プロローグ「無知」
目が覚めた。
ここはどこだ。
視界が眩しくてぼやける。
両手を地面に押し当て、身体を持ち上げる。
「…………」
辺りを見渡す。
何もない、ただの草原だった。
そして、その次に自分の身体を見つめる。
服を着ていた。靴も履いていた。
…誰だ?俺は誰だ?
いや、俺は自分の名前を知っている。
アレリアだ。
初めて目覚めたはずなのに何故かそれだけは覚えている。
何でだ?
俺は立ち上がり、意味もなく歩き出した。
「どこなんだ?ここは…」
初めて話すはずなのに流暢に話せている。
俺は何なんだ?
これは、記憶喪失なのか?
そのまま、太陽の方向に向かってひたすら歩いた。
「…………」
10分ほど経っただろうか。
夢の中にいるような、上の空な感覚は薄れて、だんだん状況を理解できるようになった。
そしてそのすぐあと、俺は初めて命の危機を覚えた。
「グルルルルルゥ……」
「…どうしよ」
草原のど真ん中。
俺の目の前には、小さい魔獣が3匹いた。
こちらに敵意丸出しで、今にでも噛み殺してきそうな気迫だった。
こいつらが脅威であることも、「魔獣」という生物であることも俺は知っていた。
何故。
「………」
言葉が出ない。
心臓の音が強まる。
これは、恐怖だ。
「グァラッ!」
魔獣の1匹がこちらへ飛び込んできた。
避けられない。
もうなす術はなかった。
ガブリ、と嫌な音がする。
「あ」
そして、次の瞬間脛に痛みが走る。
噛まれたのだ。
肉を抉られて、力が入らずにその場に倒れてしまった。
「ぁああ゛ぁ!!!」
悲痛の叫びを上げる。
草原にのたうち回りながら、必死に痛みに耐える。
痛い、痛い痛い!
その間に、さっき食らいついていた魔獣が再び距離をとっていた。
もう一度噛み付く気だ。
次は身体もよじれない。
避けることはできない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
動悸が止まらない。
震える視線を魔獣へと向ける。
目が合った。
俺はもうすぐ、生まれてすぐに再び死ぬのだろう。
「グアァッ!」
魔獣の叫ぶ声。
地面を蹴る音。
無意識だった。
俺の右手が魔獣の目の前に向かっていく。
力が込められる感覚がする。
「見えない魔術」
俺の口から、その言葉が漏れる。
刹那、目の前の1匹の魔獣は消えた。
何も音はしなかった。
ただ、先ほどまで目の前にいた魔獣は空間ごと抹消された。
魔獣の奥にあった地面も抉れた。
何が起きた、
何が起こったか、
全てがわからなかった。
「………ぁ」
あまりのショックに、口が上下しているが声が出ない。
残りの魔獣2匹は恐れを成したのか踵を返して、草原の中に溶けていった。
…全てがわからない。
俺は、この戦い方を知っていた。
この、不思議な力を使った記憶はないが使い方が体に刻み込まれているみたいだ。
「……」
ふと、違和感を感じた自分の足を見る。
完治していた。
なんで。
さっきまで、あんなに肉が抉れていたのに。
心臓の音はより一層強くなる。
過呼吸になり、自分の右手と左脚を交互に慌てて見つめる。
俺は、
俺は、
「…俺は、誰だ?」
その男、アレリアは無知だった。




