアが声を上げる。
そして、詠唱と同時に走り出したカレアが叫ぶ。
「逃げろ!!!」
「竜巻」
フェリオンの竜巻はカレアの光線を掻き消す。
しかし、その間に冒険者たちはそれぞれの家の影に身を隠した。
フェリオンは辺りを見渡し、一言。
「見失ったね。一軒ずつ、見て回る?」
「いや」
ヴィアルムは視線を遠くにずらす。
そしてため息をついた。
「めんどくさいのがきた」
「…………」
二人の目の前に降り立ったのは、王宮魔術師3人。
本来、国王に仕える役職の彼らは緊急時はいつでも駆けつけるようになっている。
おそらく、この騒ぎを聞きつけてここにきたのだろう。
王宮魔術師が来たなら、あと少ししたら衛兵の増援もやってくるだろう。
なんとも、やりづらい。
王宮魔術師のうちの一人が、二人の魔族に向けて、一言。
「悪いことは言わないから、死んでくれないか」
「…こっちは手早く済ませよう」
「ん」
魔族二人は静かに笑った。




