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08.二人の背中

 化学の授業は化学室で行われる。

 ふと思い立って、ルイとリオンが喧嘩しながら歩いているのを後ろから眺めた。


 ……背は、リオンの方が高い。

 でも肩幅はルイの方が広い。

 腕や足は長いのはリオンだけど、太いのはルイだ。

 自分の腕を見る。

 ほっそいなあ。私も、少しは鍛えようか。

 アイリの腕、引き締まっててかっこよかったもんなあ。


 ぼんやり歩いていたら、どさっとぶつかった。


「す、すみません」

「前見ろよ、エミリ」

「手を引けばよかったな」


 ぶつかったのはルイとリオンで、二人とも私に手を差し出していた。


「ごめん。でも手はいらないよ。もう化学室ついてるし」

「椅子にぶつかったらどうすんだよ」

「エミリが転ばないか不安なんだ」

「歩き出したばっかの子どもじゃないんだからさ」


 まあ、ぶつかってるから説得力ないんだけど。

 一人でさっさと席に向かう。

 もしかして、二人がやたらと私を構いたがるのも、私から見たら二人がすごく大きく見えるのと同じように、二人から見たら私がすーっごく小さく見えるのかもしれない。

 ちょっと否定できない。

 明日から、牛乳飲もう!


 昼休みにアイリと火渡くんを見かけた。

 火渡くんは元が炎の魔族だからか、背が高い。

 前世では体が炎だったから平気で五メートルとか伸びてたけど、今もたぶん百八十センチ超えてる。

 リオンもそれくらい。

 並んでるアイリも百六十センチくらいあると思う。

 もしかして勇者パーティで私だけやたらと小さい?

 い、いや……そんなことは!


「黒野くん、いるー!?」


 三組に行ってケントを呼び出す。

 すると、なぜかリオンと一緒に化学の教科書をめくっていた。


「何してるの?」

「魔法と魔術と科学の違いの話をしてた」

「へえ?」


 なんか難しいこと言い出したな。


「俺になんか用?」

「そうだった、ケント身長いくつ?」

「百七十三」

「それ、普通?」

「普通、ちょい大きめ」

「そっか……」

「どうした、エミリ。何か悩みか?」


 リオンが心配そうに私を覗き込む。


「……その、私だけ小さいから」

「普通じゃねえの? いくつ?」

「百五十五……」

「普通では?」

「こいつとルイがデカいだけだろ」


 ケントが呆れたように笑う。

 むう、大きい男にはわからんのだ、きっと。


「エミリは、自分が小柄なのが気になるのか?」

「私が小さいから、二人が子供扱いしてくるのかなーって」

「お前バカだなー」

「う、うっさいな」

「小さいからではなく、エミリを好いているから手を差し伸べているんだが……」


 リオンは首をかしげた。

 よくそういうことを恥ずかしげもなく言うなあ。


「エミリ」

「な、なに?」

「僕はお前が好きだよ」

「ちょ、ここ、教室……」


 しかも他所のクラス。

 教室が静まり返っちゃったよ。

 ケントは無視して教科書をめくっている。


「エミリは僕のこと嫌い?」

「えっと、ちょっと、まだわかんない……」

「そっか。今はそれでいい。ゆっくり僕のことを知ってくれ。それからでいいんだ」


 なんだその余裕。

 人生何周目?

 少なくとも二周目だ。

 私もそのはずなんだけどなあ?


「と、とりあえず教室戻ろっか」

「ああ。手をつないでも?」

「だ、ダメです! ノー!!」

「子供扱いではなく、好きだからつなぎたいんだけど」

「なおのこと、ノー!」

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