30.どちらかじゃなきゃ、ダメだろうか
週明け、朝のホームルーム直前にリオンがやってきた。
「おはよう」
「……ああ」
それきり、目も合わせてくれない。
嘘でしょ。
ここまで嫌われた?
「エミリ、真野くんと喧嘩した?」
アコとユウキが目を丸くしている。
それくらいリオンの様子は変だった。
「してない」
「なんか怒らせるようなことした?」
「それは、したかも」
「じゃあ謝んな?」
「うん」
でも声をも生返事ばかりで、全然目も合わせてくれない。
昼休みもすぐにどこかに行ってしまった。
「あれ、リオンどっか行った?」
「ルイ〜」
思わずルイに泣きつくと、彼はパッと腕を広げるので、私は冷静になって椅子に座り直した。
「えっ、なに、どした?」
「リオンに嫌われた……」
「それはねえだろ。じゃあ俺と付き合うってことでいい?」
「よくないよ! 何が「じゃあ」なのさ」
ルイは笑って、私の頭をワシャワシャ撫でた。
大きくて温かい手に安心するのは、前世から変わらない。
「んで? 何があったわけ?」
リオンの席に座って、ルイは私の方に足を伸ばした。ふくらはぎが触れてドキドキする。
止めてくれないかな、ほんと。
「えっと、昨日勉強教わってたんだけど……」
一通り説明を終えると、ルイは呆れた顔になってしまった。
「エミリ、そりゃ、リオンが可哀想だろ……」
「えっ、なんで!?」
「好きな女の子のおっぱい見せられて、なんとも思わねえ男はいねえよ」
「えっ、えっと……つまり?」
「リオンは死ぬほど気まずいんだろ。あいつ、むっつりだし。でもまあエミリが申し訳無さそうにしてればその内戻るから。たぶん……」
たぶんかあ。
結局、私のことが、その、好きだから気まずくて避けてるってことでいいのかな?
それなら、ぐいぐい行くより、ルイの言うとおりに大人しく、しおらしくしておこう。
「それより、リオンに見せたなら、俺にも見せてくれ」
「何を?」
聞き返すとルイはニコッと笑って身を乗り出した。
私の座る椅子の背に手をかけて、顔を寄せてくる。
「おっぱい」
「なっ、バカ! えっち! 見せないよ!」
「残念。でもさ、男なんてみんなバカでエッチなんだ。だから、むやみに見せないで、自分のこと大事にして。エミリは俺と……言いたくないけど、あいつの大事な女の子なんだからさ」
そう笑うルイは、腹が立つくらいかっこいい。
ああもう。
ズルいなあ。
「人の席で何をしているんだ」
ルイの後ろから、ムスッとしたリオンが顔を出した。
「お前がエミリ放ったらかしてたから慰めてた」
「ふざけるな馬鹿勇者」
リオンはルイを椅子から退かせると、不機嫌そうな顔のまま、腰を下ろす。
「あの、ごめん」
「エミリは悪くない」
「ううん。その、無神経だった。ごめん」
「いや、僕も……すまない」
「いいよ。事故だよ、事故」
「……ああ」
やっとリオンが笑ってくれた。
ルイは、苦笑なのか、なんなのか。
「ルイもありがと」
「いーえ。ヤダヤダ、魔王に手え貸しちまったよ」
「借りた手はありがたく有効活用させてもらう」
「うるせー、倍にして返せよ!」
ルイとリオンが言い合ってるけど、二人とも笑ってて、私はそのどちらかなんて選べなかった。
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